取材・文 松本あかね
写真 米谷享

今のわたしができるまで 第二回「ユーゴさん」中編

小さくたって、
私なりの世界を創っていく

「どこも雇ってくれないから、起業しかない」、と始めたアパレルブランドから、「次世代へ繋がるモノづくり」を理念とした新ブランド誕生へ。
さらに布ナプキンとの出会いは、根っからの働き者のDNAが「使命」を帯びた瞬間でもありました。

2003年、touta.設立

この頃すでに、こうした工作の端々にもユーゴさんの製作を特徴付ける、素材でありモチーフである「端切れ」が登場するようになります。
お金がないから、と始めたリメイクの子供服でしたが、そこで得たものは「あるもので作る豊かさ」。背後には自らも謳歌してきた消費サイクルへの強い危機感がありました。
「自分自身、出産前はその只中にいただけに、これを続けていったらどうなるんだろう、子どもたちが大きくなった頃、世界はどうなってしまうんだろう? と」
その思いは「次世代に繋がるモノづくり」をコンセプトとしたブランドを立ち上げたいという意欲へ向かいます。新ブランドの名前を考えていたとき、盟友の一人が言いました。
「“淘汰”、ってどうかな?」

はじめは、「その言葉は受け入れるには重すぎた」。でも、「“淘汰”、という言葉には、強いものが残るという意味合いもあるけれど、今、自分の周りを見渡して、自分なりのスタンスで「淘汰していく」ということが必要なんじゃないかと。エコロジー的な価値観というのは、片方から見たら理にかなっていることが、もう片方から見たらそうではないということもあります。何が正しくて、何がそうでないか、一口に言えないところがある。でも、そうではあっても、子どもたちのために、どんな世界を残し、創っていきたいのかを一つずつ形にしていくことで、私なりの“淘汰”を示すことができるんじゃないかと思ったんです」

よく手を動かし、子どもたちととことん遊ぶ日々の中で、touta.(トゥータ)を設立。何を残し、あるいは何を残していくのか、自分なりのスタンスを示し、世界観として表現すること。「それが自分の役割。touta.はその表現そのものになる」。
ブランド誕生のきっかけは、盟友のこんなひと言だったのです。


アトリエのアイロン台の前には、ファミリーポートレートのコラージュ

アパレル界のビジネスモデルに「?」

著書『布ナプキン〜こころ、からだ、軽くなる』には当時の決意を綴ったこんな文章があります。

《モノを作るということは、とても環境に負荷がかかるもの。けれど、作るのも、かわいいのも、オシャレなのも好き。どうせやるなら、次の世代へ受け継がれるよう、長く愛されるものを。むやみやたらに作るのではなく、出来るだけ環境に負荷の少ない素材を選んで大切に作り、作るなら作るだけの責任を持つこと。出来るだけ無駄がでないように工夫して作ること》

これがtouta.設立にあたって、自らに課したルールでした。そして素材として選んだのは、「廃材生地」とオーガニックコットン。廃材生地というのは、いわゆる市場で売れ残ってしまったもの、シーズンが終わり廃棄された布、また家庭で不要になった布などのこと。

あえてそれを原料として物作りするということは、シーズンが終われば、在庫を廃棄し、新しいものを作ることを繰り返す、アパレル界のビジネスモデルへのアンチテーゼにほかなりません。そして肌に触れる裏地にはオーガニックコットンを使い、製作途中で出た小さな端切れまで使い切ること。「次世代に繋がるモノ、コトづくり」をコンセプトに掲げた製作に励む中、いよいよtouta.の理念にふさわしい出会いが訪れます。


アトリエの引き出しには、色柄、サイズごとに分けられた廃材布の端切れがぎっしり

まるで「使命」のような——布ナプキンと出会う

前述の著書には布ナプキンとの出会いが、こんなふうに記されています。
一歳の長女のおむつかぶれが、保育園で布おむつを使うようになってすっかり良くなったこと。自身も月経時のかぶれに悩まされていたため、「布おむつが良いならば、布ナプキンもよいのでは」とピンときて、当時まだ珍しかった布ナプキンを取り寄せて試してみたところ、劇的に改善。生まれて初めて生理が待ち遠しくなり、「あったかい、かぶれない」布ナプキンを使い続けるうち、「生理自体が軽くなった」という驚きの結果に至ったとあります。

