イラストレーター・川原真由美さん その後のインタビュー
その2

絵を描く行為って、
自分の性格とつながっているんですね

——今回の原画展に際しての意見としておもしろかったのが、あおきみさん(コピ—ライタ—の青木美詠子さん。川原さんと仲よしで、原画展でも多大な協力をしていただいた)が、「今回のなにがいちばんすごかったかって、カワハラがやる気になったことだ」と(笑)。ずっと川原さんをそばで見てきた、あおきみさんならではの言葉ですよね。

そうですねえ、ほんと。我ながら驚きました。石が動いた!みたいな(笑)。長い不動のときを越え、50歳を前にようやく動きだしました(笑)。60〜70ぐらいになったときに、風船のようにふわふわしてたら最高だろうな。なにも阻むものがなく、ブハッと発揮していられたら。もちろん、その年齢まで待たずにそうできていたらいいですけど。ずっと貯めていたものが動きだすってどんな感じなのか興味があります。今回も、貯めていたからできたことですし。

——それらが一堂に会したことで、川原さんはさまざまな作風をもっているということもあらためてわかりました。

来てくださった方にも、いろんな方向性があるんですねって言われました。以前、スタイル変えないと飽きるよねって同業者に言われたことがあるけど、私の場合、飽きるから統一していないのではなくて、きわめてふつうにやっていて、これなんです(笑)。

——いろんな作風があって器用なのかと思いきや、じつはその逆なんですね。

そうなんです。作風を固定するほうが、私にはできないと思う。仕事内容によって、自然と変わってしまうから。

——今回の原画展の裏テ—マは、資料もなにも見ないで描いたカエルなどの一連のイラストだと感じました(原画展の開催前におこなったインタビュー「絵が描けないという特異体質」参照)。あの衝撃的な(笑)イラストを出したのは非常におもしろい試みでしたし、実際に反響もありました。

あれがおもしろいっていう感想を聞けたのは、自信になりました(笑)。昔の私だったらとても出せないっていうか、真剣に企業秘密みたいなことだったので(笑)。自分の恥ずかしい部分だとかつては思っていました。だけど、あれはあれでいいんだなって、いまは思えるんです。もののかたちを記憶できない体質が、ものを見たり人に会ったりして取材をするいまの仕事のしかたにもつながっているのかなと。それで感じとりたいっていうことなんでしょうね。何回やっても忘れてしまうから、いつまでも飽きないというか。

——そうか、いつもまっさらなんですね。それがさっきの、他人の忠告を受け入れられる柔軟さと関係があるのかもしれませんね。

あー、なるほど。絵を描く行為って、自分の性格とつながってるんですね。

そこに、自分が感じた本質さえあればいい

——原画展開催中、「線を画く」というテーマで、ワークショップもやりました。いかがでしたか?

ワークショップはほぼ初めてで、やる前はドキドキでした。今回は子どもと大人が混じっておもしろかったですね。最後にふたりずつ組になって、お互いの顔を描いてもらいました。人の顔を描くのは嫌がるかなあと思ったので、少し趣向を凝らしました。そしたら、話が止まらないぐらいワイワイ沸き立って(笑)。あれは予想外でびっくりしましたねえ。私も参加したかったぐらい楽しそうで、表現ってすばらしい!と思いました。

——こちらはただ線を画いてもらっただけのつもりが、今後の子育てに役立つって言っていたお母さんがいましたね。
自分で枠を決めていたことに気がついたって。

思いがけない感想をいただいて、とても嬉しかったです。顔のどこから描きはじめたのかをみなさんに質問したとき、その方は輪郭からとおっしゃって。大枠を決めてそのなかに目や鼻を納めていくのもいいんですが、形をとることにこだわらず、もっと自由に、描きたいところから描いてもいいんじゃないか。それは無意識に捉えた相手の魅力だからという話をしました。それは日頃のものの見かたにもつながると。なんでもOKっていう状態で描くとどんなものができあがるのかを、体験してほしかったんです。

——だから考える隙を与えずに、ものすごい速さでどんどん描いてもらったんですね。

なにをやっているんだかわからないところまでいきたくて。そういうところから出てくるみなさんの線や絵を見せてもらうのも楽しかったなあ。ある技術がなければできないということになると、そこで差ができて、その範囲だけの話になってしまう。それだと、おもしろくないじゃないですか。いくら上手に描けても、自分が捉えた本質が表れてなければ。出来はどうでもよくて、そこに本質さえあればいい。それが表現で、むしろ、そこひとつな気がします。