本当に伝えたいことは言葉にしないほうがいい。石川隆児さんインタビュー

「本当に伝えたいことは言葉にしないほうがいい。お皿を使い続けたい人に届くなにか」

アンティークのエッセンスが香る、すっと立つひとつの哲学を感じさせる器。作り手は、Instagramを中心にその人気が広がる石川隆児さん。今回、縁あって、プロダクトシリーズの第一弾であるオクトゴナルプレートをくらすことオンラインストアとごはんとおやつ、雑貨の店くらすことにてお取り扱いをさせていただくことになりました。 普段着のようにそのひとの生活に馴染んだところからはじまっていくという器。 新しくスタートしたプロダクトシリーズにまつわるお話を伺いました。

Photo:Haruki Anami

プロダクトシリーズをはじめようとした思い

作家さんだと自己表現ということかもしれませんが、僕からすると、器はコミュニケーションツールみたいな感じなんです。
器があると、 「素敵ですね」、「この器、使いたいです」ってことから、器が名刺になるんですよね。「これを作っているものです」と言えば、こちらに興味を向けてもらった状態でやり取りができるので。
結局、自分が人の“楽しさ”に関わりたいだけなんです。 自分が楽しい空間に関わるために、器が僕の場合必要なんです。器がなければ皆さんとも誰とも知り合えていないっていうことなんで。だから、たくさん作って、たくさん出せたらいいなと思ったんです。いろんな人と関われる可能性が増えるといいなって。

工業製品として価値のあるもの。手作りと量産の棲み分け

世の中に工業製品のお皿はたくさんありますが、工業製品は工業製品の良さというものが絶対あると思っていて。だけど多くの工業製品は、あまり使いたいとは思わない感じがある。それは何でなんだろう?と考えて、まず、自分なりに納得のいく形にしてみました。
工業製品は手作りに劣るものではなくて、工業製品としてちゃんと価値のあるものを作れば、ちゃんと手作りのもの、工業製品のもの、と、それぞれ生きることができると思ったので、それを今一生懸命やっています。
そうすると、思っていたよりも工業製品の方のリアクションがたくさんあったので、ちょっとびっくりしています。

八角形の皿は手作りでも作っていたんですが、プロダクトの方は一回り大きくしてみたんです。量産のお皿はやっぱり実用性を高めた使いやすいお皿にしたくて、盛り付けしやすいサイズ感にしました。とはいっても、きちんと測ったりしないで、体感でこんな感じかな?というようにやっていったら、すごくいい感じに収まったんで。
トーストに卵とベーコンみたいなモーニングプレートもいけるし、お昼はパスタとか。夜はお肉を焼いたものや炒め物などのおかずやデザートも。ケーキやドーナツとか、のせればなんか様になるような。
やっぱり手作りは味わいが魅力で、量産は実用性みたいな。そういう棲み分けは、 はっきりテーマとしてやっています。

白で迷うことをしてほしい

僕、白がすごく好きなんですけど、白というものを今までプレーンだと思っていたんです。無色みたいな感じで。
でも、古い器をみてみると、どれも白だけど、全部違う色っていうことあるじゃないですか。古いものって白の色彩がすごく豊かなんです。だから、白で迷うということをしたいししてほしい。僕は白だけで5色ぐらい欲しいと思っているんです。
白は無色ではない。プレーンではなく白という色があるよねって、そういうのを伝えていけたらいいなと。自分が白を考えるときは、さらっとした白が欲しいとか、しっとりとした絹みたいな白が欲しいとか、きれいだなって思う白の印象を言語化して、それを釉薬にしたいという思いはありますね。
今回のプロダクトの色は本当にシンプルに、気配の消える白と大量生産の貫入白がほしくて。2つ比べると色の違いがわかるようにしました。

普段のものになった時から始まっていく。普段着のように。

本当に伝えたいことって、やっぱり言葉に絶対しない方がいいと思っていて。言葉にした瞬間にわかった気になられちゃうと、意図した方向で伝わらないことも多い気がするんです。言葉で言うと最短距離で行くように見えるけれど、遠回りした方がちゃんと理解してもらえるだろうなと思うので。「このお皿を使い続けた人に何かが届く」、というようなことを、僕は考えているんです。

「やっと手にできた、石川さんの特別なお皿」って、思ってくださっている方もまだいらっしゃるかもしれないですけど、 そんな思いがなくなって、その人の家の中に馴染んで、その人の家の一員になって、そこからが始まりっていう感じなんですね。熱量が高い状態はまだ始まっていない。熱量が下がって、もう普段のものになった時から始まっていく。道具ってそういうものだと思うんです。普段着みたいな。
結局、暮らしの中に美しさってあるよね、みたいな話なんです。特別なお店に行って、特別に高い料理を食べて、そういう特別な体験もあるんですけど、このお皿があれば家の中でもすごく素敵な時間が作れるんじゃないかなって。そういうのが作れたらいいなと思って作っています。

