第2回

横尾 香央留/糸のゆくえ

satoko sai + tomoko kurahara

お直しから縁がつながり、フィンランドはカルストゥラという、ヘルシンキに住んでいる人も聞いたことがない名前の町(いや村?)に滞在し、そこに住む、素敵な住人の皆さんのお直しをした横尾香央留さん。(その内容は著書『お直し とか カルストゥラ』にまとめられています)

カルストゥラの作品を現地で展示した際に、一人のテキスタイルデザイナー、ノーラ・ニーニコスキと出会います。「ニットの交換日記をしない?」彼女は、そう提案すると、鮮やかな色のニットの編み地を横尾さんに送ってきました。

編み地を目の前にして、約一年。編み地は放置状態に。普段は「お直し」をする相手の顔を思い浮かべてものづくりをする横尾さんは、少々困ってしまいました。でも、さすがに1年以上ノーラからの編み地を放置するわけにはいきません。まずは、重い腰を上げて、この編み地の続きのヒントを探るべく、気になるものづくりをする人に会いに行くことに──。

向かったのは、Satoko Sai + Tomoko Kuraharaさんのアトリエ。 崔聡子さんと蔵原智子さん、女性二人の陶芸ユニットです。量産と手仕事を組み合わせることで、「デザインとアートと工芸の境界」の作品づくりをされています。蔵原さん、実はノーラと友人だったそうで、二人の話はそこから始まりました。

横尾香央留 これがノーラから送られてきた編み地です。ノーラとはお知り合いなんですよね? まさか日本に留学していたなんて知りませんでした。

蔵原智子 そうなんです。ノーラは多摩美とアアルト大学の交換留学で来ていて。2000年前後だったと思います。当時、ノーラはピーア・リンネと一緒に「リンネ・ニーニコスキ」という女性二人のユニットをやっていました。私は、その後ヘルシンキに留学するんですが、その時もノーラとピーヤが大学を案内してくれたりして。

横尾 蔵原さんはいつごろヘルシンキに?

蔵原 2002年〜2005年です。アアルト大学というところで、アラビアの工場がある建物なんですが、ノーラたちのテキスタイルと同じビルで勉強していました。だから、横尾さんがカルストゥラに滞在していた時の『お直し とか カルストゥラ』の文章を読んで、本当によくわかるなと思いました。ルームメイトが部屋から出てこないのとか、町中にあるスーパーマーケットの前で若者がたむろしているのがちょっと怖い、でも実はいい子だったりとか。フィンランド人の人との距離感とか。

横尾 ありがとうございます(笑)。みんな気張っていない感じがいいですよね。蔵原さんは、写真を陶器に転写する作品を作ってますが、それは日本にいたときからですか?

蔵原 陶器に写真転写すること自体は、洋食器の技術として昔からあったものです。上絵(うわえ)といって、本焼きした後にプリントして焼き付けるのですが、その時に結構強い溶剤を使うんですね。そういうのを使い続けるのが辛くなってきて、もっといい方法がないかと探していた時に、下絵具の転写という方法を知って。素焼きの粘土の上に転写するというものです、水溶性で絵の具も洗えるし、質感も面白かったので、それを深めていきました。

横尾 トゥルクで展示されたプロジェクトについて教えてください。フィンランドのご老人たちの写真を転写したんですか?

蔵原 「インナー・ランドスケープス」※は、マルヤ・ピリラという写真家の女性との共同プロジェクトです。彼女はカメラオブスキュラの原理を使って、人の部屋自体をピンホールカメラの構造にして家の中に外の景色が反転した風景を写し出し、その模様を撮影するという作品を作る写真家で、もともと私が彼女の作品が好きだったんです。写真でははっきり写っていますが、本当はすごく暗くて。暗い部屋の中での撮影なので、被写体の人は気持ちいいみたいで寝てしまったりして。

