鈴木潤さんのブックトーク「絵本とくらして20年」

子どもの本専門店メリーゴーランド京都
鈴木潤さんのブックトーク

絵本とくらして20年

文:石鍋健太

「都心では45年ぶり」だという大雪の痕跡も消えかけた2月19日(水)、
まだまだ冷たい風の吹くなか、たくさんのお母さんと子どもたちが
くらすことアトリエに来てくれました。
鈴木さんが絵本を用意していると、早くも子どもたちはソワソワ、ワクワク。
遠慮がちに、いくつもの色鮮やかな表紙をちょっと離れたところから眺めています。
「何かおもしろいことが始まるらしいぞ」という予感を覚えながらも、
さすがに初対面で気恥ずかしい様子。
鈴木さんは、そんな子どもたちの緊張を解きほぐすように
「これ、おもろいよ!」「この本知ってる?」とゆったり笑いかけながら、お話を始めました。

私とメリーゴーランド

 こんにちは、メリーゴーランド京都の鈴木潤です。メリーゴーランドは子どもの本の専門店で、三重県四日市にある本店は今年で創業38年目を迎えました。私は三重県四日市生まれ・育ちで、しかもメリーゴーランドのオープンは4歳の時のことだったので、小さい頃には親に連れられてよく本を買ってもらっていました。その後しばらく足が遠のいたものの、大人になってから、友達に絵本をプレゼントしたいと思った時、真先に頭に浮かんだのがメリーゴーランド。15年ぶりくらいに訪れた店内はちっとも変わってなくて、本を売る仕事っていいなあ、と漠然と思いました。その頃の私は広告代理店に勤めていて、自分が売るものに対する責任の重圧を強く感じるとともに、広告というかたちのないものを取り扱うことじたいに自信をなくしていたのです。本にはしっかりかたちがあるし、おもしろいかそうでないかはとてもわかりやすいし、なにより私自身、とても本が好きだったので、「バイト募集」の貼紙に惹かれるままに面接を受けたのが、運の尽き。それからもう20年くらいメリーゴーランドにいて、2007年に京都店を任されることになりました。

絵本選びは好みにしたがって、気楽に

 本屋をやっていると、お店に置く本はどうやって選ぶのですか、基準は何ですか、とよく聞かれるのですが、ひとことで言えば「好み」。結局はこれに尽きると思います。昨年、『本のほん』という冊子を、四日市店のまりちゃん(村田真理子)とオーナーの”ひげのおっさん”こと増田さん(増田喜昭)と一緒に作りました。お客さんからよく聞かれる質問をスタッフで出し合って、それぞれ1問につき1冊の絵本を紹介しながら答える、というQ&A形式のブックリストです。「文字に興味を持ちはじめた子におすすめの絵本は?」「すてきな仕事の絵本を教えてください」「かっこいいお父さんが出てくる絵本はありませんか」など、全部で20の質問につき3人で3冊挙げるわけですから、ぜんぶで60冊もの本を紹介したのに、驚くべきことに1冊も重複しませんでした。20年以上も同じ店で一緒に働いているのに、3人とも本当に好みがバラバラ。もちろん長く一緒に働いてきたからこそ、「あの人はぜったいこれ選ぶだろうから、私はこれにしよう」という微調整もできるのですが、3人いてそれだけ好みが分かれるのだから、1,000人の子どもがいれば1,000通りの好みがあるわけです。無限です。

 絵本を選ぶ時は、その人それぞれの好みを大切にして、あまり余計な線引きはしない方がいいと思います。たとえば、「子どもが電車の本ばかり選んでしまいます」とか「もっと子どもの視野を広げたい」という相談を受けることがあります。親としては、せっかくお金を払って本を買うのだから、子どもにはぜひともよいものを与えたいと思うのでしょう。小さいうちから好みや趣味に偏りが出ない方がいいというのも確かに正論です。でも、もっと気楽になっていいと思うんです。はっきり言って、本を読まなくても子どもは育つし、この本を読めば頭がよくなるとか悪くなるとか、そんな虫のいい話はありません。
 この本は素晴らしい作家が書いたものだからとか、推薦図書だからとか、大人がいくら後づけしても、当の子どもたちにはそんなことまったく関係ないんですね。そもそも子どもは、折込み広告だって、そのへんに転がってる紙屑だって、なんだって自分で勝手に遊んで楽しんじゃう。だから、必ずしも本でなくてもよいと思います。でも、長く本屋を続けていると「やっぱり絵本ってすごい!」と感じることが多々あって、今日は実際に何冊か紹介しながら、そのあたりのお話をしたいと思います。

大人も子どもも楽しもう!