きっかけになる器、暮らしの先を描ける器

いい器ってなんなのかって、大学生の時からずっと考えているんです。これって哲学かもしれないんですが、その問いに対して、みんな違う答えがあると思うんですよね。最近、やっとこれかなと思う答えがあって、今の自分にとっては“きっかけになる器”かなと思うんです。
この器があるからお菓子を買いに行こうとか、この器を使いたいから、普段はあまりやらないけど、料理頑張ってみようとか。友達とのお茶会で「どっちの器がいい?」と選んでもらったり。そんなきっかけが生まれるようなものは、いいものだと言えるんじゃないかと今は思っています。暮らしの先を描けるものというか。これがあるから次を考えられるみたいなことが道具としては優秀、というか満たしているのかなと思うんです。

嫌いじゃないものを選ぶ。65点から75点ぐらいが好き

物を選ぶとき、これは好きなもの、嫌いなもの、好きじゃないもの、嫌いじゃないものって4つあるじゃないですか。僕はその中で、嫌いじゃないものを選ぶんです。プロダクトの最後の形の決定も、いやなところはないなって感じで決定しました。いやなところがないってことは、いいものってことなんですよ。でも、好きなものまでいっちゃうと、好きっていうのが飛び出ているんです。好きって魅力が飛び出ているものは、時間が経つと飽きる。でも嫌いじゃないものって、自分の経験的に飽きないんです。例えば着るものを買う時も、インナーとかいやじゃないものは全然買えるんですけど、 あ、これいいと思って飛びついたものは大体着なくなる。
好きっていう感情は、さっきの話でいくと感情が高ぶっている状態じゃないですか。感情の高ぶりが収まってから、本当の勝負が始まるっていう。道具として馴染むフェーズに入ると思うんで、淡々と使ってほしいですね。

僕は65点から75点ぐらいが好きなんです。 つまり、嫌いじゃないものを数値化すると、そのぐらいの気がするんですよ。すごい好きなものって、95点とか100点に近い数値じゃないですか。65点とか75点くらいが僕は居心地がいいので、つくる器に関してもそのぐらいで収めておくと、料理のために35点から25点の余白が残せる。例えば、食材がもっと50点60点70点とかの仕事をしてくれると、 満点が100点だったはずなのに料理によっては150点とかの結果が出るんですよ。
でも器の完成度を求める側に、95点とかのものができたって出したら、もうはじめから食材が負けちゃうんですよね。だったらこの器は使わない方がいいね、みたいな。

意識から離れた器

つい手が伸びる器って、自分の脳じゃなくて体が反応している感じがするんです。やっぱり考えすぎない。動物的な感覚というか、頭で判断してないっていうのがすごい重要で。
意識から離れた器とか、そういう領域に入っていけるかどうか。その人にとって、もうそれがないとダメみたいなところまでいけると、道具として長生きすると思うんですよね。数百年残っている古い器とか、そういうようなことだと思うんです。誰が作ったかもわからないし、その情報の価値じゃなくて、物としての価値で生き残っている。これは石川さんの皿っていうように、今は多分情報で生き残れているんですが、情報がなくなっても、このお皿を使い続けてもらえるのかどうか?というのが勝負じゃないですかね。

目指すのは、人に寄り添い暮らしを支える「働く道具」

次の新作の形も既に作りはじめていて、10年後には20種類ぐらい欲しいなと思っています。アイテムとしては、「定番のもの」。それは形の話ではなく、その人の暮らし”にとっての「定番のもの」が理想だと思っているので、食卓や暮らしの中でのポジションのような話なのかもしれません。あくまで、僕主体(形)ではなく使い手主体(暮らし)で在れるような状態が理想的なので。
お皿が果たす役割は、特別なお菓子を自分や誰かと共有するときのものであったり。
花器は、暮らしのハレとケを楽しむためのものなど、そうした暮らしや馴染みの良い景色に“繋がるかたち”、“馴染む形”が必要なのだと思っています。

具体的なアイテムとしては、好きな器を手にするとき、カップなのかプレートなのか、まず”はじまりの器”のようなものがある。そこから、2つ目、3つ目と自然に器が増えていく。そういう流れる景色のように、量産の器のラインナップも考えていきたいと思っています。

プロダクトのお皿に関しては、重ねることもできるので、食堂の食器みたいなイメージですね。食堂の器って、働くっていう感じがするんで、「働く道具」みたいなもの。
「働く道具」というのは、人に寄り添い、暮らしを支える器ですから、”その人にとってなくてはならないもの”を目指しているつもりです。

1985 東京生まれ
2013 愛知県瀬戸高等技術専門校 修了
2015 東京都に工房を構える
 以降、展示会を中心に活動
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