夏のカルストゥラお直し滞在から1年半後
冬のカルストゥラでラウラと出会った。
お直しした服を返しに行きつつ
展示をすることになっていたが
わたし自身がするよりも 現地の方が
展示するとどうなるのかを観てみたくなり
服を先に送って 追いかけるようにカルストゥラへ。
ついてすぐに向かった市役所で
展示を担当してくれていたのが他でもない
愛すべき猫背のペインター ラウラだった。
「君が美術館でした展示よりいいんじゃない?」
と同行者に意地悪を言われたが
“たしかにそうかもしれない”と素直にうなずいた。
素晴らしいということと 最大限の感謝の気持ちを
コーディネーターの森下さんに伝えてもらうと
「とても緊張していたの」と言って
ラウラは文字どおり 胸を撫で下ろした。
それはそうであろう 自分の作品の展示ですら
寝込むほど迷い苦しむというのに
他人の作品を展示するだなんて
頼んでおいてなんですが わたしだったらごめんだわ!
ラウラは普段 別の町に住んでいたが
カルストゥラに縁があるようだった。
(詳しく聞いたかもしれないけれど
聞き取れるほどの語学力がなかった)
夏にお世話になった大家のマリヤとも仲が良く
わたしが1カ月滞在していた部屋に
ラウラもその後しばらく住んでいたという。
その頃に描かれたと思われるラウラの絵は
いつもの作品より少し明るい印象を受けた。
今回の“交換ニット”はラウラとマリヤの共作だった。
わたしから送った編み地を見て
「(一番最初の編み手)ノーラの編み地の色合いが
マリヤの持っているボーダーの靴下と
そっくりだったのよ!
フィンランドの伝統的な色合いではないのに
同じなことがおもしろいでしょ!?」
と ラウラとマリヤはとても興奮していた。
わたしは同じテンションにはなれなかったけれど
二人のうれしそうな顔を想像し にやにや笑った。
たぶんマリヤが担当したのは
黄色や薄ピンクの混ざった編み地。
マリヤは織りが得意だから
織りでもいいんだよ といえば良かったかな。
色合いもかわいく 編み方向も変則でおもしろい。
ラウラが担当したと思われる編み地は
期待を裏切らないグレーや紺の暗めの色。
裏目と表目 糸の種類も不規則に編み込まれ
暗く重たいカルストゥラの冬空と
“割れるんじゃないか”という恐怖と戦いながら
へっぴり腰で歩いた氷の張った湖を思い出す。
ニットにはマリヤの写真とマリヤの庭の写真
そして二人からの手紙も添えられていた。
ラウラからの手紙にはセロテープの残るかわいい包装紙が
マリヤからの手紙にはレースの柄の便せんが使われていて
ここにもまたそれぞれのカラーがにじみ出ていてうれしい。
うれしいのだけど ごめんなさいマリヤ。
わたしフィンランド語が読めないの……。
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こんにちは!
私とマリヤをこのニッティング・プロジェクトに誘ってくれて本当にありがとう。とても刺激的だったわ!
最初はどんな編み物にするか、野心的なアイデアも考えていて。マリヤが編んだものに私のペインティングを融合させることも考えていたんだけど、なかなかむずかしくて。それで結局、それぞれのパートを別々に編み始めることにしたの。使用した毛糸はポイコラ*の屋根裏部屋で見つけて、それもすべてマリヤが提供してくれたものよ。
私は基礎的な編み方しか知らないから、始めはふつうに編んでいたのだけれど、だんだんペインティングや絵を描くように編めばいいって思うようになって、そうしたらすごく楽しくなってきて、逆に止めたくなくなったくらい!
カルストゥラか、日本でもいいけど、また会えたらいいわね!
もちろんカルストゥラならいつでも大歓迎よ!
幸運を。ラウラ。
編註
*ポイコラ:マリヤの家のこと。名前はマリヤ・ポイコラという。
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横尾香央留
1979年東京生まれ。
ファッションブランドのアトリエにて
手作業を担当した後、2005年独立。
刺繍やかぎ針編みなどの緻密な
手作業によるお直しを中心に活動。
主な著書
『お直し とか』(マガジンハウス)
『変体』(between the books)
『お直し とか カルストゥラ』(青幻舎)
『プレゼント』(イースト・プレス)
主な個展
「お直しとか」(2011/FOIL gallery)
「変体」(2012/The Cave)
主なグループ展
「拡張するファッション」
(2014/水戸芸術館、丸亀市猪熊弦一郎現代美術館)
写真/ホンマタカシ 編集/上條桂子 翻訳/江口研一