学力が伸び続ける、本当の基礎とは?その3

「遊ぶ力」のこれから

 

学習教室「学び舎こいく」で暗記や反復作業ではない「絵で解く算数文章題」を実践。さらにコミュニケーションしながら頭をきたえるボードゲームタイムを取り入れている滝大夢先生。
前回は4人の子どものお父さんでもある先生が移住した糸島のご自宅におじゃましました。最終回の本編では、お母さんと子どもの関係について、その後の人生にも連なる「遊び仲間」の存在についてお話を伺いました。

家の横は沢という贅沢。 <写真提供>

お母さんたちも変わっていく

「糸島に遊びにきませんか」、毎年夏が来ると滝先生はこいくに通う子どもたちを誘います。名付けて「夏の課外授業」。鶏と遊んだり、ピザ釜でピザを作ったり、テントを張ってキャンプしたり。中には魚獲りのうまいお母さんがいて、率先して沢に入ったり。
「お母さんたちもリラックスしてくれているのかなあ……」
糸島での暮らしに触れることで、こういう生き方もあるんだな~と感じてもらえれば、と考えているそうです。

ワイワイ、お父さんもお母さんもリラックス。 <写真提供>

こいくには幼稚園をシュタイナー園で過ごした子どもたちもやってきます。自然育児的な視点で、のびのびと遊ばせてきた家庭もあります。結果を求められない幼稚園や保育園から最速で答えを求められる小学校への移行は、子どもたちにとって大きな変化。同時にギャップに戸惑う我が子を前に、お母さん自身の不安もまた大きなものがあるそうです。

台所の窓から。

そうした中、先生は繰り返しお母さんたちに話します。
「考える力を育てるために遊ぶ力が大切。遊ぶには時間がないといけないから、宿題とかは多少いい加減でもさっと済ませて、長引かないように。習い事もあまり入れ込みすぎないで。テレビ、デジタルゲームはあると時間を奪われてしまうから、低学年のうちは制限してほしい。放課後に時間がたっぷりあれば『暇だー』という過程を踏むかもしれないけれど、必ず何か熱中できるものが見つかるはずだから」

子どもは名コレクターでもある。

不安に振り回されないためには、時にベクトルを自分に向けてみることも有効だといいます。
「子どもというのは思い通りにいかないことを突きつけてくるもの。自分とは別の存在だからコントロールしようとするとうまくいかなくなる。それよりもお母さん自身がより良い方向へ向かって挑戦して、常に成長しようとしていると、子どもはその背中を見ています」

たとえ子どもに問題があったとしても、自分自身をより良い方向へ変えていく姿勢を貫く。すると自然に子ども自身も良い方向に向かっていくものだと。

何を思いながら歩いていく?

相互の関りを実感することで、「この子のおかげで自分は成長できている」と気づくお母さんも。
「良い意味で不安を手放すことができれば、いつのまにか状況が好転していた、というケースは多いです。子育てを通じて、自分だけでは得られなかったであろう気づきを得る方も多いようで、子どもが先生のように思えると話してくれますね」

「自然」と「仲間」の間で

前回の『学習塾のボードゲームタイム』では「意識して遊ぶ力を鍛えることが必要な時代」という見解をお話してくれた先生。今回はご自身の糸島での暮らしについて伺いました。……となると、やはり自然豊かな環境への移住がベストな選択なのでしょうか。

「都会に住んでいても、風は吹くし雨は降る。自然は存在しています。受け取る側の意識次第です。親が身近な自然を大切にしていけば、子どもに伝えていくことができる。子どもはもともとそういう感性を持っています。「近づきたがる」し、「汚れて」きたり、「持ち帰って」きたりする。そこで汚い、気持ち悪いと否定しないで。逆に自然との関わり方を、大人が子どもを先生にしてみつめなおしていくことができると思います」

もう一つ、「遊び仲間」の存在も重要です。
「仲間、人っていうのも自然のひとつ。つまり自分ではコントロールできないもの。人工物に囲まれていると、コントロールできない自然と向き合うのは大変に感じる。けれどその大変さを超えた面白さが人生を豊かにしてくれます」
人工物に囲まれているだけでは得られない境地があることを、子どもたちには知って欲しいと話します。

映画『スタンドバイミー』のような夏が必要だ <写真提供>

飛び込む勇気

自然に勝る遊び場はないけれど、都会の公園でも遊び仲間がいる子はとても恵まれている、と先生。
「低学年で友達と遊ぶ楽しさに目覚めた子は、高学年になると勝手に友達と待ち合わせをして遊ぶようになります。でもその楽しさを知らないと家でデジタルゲーム三昧になってしまう場合も」

なぜならその方が楽だから。友達の中に入っていくことは勇気がいることだから。
「デジタルゲームはエンターテイメントとして楽しくできるようになっているし、なんでも自分の世界にこもってやったほうがストレスはないでしょう。でも狭い空間に閉じこもってずっとスマホ、というのが常態化してしまったら、外には広い世界があるのに、そこから抜け出せなくなってしまう」
先生の眼差しは今だけでなく、子どもたちの思春期、青春期そのまた先を見つめているようです。

誰しもやがて大きくなる。

「過去の自分」と比較する

小学校時代はまず楽しむことがいちばん。と考えると、過多な宿題や習い事で自由な時間が減っていることと同様に、成果を要求する風潮も、子どもを疲弊させているのではないかと気になっているそう。
「今の小学生は勝ち負け、競争にさらされすぎていると思いませんか。習い事、スポーツ、学校でも表彰とかスタンプとか、どこかで競争させられる。もう少し大きくなればいいけれど、小学生ではまだそのストレスに耐えられない。自分は周りと比べてどうか、ということに疲れている子が多いと感じています」

今日は特別におうちでボードゲームタイム。

その子の目が輝いているかは見ていればわかる。大切なのは没頭する、集中する時間をどれだけ持てているか、ということ。
「楽しいこと、好きなことに熱中しているといつの間にか上達している自分がいる。楽しんでやっているうちにどんどん変わっていく、成長していく自分を実感できれば。そうした過去の自分との比較みたいなものは、決して裏切らないから」

指の先に何をみつけた?

「今は周りとの比較でしか、自分を捉えられない時代。その中でもし自分自身で立っている人間がいたら、いろいろと周りから浮くかもしれないけれど、その人は幸せな人生を生きていけるんじゃないかな」

大人が悩みながらも、自分の生き方を定めていく。常に自分をより良くしようとする姿を見せるのが教育だと思う、と先生。その飄々とした背中も、きっと何かを子どもたちに伝えているはず。そんな大人が増えていくことで、子どもも、また大人自身も楽になるのでは? そんな思いを胸にちらちら雪が舞い始めた糸島を後にしました。

滝 大夢 先生
福岡市内の学習教室「学び舎こいく」主宰。大手進学塾に勤務後、独立。糸山泰造先生が提唱する『絵で解く算数文章題』を主なテキストに、じっくり考える力を育てる個別学習指導を行う。2014年より家族6人で福岡県糸島市在住。
koiku.petit.cc/muscat2b/

撮影:白木世志一
構成・文:松本あかね
写真提供:滝大夢(学び舎こいく)