「くらすことの本」より
目に見えない「気」の世界に気づく
自分のものさしを作るレッスン
心地がいい、何だか違和感がする。
「気」の世界に気づくはじまりは、そんな小さな感覚。
まずは、自分の内側に耳をすましてみませんか?
身体感覚研究者である、松田恵美子先生に教わります。
※「くらすことの本」48〜54ページに掲載されている内容をウェブマガジンとして公開しています。
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「気」に気づくレッスン2
邪気捨ての方法と大の字
怒りや悲しみなど、わたしたちのいろいろな感情は、お腹にたまると言われています。昔は、「腹におさめる」という言い方をしました。今回は、そんなたまった邪気やストレスをすっきり吐き出しきれいにする、邪気捨ての方法とそのあとに必ず行ってほしい、大の字をお伝えします。
邪気捨ての方法
01.
窓辺に正座で座り、できれば窓を開けて行います。南か東の方角だとベスト。その際、かかとの間にお尻を入れて、親指を重ねないように座る。吐く息は、絶対に人の背中に向けてはいけません。
02.
まず軽く息を吐いたあと(そのときは、 口でも鼻でも可)、口を大きく開いて、新鮮な空気を体全部に取り入れるというくらいいっぱいに吸い込みます。その時に肩を持ち上げないようにして、喉を開いて胸を開くように。
03.
吸い込んだら手は床に置き「はぁー」とお腹の底から、背中と背骨を丸くして、口から息を吐き切る。丸まったダンゴ虫になった気分で。吐き終わると自然に息が止まる。自然に吸いたくなったら、また口を大きく開いて空気を吸い込む。
04.
お腹いっぱいに満ちたら、口を閉じ今度は鼻で抜く。また息が自然と止まり、その余韻を味わう。また吸いたくなったら、 息を吸いながら正座の姿勢となり、最初からのプロセスを同様に繰り返す。からだの内側の空気交換です。
05.
3、4回繰り返すと吸う息の量も増し、 吐く時もお腹の底から歯磨きチューブをひねり出すように吐けるようになり、時間も長めになってくるかもしれません。最後、口を閉じて鼻で抜く時に、腹の方に何かが 降りていく感じが生じてきます。
06.
回を重ねるたびに、下に下にと、自分のからだの内側に降りてゆく感覚がはっきりしてくるので、それを味わっていると、 次第にいつも忙しい頭が、自然と一旦停止をし始めます。あくびや鼻水や涙が出てきたらしめたもの。緩んでいる証拠なので、 人によっては息を吐いた時によだれが出ることもあります。後で拭けばいいので、 出るもの拒まずで。
07.
肩の力が抜けて、思考も感情も一旦鎮まっている自分を、心地よく味わえたら終了です。
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邪気捨ての後は、かならず大の字に。ヨガでいう、シャヴァアーサナです。
01.
仰向けになって横になり、目を閉じ、手のひらを天井に向ける。一番脚が休めるのは股関節に負担がかかっていない角度。 まず右脚をゆっくり滑らせて横に広げ、股関節に負担がかかっていないところを見つける。
02.
見つけたら、あえて行き過ぎてみる。 行き過ぎると、うっと股関節に力が入るのがわかりますか?
03.
行き過ぎたのがわかったら、再度、股関節に力が入らない箇所を見つける。どちらの脚が長く感じられますか?股関節の力が抜けていると、右のほうが、脚の付け根が股関節を通り越し、お腹や腰と繋がる長い脚と感じられるのではないでしょうか。
04.
右が終わったら、同じ要領で左もやってみましょう。脚を床に任せる開放感を味わってみて下さい。
05.
両脚が終わったら、次は腕も同じやり 方で片腕ずつ床に滑らせながら、肩関節に負担がかからない位置を見つけます。肩の力が抜けると腕は胸と繋がります。
感情にも思考にも、 エネルギーが行かない状態に戻りました。 本当の自分はどっち?
からだのなかが、シーンとして、ただここに在る、 存在感だけの自分になっていることに気がつきますか?邪気捨ては、日常のストレスや邪気を吐きだすことが目的なのではなく、大事なのは最後、思考や感情も働かない、何にもない自分に戻るということです。 私たちは普段、いろんなことを考えたり感じたり捉われたりしているのが、自分だと思いこんでいます。 しかし、本当は何にもない自分の方が本来で、それにいっぱいくっつけているだけなのかもしれません。 そんな存在としての自分もいることを体験すると、 自分の在り方が、もっと楽になるのではないか、人生の観え方が変わってくるのではないかと思います。そして、ただ心地よく、今、ここに寝ている白紙の自分に戻ることは、自分の存在そのものにエネルギーを充電できる、限りないリフレッシュの時間でもあるのではないでしょうか。
教えてくれた人
松田 恵美子 先生
身体感覚教育研究者。日々の動作や日本文化における型などを感覚からひもとき、日常生活に活かせる知恵や技として活用することで、自分の身体を自分で育む姿勢を指導。大学院大学至善館客員教授。 著書に『身体感覚を磨く12カ月』 (ちくま文庫) など。