しっくりとなじんだときが、その器の美しさ
田村文宏さんの器

軽やかで力強く、型を使っているかと思えば手の跡もしっかりと残っている。
男性的でもあるし、女性的でもある。
田村さんの器には両極の性質が備わっている感じがしますが
それはホンジュラスとカンボジアにおける作陶指導の経験や、
東南アジアの器への興味といったものが少なからず影響していそうです。
使ってやがてしっくりとなじんだときに、器は完成すると田村さんは言います。
すべてにおいて意識が行き渡ったしっかりした器をつくりたい、と。

田村文宏さんインタビュー

──陶芸を始めたきっかけは?
 「ずっと野球をやってたんですけど、大学生のときにケガをして続けられなくなったんです。困ったな、これからどうやって生きていこうかと考えたときに、ものづくりの仕事をしていきたいと思った。瀬戸の大学でまわりに瀬戸物がいっぱいある環境だったこともあり、焼き物をやろうかなということで、大学を卒業してから愛知県立瀬戸窯業高等学校に進みました」
──卒業してすぐに、ホンジュラスに陶芸指導に行かれましたね。
 「そうなんです。卒業して1年めに行けることになりました。ホンジュラスという国は女性の地位が低くて、それがすごく問題になってるんです。そこで、女性たちが手に職をつけて自立できるようにとプロジェクトが立ち上がりました。いろんな街でそういうグループをつくって、その人たちが自発的にやりたいことを決めるんですね。僕が行ったサンタ・リタという村はもともと瓦をつくっていたところなので焼き物をやろうということになり、誘ってもらえることになりました。
 まず窯焚きを薪でやらないといけないし、道具もひとつずつ全部つくらないといけない。条件的には厳しかったけれども、やれることはとてもシンプルで当たり前なことなんですね。だから、すごく楽しかったし、勉強になりました。
 ほんとはそれじゃいけないのかもしれないですけど、全力でやるっていうのは大前提として、教えるというよりも一緒に仕事をする感覚ですよね。自分の知ってることは伝えたけれども、でもやっぱり学ぶことのほうが多かった気がしますね。
 この体験は、その後の自分の制作に絶対に影響していると思います。行った当時は、どういうものをつくっていきたいかといった自分の考えもブレブレでしたから。そういうときに行けてよかったなと思います」
──そして、カンボジアにもやはり陶芸指導に行かれました。
 「現在進行形のプロジェクトで、来年(2012年)初頭からまた行ってきます。こちらは益子の方たちが中心に進めてるプロジェクトです。
 東南アジアの昔の焼き物にすごく興味があるので、行けることになってすごく嬉しかったです。カンボジアには昔、クメール焼きっていうすごくいい焼き物があったんです。いまはその技術が全然なくなってしまってるんで、プロジェクトにはその復興という意味合いもあります。
 東南アジアの焼き物のおもしろいところは、中国からの影響もあると同時に、反対側のイスラム圏からも文化が入っているところ。ミャンマーやビルマのあたりは、イスラムの影響のほうが強いんです。釉薬とか技術とかはイスラムで、表現はミャンマーといったように、うまく交ざっててすごくおもしろい。だからカンボジアに行っているときは、休日はバスに乗って首都まで行って、昔の焼き物を見に骨董屋をまわります。中国のものもいっぱい見られるし、ほんとにおもしろいですよ」
──お話を聞いて、経験されてることが作品に出ているようで納得です。実際の作陶について教えてください。
 「鉄釉印花皿と白磁輪花皿のシリーズは、型を使っています。印花は、ろくろをひいたものを、自分で絵を描いた型に打ちつけます。型を使ってますけど手の仕草も出るから、僕には合ってるんです。
 いま僕がつくっている器は鉄釉と白磁と粉引が多いんですけど、焼き上がりに関しては、この3つはなんとなくよくなってきたかなという感じです。自分ではまったく同じようにやってるのに全然違うものができることもあって、ときどきびっくりしますが(笑)。窯出ししようと思って蓋開けて、そのまま閉じたことありますもん(笑)。でも他の作家さんのところに行っても山のようにロスがあるのを見たりして、失敗しないといけないのかなとも思います」
──どういう器をつくりたいのですか?
 「器って、焼き上がったときというよりは、使っていて初めて完成するような気がします。自分が使っててしっくりとなじんできたときは、きれいだなって思いますし。飽きずに使っていける器って、土も釉薬も形も、すべてにおいて意識が行き渡っていてしっかりしたものだと思う。だから、漠然としてますけど、長く使ってもらえるものをしっかりつくりたいですね」

田村文宏
1978年 愛知県岡崎市生まれ
2004年 愛知県立瀬戸窯業高等学校陶芸専攻科卒業
その後、ホンジュラス共和国やカンボジアで陶芸指導&制作
(2005年〜2010年の間に3回)
現在、愛知県岡崎市で制作