取材・文 松本あかね
写真 池ノ谷侑花(ゆかい)
『FLW』デザイナー 大橋利枝子さんに聞く
秋のリネン、コーディネートのアイデアと
着こなしのコツ
—— 2016秋の新作から
『FLWエフエルダブリュ』はオリジナルのリトアニア産のリネン生地を使って、
大橋利枝子さんがデザインする洋服ブランド。
どんな体型の方もきれいに着られる工夫を凝らしたデザインが、
特にスタイルのある大人の女性に人気です。
美しいシルエットは、シーチングで形を探りながら、
大橋さんが自身で何度も試着し、微調整を繰り返した追求の賜物。
一見シンプルですが、着てみると考え抜かれたディテイルの意味、
洗練されたスタイルへのこだわりが伝わってくるようです。
シーズンごとに催される展示会では、自ら着こなしのアドバイスをする大橋さんの姿があります。
「袖は少しまくるとバランスがいいですよ」、「パンツの裾はロールアップしてみてください」、
そういってささっと大橋さんの手が加わると、
たちまち着る人の体型や雰囲気にしっくりなじんだ着こなしが生まれるから不思議。
ここでは、そんな大橋さんの魔法を再現すべく、
『FLW』2016秋のアイテムから、コーディネートのアイデアと着こなしのコツをご紹介します。
テーマは「秋からのリネン」。夏に大活躍したリネン、秋からも楽しむには?
一年中リネンを楽しみたい、そんな声にお答えします。
涼しくなっても
リネンのワンピースを楽しむには?
リネンのワンピースの秋の着こなしとしてまず取り入れたいのは重ね着。
「下に着るのはタートルやカットソー、薄手のものならどんなものでもいいと思います」。
大橋さんが着ているのは、コットンシルクの薄手カットソー。カラーはチャコールグレー。袖を折り返して、グレーと黒のグラデーションをちらりと見せています。さりげない袖元のおしゃれは、よく目に入る部分だから自分のための楽しみとしても。
レナ ワンピース(ブラック)+ シルクコットンのカットソー(私物)
直線裁ちの四角い形の布を縫い合わせ、ウエストにギャザーを入れたワンピース。
ドルマンスリーブなので、袖から見頃にかけてもゆったり。
袖は折り返す。
「実は『FLW』の服全体に言えることですが、袖は折り返して着るのがおすすめ。このワンピースはオフショルダーになっているので、一枚で着るときもまくると袖がふっくらしてかわいいです」
黒×グレー、黒×ネイビー。
「黒って何にでも合うようでいて、意外と難しかったりしますよね。私は同系色でまとめるようにしています。濃いグレーの外には、黒とネイビーも相性がいいと思います。あとは反対色で白を組ませることも」
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裾を「イン」、で生まれる
ふっくらシルエット。
Aラインのトップスの裾を「イン」するという新しい発想。実際そうしてみると、上質な薄手の生地だから、ふんわりとエレガントなシルエットに。新しい一着を手に入れたような、嬉しい驚きです。
もう一つは首元の重ね着。
「この秋冬は細めのマフラーやスカーフを巻いたり、首元に重ねるおしゃれが流行りそう。もし手持ちのものでそんなアイテムがあったら合わせてみて」。
大橋さんが選んだのは、細身のニットのマフラー。ボトムにタックパンツをチョイスしたことで、マニッシュなきりっとした印象に。涼しい季節ならではの、おしゃれを楽しんで。
「ブルーパール」はこの秋の新色。「水色だけど、秋に似合う、さわやかすぎない色を選びました」。
エミ シャツ(ブルーパール)+ ナオ タックパンツ(グラフィット)
+ マフラー(私物)
Vネックに丸襟のついたプルオーバー。細い糸を織った薄手の生地はしなやか。
ニットと重ね着ができるゆったりした身幅で、お尻が隠れるくらいの着丈。
『ブラウジング』
「裾をいったんインしてから引っ張り出して、ふんわりさせることを『ブラウジング』といいます。もしも麻特有の、洗ったときのパリパリッとした肌触りが気になるという方は、柔軟剤を入れて洗うと柔らかくなります」
