第4回 糸島シェアハウス

写真:藤田二朗

第4回 糸島シェアハウス(日本・福岡/2013年・初冬)
志田浩一さん、畠山千春さん、川野茜さん、松本大輔さん

志田浩一さんと畠山千春さんは物件を探しながらドライブしているとき、この家を発見。海も山も近く、星が美しいこの場所で、新しい生活を始めることに決めました。
ふたりとも、糸島に移住する以前から暮らしのスタイルは共同生活。だからここで探していたのも、シェアハウスできる物件でした。「もともと車に積めるほどの荷物しか持っていなかったから。普通の家を借りるとなると、家財道具一式そろえないといけないじゃないですか(笑)。ものを新しく買ったり持ったりはなるべくしたくないんです。シェアハウスなら、自分たちが必要なものを、自分では所有せずに、みんなのものとして持って、残していける。そのほうが無駄がなくていいですよ」と浩一さん。テーブルも椅子も座布団も、もらったものばかり。一般家庭で持て余されたサイズの大きな(つまり、この家にはうってつけの)家財道具が集まってくるといいます。

備忘録や連絡網は、冷蔵庫に貼ってあるホワイトボードに。

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現在の住人は二十代後半から三十代前半の7人で、料理人、カメラマン、ミュージシャン、着付師などなど、糸島シェアハウスの構成員として、暮らしに必要な人材として、それぞれがなくてはならない存在です。しかし、もともと知らない者同士が集まって始まった共同生活。住人同士でなにかルールは設けたのでしょうか? 「ここは下水道がないので、水は湧き水を使っています。電動ポンプで家にまわして、下水はそのまま川に流れる。そういうことにストレスなく対応できる人じゃないと無理だろうなとは思っていました。でも実際集まってみたら、自然にそういうことができる人ばかり。僕の頭のなかにはこうしたいとかこれを決めなくちゃとか、伝えなきゃと思うことがあったんですが、そんなことをする必要がない、共通認識をもった、いいメンバーが集まりました」と浩一さん。

土間にはお酒専用の冷蔵庫も。「夏はやっぱりビール。地ビールやクラフトビールが好きなんだけど、いいビールはすぐに飲んじゃうからここには並びません(笑)」。

浩一さんが大のお酒好きなのを知っているお客さんがおみやげに持ってきてくれたお酒が集まったようすは圧巻! 庭で獲れた梅でつくった梅酒をはじめとする果実酒いろいろ、地元のウイスキーなどもそろっている。

瓶づめ保存食シリーズ。塩レモン、玄米塩麹、ハバネロオイル、コーレグースなど。食べ物ではないが、ムカデに刺されたときに塗るムカデのごま油漬けも。

この家でみんなで過ごすのが、みんな大好き。家が好きすぎて、仕事以外ではあまり外出しなくなってしまったといいます。「家にみんなでいる日は、朝ごはん食べて、ちょっと作業して、お昼つくって食べて、昼寝して、夕方起きて、夕ごはん。食べてばっかり(笑)。みんな食べるのが大好きで料理も上手だから、おなかがすいたら誰かがごはんを炊きはじめて、おかずをつくりはじめて、なにつくってんのって集まってきて、そのまま台所で酒盛りが始まる。だから最初につくったおかずは、ごはんの前にほとんどなくなります(笑)」。プロの料理人の浩一さんをもってしても、みなさん残り物を捨てたりせずに、変身させるのが上手だとか。「僕も料理を仕事にしていて、食べ物のことはいちばん大事にしているので、食べ物の感覚が近いのは本当によかった。食卓はみんなで囲みたいですから」。

近所にある糸島シェアハウスの畑で獲れただいこんや、畑に自生しているノビル、間引き野菜など。野菜は、近所の自然農をやっている人から買うこともあります。

浩一さんはタイレストランの料理人だったため、タイ料理の食材と調味料も豊富に常備。「常温保存できる調味料が好きなので、冷蔵庫にはあんまり入ってないんですけどね」。

糸島に来る前に山梨で農業をしていた経験もある浩一さんは、自然が与えてくれる食べ物の恵みをいま、こんなふうに捉えています。「夏場は野菜がたくさんとれて、食べても食べても野菜だらけ。それが秋以降になると、ぐっとなくなるんですよ。そうなったら肉の出番です。野菜や果物同様、肉も季節の食べ物で、冬場の大切な栄養源。だから僕は、菜食主義とかそういう偏りではなく、いちばん自然なかたちでそのとき手に入るものを食べていきたい」。その観点から浩一さんが食べる肉は家畜ではなく、もっぱらこのエリアで獲れる猪とアナグマです。

台所の土間にある業務用冷凍庫には、猪肉が部位ごとに分けられてストックされていました。地元の猟師が仕留めた猪を、浩一さんたちが捌きます。「肉はふだんそんなには食べませんが、もらったら食べるし、お客さんに出したら喜ばれるので。実際、農業被害も多いので、獲らなければならない事情もあります」。

心臓やレバーなどの内臓は、捌いたその日、新鮮なうちにいただきます。お酒やハーブに漬けたり、薫製にしたり。剥いだ皮もなめし、できるかぎり有効利用します。

シェアハウス自体、福岡ではまだ少ないうえに、それが田舎環境でとなると、ますますめずらしい。糸島は海も山もあり豊かな自然に囲まれながらも、都会との行き来もしやすい便利な場所です。糸島シェアハウスでは気軽に田舎暮らしを体験してほしいと、ライブやワークショップも積極的に開催しており、全国から来訪者が引きも切らず。糸島シェアハウスのテーマである、エネルギー、食べ物、仕事(お金)の自給を、今日も開放的に実践しています。

糸島シェアハウス
エネルギー、食べ物、仕事(お金)の自給をテーマに、志田浩一さんと畠山千春さんが2013年に立ち上げた、古民家をリノベーションしながら住んでいるシェアハウス。現在、住人は満員だが、自分で部屋をつくれるような大工は例外で募集中。興味のある方は月1回のオープンハウスへ。
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