台所を使うひと セトキョウコさん

「おいしくて体に良いごはんを食べたい、食べさせたい」
と願うひとなら、一日に二度三度と立つ台所。そこですごす時間は決して短くありません。

よくレストランの厨房は戦場のよう、といわれますが、
お腹を空かせた家族を待たせて料理する身にとっては、家の台所だってきっとあたらずとも遠からず。
だからこそ限られた時間で効率よく、ストレスなく働ける条件が整っていることって、じつは重要です。

たとえば、すり鉢を選ぶのかフードプロセッサーを選ぶのか、はたまた両方を使い分けるのかでは、
台所に流れる時間も違ってきそうですし、フキンを白で統一するのか、いろいろなキッチンクロスを集めるのかでは、
台所の主の人となりまで想像できてしまいそう。

台所からうかがわれる三者三様の人となりを拝見していると、
台所は人なり、そんな言葉が浮かんできます。
これから始まるのは、リビングならぬ台所におじゃまして、工夫のあれこれを伺った発見レポート。
読んだ後にはきっと、その台所から生まれるおいしい味が想像されることでしょう。
さっそく、ひとつめのキッチン・ストーリーのはじまりです。

写真 馬場わかな  構成・文 松本あかね

プロフィール:
台所を使うひと セトキョウコさん
料理家。都内を中心にケータリングやイベント出店、雑誌などで活動。月刊『クーヨン』(クレヨンハウス)にて親子のとりわけレシピ&エッセイ「ちいさいおさじおおきいおさじ」を連載(~20153月)。最新の活動予定はこちらから

我が家は築70年の日本家屋。
昔ながらの北向きの台所をパートナー主導で改装。
私にとっては仕事場でもあり、カウンター、収納は
希望を伝えて一緒に作りました。

キッチンペーパーは特等席に
頻繁に使うキッチンペーパーは、天井の梁にパートナーお手製のがっしりした鉄のホルダーを設置してスタンバイ。古い日本家屋は戦前の日本人の体型に合わせたヒューマンスケール。女性でも楽に手の届く高さです。

料理がしたくなるキッチンツール
木の物が多い中、この一角だけクールな印象のファクトリー・プロダクトが集合。と思いきや竹製のお玉(節がお玉の丸い部分になっている)や、ローラー型のパスタカッターなどユーモラスな形のツールも並んでいます。

カウンターはプロ仕様
料理家という仕事柄、パスタも打てばパンもこねるためカウンターは厚い合板製になっています。ケータリングのお弁当がズラリと並んでも長さ、奥行き共に十分のゆとり。4口のガステーブルも必須です。

引き出しまで手作りの理由
調味料の瓶が並ぶ引き出しは、当初『無印良品』のものを使う予定。が、試しに一つ置いてみたところ、手製の空間の中では逆に目立ってしまい…予定を変更してパートナーにオーダー。かくして統一感は守られました。

フキンはいつもカラッと
流し台の前には茶碗用フキン、手拭きタオルが3枚広げてかけられます。フキン類が常に乾いた状態で使える贅沢なスペースどり。と同時に、鍋類を収納する流し台の下の目隠しにもなっています。

始末の良さの秘訣はこれ
新聞紙を折って作った生ゴミ入れ(大小あり)。セト家のシンクに三角コーナーはありません。料理のたびに包み、捨てる。こうすれば匂いに悩まされることもなくなります。美しい始末の仕方としても見習いたい。

武蔵野の地に佇むセトさんのお宅は、バートンの絵本『ちいさいおうち』を思い起こさせます。
この家の歴史とともにある台所はリノベーションされているとはいえ、
火と水を扱う場所としての原点を感じさせてくれます。
便利というより簡素。その分、使う人が手を動かしやすく、体を使って料理のできる台所。
それは、素材の味がじんわりしみてくる、やさしくて力強いセトさんの料理に表れているように思いました。