Satoko Sai + Tomoko Kurahara

人と人とをつなぐ
物語のある陶のうつわ

Satoko Sai + Tomoko Kurahara(サトコサイ プラス トモコクラハラ)は、
崔聡子さんと蔵原智子さんによる陶芸ユニット。
日常使いの器や、一年ごとに発表している「イヤーズプレート」、
陶を用いたアートプロジェクト……さまざまなかたちで陶器を制作しています。
今回、紹介するデイリーラインを中心とする器は、
手の温もりがありつつどこか特別な空気をまとい、食卓に物語を生み出します。

イヤーズプレート「yellows(イエローズ)」を使った「黄色い皿の昼食会」が開催。

参加者それぞれが自分の好みの「yellows」を選び、そのお皿で料理をいただく。

1枚のお皿で
前菜・メイン・デザートをたのしむ

Satoko Sai + Tomoko Kuraharaが、毎年異なるテーマと制作方法で発表しているイヤーズプレート。
2019年にリリースした「yellows(イエローズ)」を使った「黄色い皿の昼食会」が、 初夏のある日、開催されました。

料理を担当したのは、山フーズの小桧山聡子さん。
色とりどりの季節の食材でつくる前菜・メイン・デザートを、同じ一枚のお皿でたのしみます。

前菜は「白身魚と柑橘と季節の野菜のカルパッチョ」。晩柑の酸味とほのかな苦味がアクセントに。

前菜は白身魚と野菜、柑橘が絶妙に調和したサラダ仕立てのカルパッチョ。
小桧山さんの美しい盛りつけに、参加者のみなさんもうっとり。

「ある程度、お皿が見えるように盛りつけるときれいです」と小桧山さん。

メインの「チュンピン~豚肩ロースやイワシのフライ、たっぷりの野菜やハーブをタレと一緒に皮で巻いて」は、好みの具を葉野菜やチュンピンに包んでいただく。食材が美しく盛りつけられた大皿が運ばれてくると、会場から歓声が上がった。

メインは、何種類もの野菜や蒸し鶏、焼き豚や揚げた魚を 葉野菜やチュンピンに挟んでいただくスタイル。
お皿にそれぞれ好みの具を盛りつけます。

途中、崔さんと蔵原さんから参加者の方たちに「好きな黄色はなんですか?」の質問が。「レモン」「ミモザ」「卵」……その答えは十人十色。

「焼き豚はミントと一緒に食べると絶妙」。「ほんとう!」。それぞれが見つけた「おいしい組みわせ」をシェアする場面も。

デザートの「イヤーズプレートパフェ」は、参加者の方自ら盛りつけをした。カラフルなフルーツやチーズケーキなどがふんだんに用意されていて、目移りしてしまう。

釉薬のかけわせたモダンな印象のプレートは、洋風のデザートとも相性がいい。

おいしい料理と和やかな雰囲気に、みんなすっかり打ち解けたようす。

山フーズの小桧山聡子さんの絶妙な組み合わせのお料理に、思わず拍手が起こる場面も。

1枚のお皿のポテンシャルをふんだんに引き出した小桧山さんの3品。
「yellows」は洋風、和風どちらにも合うお皿です。

デザートをいただくと、食事会もそろそろ終わりの時間。
「使い方が新鮮でした」
「家にあるSTのお皿もふだんからもっと使おうと思います」
参加者の方の満足そうな声を聞きながら、食事会は幕を閉じました。

昼食会に使用した2019年のイヤーズプレート「yellows」は、2種類の釉薬を重ねがけすることで生まれる濃淡や、 たまりなどの表情や線が新鮮な印象のする、使いやすいサイズの平皿。

2009年にスタートしたアートプロジェクト「インナー ランドスケープス(Inner landscapes)」。 フィンランドの70〜90代までの人の人生についてインタビューを行った。

ひとつの器から
人とつながりたい

Satoko Sai + Tomoko Kurahara は、ふだん使いできるデイリーラインのほか、 アートプロジェクトによる作品も制作しています。

2009年にスタートしたインナー ランドスケープス(Inner landscapes)はそうしたもののひとつ。
インナー ランドスケープスは、「Inner(内面の)」と「landscapes(風景)」をつないだ造語。
人の内面に立ち上がる風景を陶器で表現しています。

高齢者の方に話を聞き、その人の古い写真や昔の手紙や日記をコラージュして陶器に転写。肖像画を描くようにしてつくった。

2011年にフィンランドのトゥルク城で開催した「インナー ランドスケープス」の展覧会は、蔵原さんの友人でもあるマルヤ・ピリラさんの写真との共同プロジェクト。その後、フィンランドの老人ホームに巡回し、2016年には東京でも巡回展を行った。

写真提供/Satoko Sai + Tomoko Kurahara

2009年には、フィンランドのトゥルクという街に住む 70代から90代までの9人の高齢者にインタビューを行い、 それぞれの人生を陶器の作品として制作しました。

「その方のお話はすべてとてもプライベートなことなのですが、 私たちというフィルターを通して作品にすることで、 観る人が感情移入できるものになるといいなと思います」(崔さん)

個人的な話だからこそ、ほかの誰かが共感を覚えるような普遍性が生まれるのだといいます。

日常のなかに
非日常を感じるものを

インナー ランドスケープスのような1点もののアートピースから、転写や石膏型を使った量産技術と手仕事を組み合わせてつくる器まで手がける Satoko Sai + Tomoko Kurahara。

シルクスクリーンや型を用いた中量生産の器も、転写の入り方や色のにじみ方が一枚一枚違うのが魅力です。

「私たちは器をつくるうえで、使いやすさも意識はするのですが、物語性を感じるものや、日常のなかに非日常の要素を入れることを目指したい」。
崔さんと蔵原さんはそう言います。

そして、何よりも「器を通して人とつながりたい」というふたり。
その思いは一枚のお皿から、あふれ出しているかのようです。

お話を聞いた人
Satoko Sai + Tomoko Kurahara
(サトコサイ プラス トモコクラハラ)

崔聡子と蔵原智子による陶芸作家ユニット。ともに多摩美術大学工芸学科にて陶を専攻し、2002年卒業と同時に共同制作を開始。その後、崔は韓国へ留学(2005年)、蔵原はフィンランドへ留学(2002〜2005年 ヘルシンキ芸術デザイン大学/現アアルト大学修士課程修了)。距離を隔てた活動期間を経て、2006年滋賀県信楽陶芸の森アーティスト・イン・レジデンスプログラムに参加。同年より東京にアトリエを構え拠点としている。東京に暮らす75歳以上の男女6組8名の方々にインタビューを行い、2020年、東京でInner landscapesの展覧会を開催予定。
http://saikurahara.com

写真 高橋郁子 www.ikukotakahashi.com
取材・文 天田 泉