第2回 「掴む」か、「挟む」か?

お話:松田恵美子
イラスト:阿部伸二(カレラ)

たとえば水の入ったコップを、あなたならどうやって手で持ち上げますか?
親指はきっと、たいがいの人が使いますね。
では、その親指の相棒は、どの指にさせますか?

きっと、親指と人差し指でコップを
「掴む」、あるいは「握る」人が多いと思います。

いまと同じ手の形で結構ですから
今度は親指と小指(+薬指)でコップを「挟んで」みてください。

動作としては同じなのに、どの指を意識するかによって、なにか違いを感じませんか?

前者はコップが重く、後者は軽く感じるはず。
なぜでしょう。それは、身体のなかのつながりの違いです(同時に、気の流れが生じます)。

「掴む」手は、おもに親指を使います。親指から気の流れがつながっているのは、肩、首、頭。
上半身だけを用いて指先だけで持ち上げる姿勢になるために、重く感じます。

「挟む」手は、おもに小指(+薬指)を使います。挟む手の動きをするとキュッと締まる手首、これが秘訣です。締まった手首は、肚と腰につながっていきます。重心も下に安定し、腰を用いてコップを持ち上げる姿勢になるので、軽く感じるのです。

親指に力が入ると、肩にも力が入ります。とくに冬は寒さで縮こまってくると、上半身の緊張が抜けづらく、気は上へ上へと向かいがち。人間の身体のありかたとして本来理想的である、下半身に重心が落ち上半身に気張りがない体勢(上虚下実)にするためにも、意識して気を下ろしていきたいものです。そのために有効なひとつが、ものを持つときに小指(+薬指)を使うことなのです。コップを持つという動作ひとつにしても、「挟む」ことを意識するだけで、身体を楽に扱うことができ、所作も美しくなります(というより、所作には効率的な身体の使いかたが含まれているのです)。まさに一石二鳥ですね。

松田恵美子(まつだ えみこ)
身体感覚教育研究者。日々の動作や日本文化における型などを感覚からひもとき、日常生活に活かせる知恵や技として活用することで、自分の身体を自分で育む姿勢を指導。著書に『身体感覚を磨く12ヶ月』(ちくま文庫)など。