第12回

横尾 香央留/糸のゆくえ

小学校の移動教室で
紙漉き体験をしたことがある
白く冷たいどろっとした水の中に枠を浸し
すくって持ち上げて揺する
すくって持ち上げて揺する
繰り返すごとに厚みと重みが増しきて
腕がぷるぷると震え出す。

所々に木や草の繊維が
確認できる半透明の塊を
枠からどう外し どう乾かしたかは
すっかり忘れてしまったが
“こういうお仕事もいいな
でも重いし冷たいのは大変だな”
と思ったことは覚えている。

出来上がった紙は図工の授業で
絵を描くのに使った。
厚いところ 薄いところ
いろいろあって たのしいけれど
木の繊維が絵筆に引っかかり
ちょっとじゃまだな と思った。

友人知人には紙に詳しい人が多く
その手の話を横で聞いていても
理解できないことが多い。
本を作る時などは
ささやかな厚みの違いで
どこまで印象が変わるのか
素人のわたしには想像し難く
実際刷り上がったものをみても
よくわからなかったりもする。

今回 前田さんにお会いするにあたり
“紙の話なんて出来るのだろうか”と
緊張していたが 前田さんは紙自体の話より
道具の話をたくさん聞かせてくれた。
「良い紙を漉くには道具がなにより大切。
そのためには道具をつくる
職人さんが不可欠だが
残念ながら後継者はなく
この先どうするのかが問題だ」と。
様々な技術を持った職人の
素晴らしい技術が集結し
いいものが生まれているのだと
あらためて気付かされた。

前田さんの工房から
いくつかいただいてきた紙を
交換ニットに縫い付けた。
そこに和紙で出来た糸を
編み込んでゆく。

横尾香央留

1979年東京生まれ。
ファッションブランドのアトリエにて
手作業を担当した後、2005年独立。
刺繍やかぎ針編みなどの緻密な
手作業によるお直しを中心に活動。

主な著書
『お直し とか』(マガジンハウス)
『変体』(between the books)
『お直し とか カルストゥラ』(青幻舎)
『プレゼント』(イースト・プレス)

主な個展
「お直しとか」(2011/FOIL gallery)
「変体」(2012/The Cave)

主なグループ展
「拡張するファッション」
(2014/水戸芸術館、丸亀市猪熊弦一郎現代美術館)

写真/ホンマタカシ 編集/上條桂子