『てん』
ピーター・レイノルズ/著
谷川俊太郎/訳
あすなろ書房 2004年

 『てん』は、「大人にはこんなことができるんだ!」と思った一冊です。お絵描きの時間が終わったのに、ワシテの紙は真白。「描けない!」と不機嫌な彼女に、先生はひとこと「なにかしるしをつけてみて そしてどうなるかみてみるの」と言います。ワシテは苦し紛れにマーカーを紙に押し付けるのですが、先生は怒ったり呆れたりせず、その紙を取り上げて「さあ、サインして」と言う。子どもがやみくもに描いた点を楽しんでしまえるこの先生に、感動しました。美術の先生は、生徒みんなにきちんと絵を描かせなければならないから、ワシテのように何も描けずにいる子どもがいたら、ふつうは何かしらの絵を描くよう促すだろうし、マーカーを紙に押し付けただけでは納得しないでしょう。でも、この本に出てくる先生には、そういう「邪心」みたいなものがない。単なる点を前に「サインして」という台詞が出てくるなんて、すごい!子どもと接するときにこんな気持ちを持っていられる人って、なかなかいませんよね。大人の、特に教師を目指している人の必読書にしたいくらい。もちろん子どもは、ワシテが描く大小様々でカラフルな点を楽しむだろうし、最後に出てくる真直ぐな線が描けない男の子に自分を重ねたりもするかもしれない。そういう子どもがのめり込める部分と、大人にとって大事なこととがどっちも詰まっている受け皿の広さが、絵本のすごいところだと思います。

『はしれ!かもつたちのぎょうれつ』
たむらりゅういち/文
ドナルド・クリューズ/絵
評論社 1980年

 さて2冊目です。「子どもが電車の本ばかり読みたがって困っています」という話をお母さんからよく聞きます。確かに電車の本は多いです。大人から見たらみんな一緒だと思うかもしれないし、似たようなものが多いのも事実です。でも、お母さんたちだって「また似たような服買ってる」なんて子どもに言われちゃったりしますよね。それと同じで、子どもは子どもなりに「どうしても読みたい」と思ったものを選んでいるのでしょうから、それならやっぱり読ませてあげるのがいいと思います。きっと少しずつ興味は移っていくだろうし、ずーっと好きなら、それはそれで大したものですし。この『はしれかもつたちのぎょうれつ』は、たくさんある電車の本のなかでも、シンプルですが、そのおかげでとてもかっこいい作品です。出版されたのは1980年。もう30年以上も版を重ねているというわけで、これは実はすごいことなんです。本屋をやっているのでたくさんの本と出逢いますが、うちのめされるような衝撃を受ける本は、年に一冊出逢えればラッキーな方です。日本は出版点数が多いし、本屋へいけば新刊絵本がずらっと並んでいますが、その本がいつまでもあると思ってると、ある時突然絶版になったりとわりと早く入れ替わってなくなっちゃったりするんです。一期一会と思って間違いないくらい。

子どもはどこに反応するかわからない

『おでかけばいばいの本』
はせがわせつこ/文
やぎゅうげんいちろう/絵
福音館 2006年

 お次はこれ、『おでかけばいばい』。長谷川摂子さん/文、柳生弦一郎/絵のコンビで福音館から『おでかけばいばいの本3冊セット』というのが出ていて、その1冊目です。ほかに『めんめんばあ』と『くらいくらい』があります。長谷川さんは、日本語の響きをとても大切にしている作家さんです。私はもともと、小さい子の本って文字も少ないし単純な反復が多いから、言葉なんてなんでもいいんじゃないかと思っていたんです。でも自分が親になって、何回も同じ本を読んで読んでとせがまれる立場に立ってみて初めて、「あ、つまらない本ってこっちも飽きるな、つらいな」と実感したんです。そういう「もうこれ子どもに持ってこられちゃかなわん」という本は封印しました。子どもの手の届かない高いところに置いて隠しちゃったりして。どうせ読むなら自分も楽しみたい、大人も楽しめる本がいいと思ったんです。

『たま、またたま』
星川ひろ子 星川治雄/作
アリス館 2009年

 耳ざわりのいい音、繰り返しが心地いいリズムというのがあるんです。「おでかけおでかけ ねっこたんこねっこたんこ」「おでかけおでかけ でんこぶんこでんこぶんこ」とか、長谷川さんの本はそういうところがいいですね。荒井良二さんの本にも同じよさがあると思います。読んでいてワクワクする。「言葉」じゃなくて、「音」。あかちゃんが喋る、まだ言葉になってない音って、聞いていてとても心地いいのですが、もしかしたらそれに近いのかもしれません。「これやったらほんま、なんぼでも読んだる!」って感じ。
 音だけではなくて「かたち」についても、子どもは素朴で単純な反復をとても喜びますよね。この『たま、またたま』は世界のなかにある、いろんなまるいものを探す本。シンプルであればあるほど、見る者の想像力は膨らんでいくものです。親子でいっしょに楽しめる一冊です。

