横尾 香央留/糸のゆくえ

カルストゥラでのお直し滞在にあたり
フィンランドに詳しそうな心優しき友人に
アドバイスを求めたところ
「向こうに行ったら会うといいよ」
とヘルシンキ在住の日本人の連絡先も
合わせて教えてくれた。

しかし教えてもらったはいいが
見ず知らずの人になんと連絡をしたらいいのか。
なにを話したらいいのかもわからないのに
〈会いましょう〉って言うのもなんだしな…
などと いつもの強い自意識が顔を出し
カルストゥラに着いてからも
しばらく連絡出来ずにいた。

二週間近くが経った頃 友人から
〈“連絡がこない”って
 心配メールが来たんだけど?
てめぇ不義理してんじゃねぇよ!〉
といった内容のメールが届いてしまい
ひぃーすんませんすんません!! と慌てて
〈もしもお時間がありましたらお会いしませんか?〉
と 延ばしたわりには いたって普通のメールを送った
そのお相手こそが 島塚絵里さんだった。

当時彼女はアアルト大学の学生だったがフリーで
マリメッコのテキスタイルデザイナーもしていた。
その日は午後からミーティングがあるというので
マリメッコの社員食堂で早めのランチをご一緒した。
ビュッフェ形式のランチはとても彩り豊か。
どれもおいしそうで欲張ってたくさん載せてしまった。
社員以外でも利用できる食堂には
日本人がたくさんいて 人気の高さを実感した。

絵里さんは同じ歳だった。
フィンランドでのホームステイを
中学時代 すでに経験していたという彼女は
聞いているだけで酸欠になりそうな
息を吸いながら発音するフィンランド語を完璧に話した。
食後 併設されたショップをみていると店員さんが
「エリのデザイン 日本人に大人気よ」と言っていた。
絵里さんがデザインしたことを
大々的に言っているわけではないのに
どこかしら日本人の感覚というのが伝わるのだろうか?

しかし異国の地で会う日本人というのは
どうしてこうも心強いものなのか。
しかもヘルシンキ在住の絵里さんに
案内をしてもらえたのは ほんとうにラッキーだった。
翌日もアアルト大学やアラビアファクトリー
アンティークショップなどにも
連れていってもらった。

その後も 絵里さんが日本に帰ってきた時には
展示を見に行ったり ごはんを食べに行ったりと
ありがたいことに交流が続いている。
ユッシという建築家の旦那さんと
アイラちゃんという天使のような女の子を
産み育てながら 絵里さんは
素敵なテキスタイルもどんどん産み続けている。

編み物は得意ではないけど挑戦してみたかった
と言って参加してくれた絵里さんが
『森からの贈り物』というテーマで
編み繋いでくれたのは
“センティック”というキノコで染めた
美しい赤茶色の編み地。
そこに絵里さんデザインの生地
“metsämarjoja(森のベリー)”がアップリケされ
もうひとつのパーツには
“parveke(ベランダ)”という生地が
フリンジとして結びつけられていた。
ちょうどわたしもニットベストに
大量のフリンジを結びつけた作品を
作りあげたタイミングだったため
シンクロしているようで驚きうれしかった。

横尾香央留

1979年東京生まれ。
ファッションブランドのアトリエにて
手作業を担当した後、2005年独立。
刺繍やかぎ針編みなどの緻密な
手作業によるお直しを中心に活動。

主な著書
『お直し とか』(マガジンハウス)
『変体』(between the books)
『お直し とか カルストゥラ』(青幻舎)
『プレゼント』(イースト・プレス)

主な個展
「お直しとか」(2011/FOIL gallery)
「変体」(2012/The Cave)

主なグループ展
「拡張するファッション」
(2014/水戸芸術館、丸亀市猪熊弦一郎現代美術館)

写真/ホンマタカシ 編集/上條桂子