人生には、これまで吸い込んできたことが、あることをきっかけに形をとって現れる瞬間があるようです。人によってそのきっかけはさまざま。ユーゴさんの場合、トリガー(ひきがね)となったのは、「使命感」でした。
こんなにいいものなのに、どんなに熱く語っても友達はとりあってくれない。やがて布ナプキンに対するイメージはもとより、生理自体へのイメージも良くないことに気づきます。そこで啓示が訪れました。女性はかわいいものが好き。まずはかわいくないと選択肢に入れてはもらえない。ならばファッションに敏感な友達も使いたくなるような、《みんなが使いたくなる布ナプキンを作ろう》。そしてこの《生理が愛おしくなるし、面白いし、楽しくなっちゃいました》という気持ちを同じ女性の皆さんに知ってもらいたい。こうして、表地に色柄を使ったスナップナプキンは生まれたのです。


七つ道具(?)がきっちり収まる、職人魂を感じさせるツールポケット。もちろん、お手製

リサイクルは簡単?「廃材循環プロジェクト」

スナップナプキンの肌に触れない表生地には、「廃材生地」が使われています。見た目にかわいく、おしゃれな生地が、実は廃材を再利用したものであること。それはtouta.の理念に沿う試みではありますが、仕入れた生地を使うことに比べ、製作の上ではハードルをあげることでもありました。

アトリエには、素材別、織り方別、色柄別に、同サイズに切り分けられた端切れが、きっちり引き出しに分類されています。廃材生地をこのように材料として使える状態にするためには、まず素材を確かめ、洗浄、地直しするプロセスが必要です。新品の欲しい色や柄の布を必要なだけ仕入れて使うことに比べ、幾工程も加わることに。ユーゴさんは廃材生地を素材として使用できるようにするこの工程を「ネオパッチワーク!!!」と名付け、touta.独自の手法としています。こうした手間暇をかけてまで、廃材生地こだわるのはなぜ?


回収した廃材生地は洗いをかけた後、アイロンで地直し。定型サイズに裁断してストック

「あきっぽいから、いろいろな生地があるのが楽しいというのもあるけれど」、と前置きをしながら、
「私はパッチワークブランドがやりたいわけではないんです。世の中にはこんなに使われないまま破棄されようとしている生地がある。ほかにしようがないから、廃材や古着を使っているだけ」。
パッチワークをするために端切れを集めているのではなく、廃材や古着をリユースする手段として、パッチワークという手法を採用している、とユーゴさんはいいます。廃材生地を使う場合、素材や色、柄を選ぶことはできません。毎回、異なる端切れを扱いながら、「かわいく、オシャレに」まとめあげるには、技術とセンスが必要に。またクオリティを落とさず、理念にかなった商品として量産していくためには、プロセス全てに神経をはりめぐらし、作業することが求められます。なぜ、そうまでしてあえて難しいチャレンジを自らに課したのか。

「もともとtouta.を始めたのは、子どもたちのため。子どもたちとその友達、子どもたちが好きになった人、その家族の生きるこれからの世界のため。そのために何かしなければ、世界が終わると思ったから。だから、あるもので作るって楽しいよ、豊かで気持ちの満たされることだよ、という世界観を伝えたくてやってきたんです。子どもがいなかったら、touta.は作らなかったし、続けていかれなかったと思います」
全ては子どもたちに「あるもので、新しいものを作ることができる。そうやって新しい世界を創ることができる」ということを伝えるため。たとえ小さなアクションでしかなくても、これからのための新しい世界観を創らなければいけないと思ったから、といいます。

理念を携えた商品を小さなアトリエで量産する、そのためにスタッフが迎えられ、廃材の収集、洗浄、裁断、縫製まで一貫して行う体制が整えられました。
こうして、touta.の布ナプキンは完成形を迎え、頒布先もどんどん広がっていったのです。


通りに面してロックミシンが並ぶ。カーテンやシートカバーにパッチワークがふんだんに使われる

後編へつづく

お話を聞くひと

ユーゴさん
布ナプキンをはじめ廃材生地×オーガニックコットンの創作を手がけるブランド touta. 主宰。布ナプキン協会理事。 “キュート・ハッピィ・ラブ・ピィース !!”をテーマに活動。東京・世田谷の実家の町工場跡にアトリエと予約制ショップ兼マルチスペース「upopo by touta.」を構える。
touta.org

ユーゴさんの本

『布ナプキン〜こころ、からだ、軽くなる』

U5さん自身の布ナプキンとの出会いのエピソードから、これまでの月経の概念を変えてくれる布ナプキンの可能性をとことん追求した本書。東日本大震災を機に加筆した新装版では非常時に心強い「布ナプキンの使い方“緊急編”」も収録。

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