第3回

横尾 香央留/糸のゆくえ

フィンランドから遥々やってきた編み地に
手を加える前に ノーラの友人でもある
Satoko Sai + Tomoko Kurahara の
アトリエをひさしぶりに訪ねた。

届いた編み地を見せると
「わぁー ノーラっぽい!」
といって蔵原さんは笑っていたが
もし これを小学校の同級生に見せたなら
「わぁー かおるっぽい!」と言われただろうか?

10才を過ぎた頃 “オシャレ”というものに
突然目覚めたわたしは
黒をこよなく愛する母の落胆をよそに
もやしのような身体を
原色や蛍光色の柄物で着飾っていた。
ノーラの編み地をみて
センチメンタルな気分になったのは
当時の滑稽な自分の姿が
頭をよぎったからかもしれない。

アトリエで作品を見せてもらいながら
フィンランド留学時代の話を聞き
「わかるわかる フィンランド人ってそうだよね」
などと共感していたが
田舎町に1カ月滞在したわたしと
ヘルシンキという都会で3年間を過ごした蔵原さんとでは
見てきた深さや経験に大きな差があるはずなのに
同じ目線に立ち 話をしてくれる。

これまでわたしは彼女達のワークショップに
3度ほど参加しているが いつなんどきも
誰に対しても敬意を持った姿勢に
冬のフィンランドの森に吹く風のような
キリッとした清らかさを感じる。

ワークショップでは素焼きした陶器に
おふたりが撮った異国の写真がプリントされた
転写シートを自由にレイアウトし
水を含ませた刷毛でなでて転写する。
初心者でも簡単にそれとなくはできるが
カーブした側面にシワや空気が入らないよう
ピタリと貼るのは難しく
どうしてもカップを持つ手に力が入ってしまう。

「もう少しやさしく持ちましょうかね…」
形が変形し ひびが入る原因になるのだと
やんわりとアドバイスをもらい
手首をぶんぶん振って力を抜き 再開するも
今度はシートを撫でる刷毛に力が入りすぎて
「もう少しやさしく撫でましょうか…」
と再びやさしいアドバイスが入る。

しかし次第にまた力が入ってきて
“あ、注意したいけどもうこれ以上言えない…”
っていま思ってますよね!?
すみません!!ごめんなさい!!
先走った猛省をし焦り始めると もう止まらない。
えーいっ!シワが寄ったってかまうもんか!!
いつもの投げやりな姿勢が顔を出し
気がつけば〈シンプルでかっこいいカップ〉
という当初のプランとは真逆の方向に
どんどんペタペタ どんどんペタペタ
ごしごしごしごし
シートで余白を埋め尽くしてしまう。

上薬を美しくかけてもらい 本焼きされたカップは
少しゆがみがあるものの ひび入ることも
投げやりな自分を感じさせることもない出来で
いまでも毎日食卓にのぼるほど
特別な日常使いの食器になっている。

蔵原さんとお話していたら
編み地のアイデアが浮かんできて
帰り際 アーキペラゴ(群島)の
小さなピースをいくつかお借りしてきた。
輪郭を厚紙に写して即席のアーキペラゴ判子を作り
紺地には白でペタペタ
白地には紺でペタペタとフィンランドの群島を
ニットの海に浮かべてみた。

横尾香央留

1979年東京生まれ。
ファッションブランドのアトリエにて
手作業を担当した後、2005年独立。
刺繍やかぎ針編みなどの緻密な
手作業によるお直しを中心に活動。

主な著書
『お直し とか』(マガジンハウス)
『変体』(between the books)
『お直し とか カルストゥラ』(青幻舎)
『プレゼント』(イースト・プレス)

主な個展
「お直しとか」(2011/FOIL gallery)
「変体」(2012/The Cave)

主なグループ展
「拡張するファッション」
(2014/水戸芸術館、丸亀市猪熊弦一郎現代美術館)

写真/ホンマタカシ 編集/上條桂子

《横尾香央留 糸のゆくえ》の記事

  • フィンランドと日本を行ったり来たりのニットの交換日記。絵里さんが染めたキノコ染めの糸を見ていたら、ひさしぶりに染めがしたくなってきた。

  • フィンランドと日本を行ったり来たりのニットの交換日記。ヘルシンキ在住、アアルト大学の学生でマリメッコのテキスタイルデザイナーでもある島塚絵里さんが編み繋いでくれたニットのテーマは『森からの贈り物』。

  • 日本からフィンランドへ。何度も海を行ったり来たりして、少しずつ編み地が足されていく横尾香央留さんのニットの交換日記。次なるアイデアを求め、天然染料で染め物をする宝島染工の大籠(おおごもり)千春さんを九州に訪ねます。

  • フィンランドと日本を行ったり来たりしながら、少しずつ編み地が足されていくニットの交換日記。横尾さんは木工作家の山口和宏さんのアトリエを訪ね、お話をした一日から浮かんだ光景をニットに綴っていきました。

  • フィンランドと日本を行き来し、むくむくと成長していきたニット。次の編み地のアイデアを考えるべく、横尾さんが次に訪ねたのは、福岡県うきは市、木工作家の山口和宏さんの工房でした。

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