イラストレーター・川原真由美さん その後のインタビュー
その3
五感を信じれば
もっとフルに自分を使えるんじゃないかって
頭をとおさずに、五感で行動する。ほとんどのことが人力だったつい100年ぐらい前までは、そんなのふつうのことだったんじゃないかな。洗濯でもなんでも自分の身体でやるしかなかったし、どこへ行くのも足を使わなきゃいけなかったし、たくさん身体を使うから、なんでも時間がかかる。頭でぐちゃぐちゃ考えてる暇なんてなかったと思う。現代は便利になったぶん、身体を使わなくなって時間はあるし、情報もたくさんあるから、つい、感じる前に頭が働いてしまう。それってバランスを崩しやすいんじゃないかな。
うまくいくときってだいたい、勘で動いたときだったりしませんか? いろんな条件からしたら絶対あっちのほうなのに、明確な理由なくこっちのほうがいい気がするっていう、案外そっちが正しかったりして。虫の知らせなんていうのも、そういう類のものかもしれません。人間って、そうした察知能力があると思います。それはなにも特別な力ではなくて、本来はみんながもっているんではないでしょうか。言葉が生まれる前の大昔の人たちは、ほとんどがそういうことで動いていたんじゃないかという気がします。その力を信じれば、もっとフルに自分を使えるんじゃないかって最近思うんです。
——頭のなかの話はしょせん人間同士でしか通じないけど、身体はほかの生命とつながっているから。宇宙の大きいグルーヴのなかで感じることのほうが真理に近いのかもしれませんね。
たぶん、そのほうが自然なんですよね。無理がないというか。
——原画展の始まりもそうでしたものね。頭で考える前に、身体でやろうって決めてしまった。
そうそう。あとから、うーん、やっぱりどうしようってなったのは、頭で考えはじめて不安になったっていうことなんです。身体で感じる体験が増えていったら、頭を使って理由づけする必要がなく、感覚だけで選びとれる自信がつくんでしょうね。
描いた成果物よりも
それができるまでの経過を味わいたい
今回の展示をして、この先、自分がどういうことをやっていったらいいのか、絵の仕事としてどういうことで必要とされているのかっていうことが、ぼんやりと見えてきました。この十数年の仕事が展示されているのを、会期中に毎日見つづけたことで。あれらは依頼を受けて仕事をしてきたものの集積ではあるんですが、その点と点を結んでいったときに、川原真由美としてやることっていうのを、うっすら思ったというか。
まあでもだいたいは、取材をして表現するっていう、いままでのスタンスと同じで、それが根底にはあるんじゃないかと思うけれど。実際に自分が現場に行って、なにかを感じて、そこから拾いあげて、それを表す、という作業をするんだろうなと思っています。
もしそれが、仕事とは別に、ライフワークみたいにして自分の興味のあるテーマを扱えれば。依頼されたものではなく、自発的に出てきたものでそういうことができたら、純粋培養の濃いものができそう。それを、見てみたい。
——今回、膨大なイラストのなかから展示に選んだものを見てみると、気に入っているイラストなのはさることながら、それ自体よりも、一緒につくった人たちのことが強く見えてきた。制作のときの熱量が濃かったイラストばかり選ばれていたっていうか、制作時のエネルギーがイラストに還元されていた。って、おっしゃっていましたよね。
そうそう、そういうこと!っていま話聞きながら思っていたけど、自分でそう言ってたんですね。びっくりしちゃった(笑)。まさしく、これからやりたいと思うことがそうなんです。なにが描きたいか、どういう仕上がりかということよりも、その時間を味わいたい。
絵に限らず、仕事ってそういうものかもしれないけれど、結果を求めちゃうとおもしろくないっていうか、もう終わっちゃうっていうか。それがどんなものであっても、結果、たまたまそうなったってことでいいかなって思うんです。そうなるまでの時間こそを味わいたい。
——経過がいいと、結果もたぶんいいですよね。でも、目的を結果に置くんじゃなくて、あくまでも経過があっての結果。
それがいいもののときも、悪いもののときもあるかもしれないけど、いいときだけをつまむっていうよりは、どれもあるほうがおもしろい。人間だから起伏もあるわけで、その積み重なってできた地層みたいなものがおもしろいと思うから。いろんなことを味わうと、いろんなものが見えてくるんじゃないかな。そういうことにいま、興味があります。
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