第1回

横尾 香央留/糸のゆくえ

2013年8月 フィンランド人ですら知る人の少ない
カルストゥラという小さな町に1カ月滞在し
現地の人の服をお直しさせてもらった。
恥ずかしがりなうえ英語も話せぬわたしは
これまたシャイなフィンランド人と
一定の距離を保ちながら
ぎこちないコミュニケーションをとり
なんとか12着のお直しを完成させた。

お直しした服は日本に持ち帰り
2014年の冬から夏にかけて開催された
『拡張するファッション展』で展示させてもらい
たくさんの方の目の触れるところとなった。
滞在していた部屋をイメージした展示スペースには
服とともにそれを着た持ち主のポートレート
滞在中 毎日小さな文字で書きためた日記や
日本に送った刺繍ハガキなども展示した。

2015年2月 カルストゥラに再び降り立つ。
一日中太陽のしずまない短い夏が終わり
日照時間が極端に短くなる秋のフィンランドは
晴れることも少なくて 人々は心までも曇天。
すぐにでも返しに行きたい気持ちをおさえ
一面銀世界の 光り輝く真冬を待ってからの再訪となった。

1年半ぶりに会うカルストゥラの人々は
見た目こそ変わらなかったが 少しだけ明るくて
あの夏の日よりも うんと愛想良く接してくれた。
言葉がわかる人達が一緒だったからだろうか?
それとも イチゲンさんではないわたしに
お帰りなさいの意も込めて
多少のオマケをしてくれたのだろうか?

その冬のカルストゥラにノーラが
なぜ来ていたのか 実はよく覚えていない。
英語で説明してもらったけれど
わかったふりをしてしまったのかもしれない。
わたしとノーラは市役所の一室で
ミニトークショーのようなものを行なった。
マリメッコのチーフデザイナーをやめたばかりの彼女に
アトリエの様子などを聞きたかったが
そこはまだデリケートだったのか
やんわり回避されたような気がする。
(思い過ごしかもしれないけれど。)
マリメッコのカタログや もっと昔に作った
オペラの衣装などのポートフォリオを見せてもらい、
わたしは過去のお直し写真の載った本を見せたりした。
言いたいことが伝えられないもどかしさよりも
上手い質問すら思い浮かばぬ自分にがっかりしたことと
『あなたは小さなものをつくり
 わたしは大きなものを作る
 その差がおもしろいわね ふふふ』
というノーラの言葉をしっかりと覚えている。

桜の咲く頃 ノーラから小包みが届いた。
なんだろう?と不思議に思いながらもうれしくて
受け取ってすぐ玄関で封を切りながら
『せっかくここで出会ったんだから一緒になにか作らない?』
共通言語を持たないふたりの交換日記ならぬ
交換ニットをしようという ノーラからの提案を思い出す。
わーそれいいね なんてわたしもにこにこ快諾したというのに
ちょうどカルストゥラ滞在記の最終仕上げという
タイミングだったこともあり 苦手な英語
しかもノーラ独特の筆跡の手紙を解読する根気がなく
気になりながらも着手できずに放置してしまった。

もう一度封をあけ 1年熟成させた編み地を取り出す。
ノーラの編み地はやはり わたしには編み出すことの出来ない
独特な色づかいと模様をしていた。

2015年4月10日 エスポーより

カルストゥラでお会いできてうれしかった。お元気ですか。
そして春を満喫してらっしゃるでしょうか。
ひとまず私からのニットレターを送ります。
あれからすぐにニットジャンパーを編み始めたの。
マキシサイズの大きめのロングジャンパーを想定しながら編んでみたんだけど、
小さい方は袖の始まりとなる部分で、
大きい方は前か後ろの身頃になるものよ。
とはいえ、どんなスタイルでも構わないから自由に編み進めていってね。
そして何よりも楽しんで!
とにかく、次に編む人に向けてニットレターを送る前に、
あなたが編んだところまでの写真を撮ることを忘れないで。
そして次の人へ送る前にぜひ私にもその写真を送ってください。
それと、次に編む人が誰かも教えてほしいの。
とても楽しいプロセスになるのは間違いないわね!
どう編まれていくのかが本当に待ち遠しいわ!
またお会いできるのを楽しみにしています。
フィンランドより、親愛の情をこめて。

ノーラ
親愛なる香央留さんへ

横尾香央留

1979年東京生まれ。
ファッションブランドのアトリエにて
手作業を担当した後、2005年独立。
刺繍やかぎ針編みなどの緻密な
手作業によるお直しを中心に活動。

主な著書
『お直し とか』(マガジンハウス)
『変体』(between the books)
『お直し とか カルストゥラ』(青幻舎)
『プレゼント』(イースト・プレス)

主な個展
「お直しとか」(2011/FOIL gallery)
「変体」(2012/The Cave)

主なグループ展
「拡張するファッション」
(2014/水戸芸術館、丸亀市猪熊弦一郎現代美術館)

写真/ホンマタカシ 編集/上條桂子 翻訳/江口研一

《横尾香央留 糸のゆくえ》の記事

  • フィンランドと日本を行ったり来たりのニットの交換日記。絵里さんが染めたキノコ染めの糸を見ていたら、ひさしぶりに染めがしたくなってきた。

  • フィンランドと日本を行ったり来たりのニットの交換日記。ヘルシンキ在住、アアルト大学の学生でマリメッコのテキスタイルデザイナーでもある島塚絵里さんが編み繋いでくれたニットのテーマは『森からの贈り物』。

  • 日本からフィンランドへ。何度も海を行ったり来たりして、少しずつ編み地が足されていく横尾香央留さんのニットの交換日記。次なるアイデアを求め、天然染料で染め物をする宝島染工の大籠(おおごもり)千春さんを九州に訪ねます。

  • フィンランドと日本を行ったり来たりしながら、少しずつ編み地が足されていくニットの交換日記。横尾さんは木工作家の山口和宏さんのアトリエを訪ね、お話をした一日から浮かんだ光景をニットに綴っていきました。

  • フィンランドと日本を行き来し、むくむくと成長していきたニット。次の編み地のアイデアを考えるべく、横尾さんが次に訪ねたのは、福岡県うきは市、木工作家の山口和宏さんの工房でした。

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