recit

古道具“recit” 古いものの、ある暮らし
〈第二十五回〉

西荻窪の外れに、ひっそりと佇む古道具屋、“recit”(レシ)。
さまざまな国や場所、時代からやってきた古いものたち。
ひとつひとつのものには、それぞれの物語があって、
またここから新たな物語を刻みはじめるため
静かにその時を待っています。

そんな“recit” の店主 川上美保子さんにセレクトいただいたものたちと、
川上さんが写真と言葉で綴る、読み物「この場所から見える風景」。
あわせてお楽しみください。

“recit”店主 川上美保子さんの連載
『この場所から見える、風景』

『指ぬき』

イギリス南部のアンティークの市で革に丸い金属の付いたベルトを手に取り、「何をするものですか?」と訊ねると、運針の仕草で大きく手を動かしながら、靴や馬具の革を縫製する時に使う指ぬきだと説明されました。

穴の部分に親指を通し、手にはめるもの。
既に役割を果たし終え、しずかに憩っているかのような古い道具は、見ているだけでよいのです。
工房で前掛けをして古椅子に腰かけ、作りかけの靴を膝にのせて縫い合せていく職人の姿が、ふと目に浮かぶような気がしました。

数年前になりますが、桑の枝から葉を落す鋏を扱ったことがあります。
親指にはめ、刃を枝にあてて動かし、葉を一度に摘む養蚕の道具なのだそう。
用途を限り、手の形、指の動きに合わせて作られている為、他にない形で
元々は刃物ですが、古びておとなしく丸くなり、とてもきれいな物でした。

裁縫箱の隅にしまったままで忘れていたフランスの指ぬきをひさしぶりに付けてみると、
自分の指で型を取ったようにくぼみにすっと右手の親指がおさまりました。
前の持主はこれを指にはめて多分沢山の縫物をしたのでしょうと追想すると自分の指先ではないような不思議な気持ちになります。

農作物を刈る鎌から手を守る木製の防具、革や布製の子供たちの野球グローヴ…
手の記憶を宿す古い道具を時間をかけて集めていくと愉しいかもしれない、と考えています。

recit(レシ)
東京都杉並区西荻北 5-26-17 Tel:03-3397-6136
営業時間:11:30 〜 19:30 火曜定休