横尾 だから被写体の人がうつろな表情をしているんですね。外の世界との差がすごく面白いですね。

蔵原 内と外との関係がすごく面白くて、器も内側に風景を内包していることから、マルヤの作品と繋がる部分が多くて、一緒に写真を作ることになったんです。トゥルクに住むお年寄りの方たちが対象なのですが、マルヤは彼女たちの部屋のカメラオブスキュラを作って、私たちは彼らの話を聞いて、昔の写真や日記、手紙を複写させてもらいました。その写真は器の内側に焼き付けて、外側には町の風景を写し出したんです。

横尾 蔵原さんは、崔さんと二人でものづくりをしていますが、やっぱり一人で作るのとは違いますか? 私はいつも一人なので、その感覚がよくわからなくて。

蔵原 私は割と同じものをブラッシュアップしていくのが好きな傾向にあるんですが、崔さんは、違うものを常に挑戦したいというタイプ。少しずつ違うんですが、でも二人が見たいものは割と近くて。最初は意見が違っていたとしても、陶芸って最後は窯に入れてしまうので、出来上がりは必ずしも思った形にはならない。それを見て、また二人で意見を言い合う。そのプロセス自体が面白いですね。だから続けられるのだと思います。でも、「インナー・ランドスケープス」は一点ものなので、それぞれ担当をわけてやりました。だから、一点一点見ると、けっこう違うかもしれません。

横尾 これは少し前に発表されていた、アーキペラゴのシリーズですか?

蔵原 そうです。2012年のイヤーズプレートで作ったんですが、フィンランド南西部のトゥルク近郊からスウェーデンに向かって広がるアーキペラゴ(群島)をかたどったものです。このときは、プレートの形も円形のものだけではなく不定形な稜線を描くようなものを作りました。

横尾 なるほど。フィンランドっぽくていいですね。蔵原さんがフィンランドで勉強をされて、変わったことって何ですか?

蔵原 なんでしょうね。学生時代に私が見ていた陶芸は、デザインとアートがはっきり分かれていて。表現で作る陶器と、普段使う器は違うっていう空気があったんですね。それに違和感を感じていたのですが、フィンランドでは、一人の作家が器も、オブジェも作るし、インスタレーションもする。自由だなと思いました。アラビアも、当時は工場の中にアートデパートメントがあって、陶芸家達が工場の設備を使って自由な制作を行なっていたり、もちろん彼らはアラビアプロダクトのデザインもしていて。そんな環境もとても魅力的でした。でも、今になって考えると自分の中に残っているのは、制作環境というよりはフィンランドの風景や人や季節感なのかも、という気もしています。

※「インナー・ランドスケープス、トゥルク」
2016年10月18日(火)〜11月6日(日)まで、東京・千駄木にあるギャラリーHAGISO(東京都台東区谷中3-10-25)で、トゥルクで展示されたマルヤ・ピリラとSatoko Sai + Tomoko Kuraharaの作品が展示されています。
ils.saikurahara.com

Satoko Sai + Tomoko Kurahara
サトコサイ・プラス・トモコクラハラ

崔聡子と蔵原智子による陶芸作家ユニット。共に多摩美術大学工芸学科にて陶を専攻し、2002年卒業と同時に共同制作を開始。作品には、カップやミニプレートなどの「デイリーライン」、 一年間限定の「イヤーズプレート」、陶を素材にした複製芸術としての試みである「コレクション」、 ユニークピースとして制作するアートプロジェクト等があるほか、オーダーメイドも行なっている。
saikurahara.com

横尾香央留

1979年東京生まれ。
ファッションブランドのアトリエにて
手作業を担当した後、2005年独立。
刺繍やかぎ針編みなどの緻密な
手作業によるお直しを中心に活動。

主な著書
『お直し とか』(マガジンハウス)
『変体』(between the books)
『お直し とか カルストゥラ』(青幻舎)
『プレゼント』(イースト・プレス)

主な個展
「お直しとか」(2011/FOIL gallery)
「変体」(2012/The Cave)

主なグループ展
「拡張するファッション」
(2014/水戸芸術館、丸亀市猪熊弦一郎現代美術館)

編集・文/上條桂子 写真/髙橋マナミ

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