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同じ色でセットアップしてみる。
ゆったりした身頃に太い袖、タックの入ったラップスカート、今期の特徴でもある、生地をたっぷり使った「やさしい感じ」がよく現れた2着。
「デザインの段階から、ワンピース風にコーディネートできるように考えていました。ラップスカートをワンピース風に着たらかわいいだろうな、と思って」
水彩絵の具を溶いたような透明感のあるグレーは、以前作った似た色合いの進化形です。
「『アシエ』はグレーとカーキを混ぜたような色。きれいなグレー、をイメージしました。カーキが混ざっているので、グレーはあまり、という方にも着やすい色だと思います」
シホ ブラウス(アシエ)+ アキ スカート(アシエ)
この秋の新色「アシエ」のブラウスとスカートを合わせたワンピース風コーディネート。「同色のセットアップは、今マイブームなんです」。
こだわりの襟ぐりと貝ボタン。
『FLW』の服は全てワンサイズ展開。「これまで襟ぐりは大きめでしたが、もう少し詰めてほしいという声も。
これは開きすぎず、詰めすぎずのラインを探って作ったこだわりの襟ぐりです」。バックの大きな貝ボタンがアクセント。
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ロールアップとハーフブーツで
バランス良く。
裾のすぼまったフルレングス丈は、ロールアップするとバランスが良くなります。『FLW』の服は11号サイズですが、大橋さん自身は155センチ、9号サイズ。パンツを履くときはヒールのあるハーフブーツを合わせることが多いとか。
「一足おしゃれな靴があると、コーディネートの助けになります。ここ数年流行しているハーフブーツは合わせやすくて便利。ふだんヒールを履き慣れない人もブーツなら安定感があって履きやすいと思います。色は応用範囲の広い黒がおすすめ」
ユカ テーパードパンツ(クレムー)+ シホ ブラウス(ノアール)
+ ハーフブーツ(私物)
『FLW』の生地の中では一番厚い生地を使っています。
おしりはゆったり、裾に向かって細くなるテーパード型。履くとすっきり見えます。
ロールアップという裏技。
身長155cmの大橋さんの場合、ウエストを一回、裾を二回折っています。ブーツとの間に肌を少し見せるのがポイント。
ヒップが目立たないシルエット。
「おしり回りはゆったりしていますが、厚地の張りのある生地なので、生地自体の重みですとんと落ちる。腰回りが張っている人も目立ちません」。 ウエストはゴム仕様。
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大橋利枝子(おおはしりえこ)
スタイリスト、『FLW』デザイナー
雑誌『オリーブ』を経て、スタイリストとしてさまざまな方面で活躍。2012年より『FLW』のデザインを手がける。『fog linen work』のラインとの違いは、大橋さん自身の着たい服、スタイルのある女性のイメージを追求したシンプルでシックなデザイン。近著のソーイングブック『FLWのソーイングとスタイル リネンでつくる着ごこちのいいおとな服』(文化出版局)が好評。
「『FLW』の服は普段着としても、お出かけ着としても着られる服を意識してデザインしています。でも実はそこはあまり、分けなくてもいいと思うんですよね。今の自分にしっくりくる一枚であれば、家の中でも、表参道でも(笑)、心地よく自信をもって着られると思います。皆さんにとってそんな一枚が見つかれば嬉しいです」
『FLWのソーイングとスタイル リネンでつくる着ごこちのいいおとな服』
(文化出版局)
Aラインのワンピース、リボンブラウス、サルエルパンツ、カシュクールコートなど、リネンの質感を生かし、シルエットにこだわったとっておきの24着を紹介。高橋ヨーコさん撮影のモデルカットもファッションページのようで見どころ。実物大パターン付き。