『パンやのくまさん』
フィービー・ウォージントン
セルビ・ウォージントン/作
まさきるりこ/訳
福音館 1987年

 さて、5冊目は『パンやのくまさん』。いまの話とも通ずるのですが、子どもは音や色やかたちの反復にたぶん大人以上に敏感で、「まだこの本は難しいかな」「わからないだろうな」と思ってためしに読んでみると、意外なところに反応しだりするんですね。すごく喜んでるけど、いったいどこに反応しているのか、自分の子どもでもわからないこともあります。
この本のくまさんは「パンや」のほかにも、同じシリーズで「せきたんや」「ゆうびんや」「うえきや」「ぼくじょう」など様々な仕事をしていて、働くことの楽しさがひしひしと伝わってくるなあと思ったのですが、子どもの方は「ドサッ ドサッ ドサッ とパンをこねました」とか「いっこ にこ さんこ よんこ ごこ とお金をかぞえました」とか、そういうところにめっちゃウケてる。それで、そういえばこのシリーズって音を繰り返すところが多いな、と気づいたんです。子どもの反応ってなかなか予測できないので、子どもの好みを受け入れることで親が気づけることも多いと思います。私自身、自分なら読まないだろうな、というようなものでも、子どもが夢中になっているのを見て、「そんなに好きというなら」という気持ちで買ってみたら、本の新しい魅力を発見することができた、という経験がたくさんあります。

物語を共有し合う喜び

『くうき』
まど・みちお/詩
ささめやゆき/絵
理論社 2011年

 最後の一冊は『くうき』。詩人のまど・みちおさんの一片の詩に、ささめやゆきさんが絵を付けた絵本です。ささめやさんは、この絵を描くのに5年かかったそうです。空気の絵本。空気は目で見ることはできないけれど、なにしろ絵本だから絵を描かなきゃならない。それでささめやさんは苦しんで、その結果、すごくいい絵本ができたんです。
この詩を、まどさんの詩集で読むことももちろんできます。でも、たくさんのなかの一片の詩として読むのと、それが一冊の絵本になっているのとでは、ぜんぜん意味が違います。単純に間口が広がりますから、0才でも80才でも楽しめる作品になるわけです。
私が、なぜ子どもに絵本を読んでほしいかというと、一番の理由は、物語を共有したいからなんです。物語というのは目には見えないし、手で触れることもできないし、100冊の本を読んでそれらの物語を実際にぜんぶ記憶できるかというと、たぶん無理でしょう。でも、物語を共有できる素晴らしさというのはもっと些細な、日常的なところにあって、たとえば私と子どもとで同じものを読んでいると、普段の生活のなかで「これってあの絵本のあれとそっくり!」とか何気ない会話が自然に出てくるんです。そういう習慣とか、物語を共有している同士でないとわかり合えない喜びというのは、どんなに小さくてなんてことないようなことでも、とても大切だと思います。秘密の宝物ですね。

本棚にずっと置いてもらいたい

 今日は全部で6冊の絵本を紹介しました。いろんな本があるように、本屋さんにはいろんなお客さんがきます。本の選び方もももちろん人それぞれ。「こういう本はもう持ってるでしょ」とか「もっと字の多いのにしたら」とか「こんなんちっちゃい子の本じゃない」などなど、本屋にいると、そんなことを大人が子どもに言っている声がよく聞こえてきます。それで子どもが字の多い本を持ってくと、「こんなん読まれへんやん!」と突っ込まれたりね。子どもたちは、親の様々なリクエストをかわしながら、どれなら買ってもらえるのかをたくさんの本のなかから探っていきます。
 最初にも言いましたが、結局は「好み」にこだわればそれでいいと思うんです。よく絵本の裏表紙に「読んであげるなら3歳から、自分で読むなら小学生から、初級向き」とか書いてありますが、そういうのはまったく無視してもらってよいです。育児書の推薦図書やなんかもあくまでも参考程度にして、好みにしたがいましょう。好きなものって、子どもにしっかり伝わりますからね。
パッと見て賑やかでおもしろい本、たとえば押したら音が鳴るとか、開いたら何かが飛び出してくるとか、そういうのを子どもは喜ぶんじゃないか、と大人は思ったりするんですが、それも大人のちょっとした勘違いです。もちろんその時は喜ぶでしょうが、20年30年とそれを持っていることになるかどうか、いつか何かの折りにそれを読み返すだろうか、一生の一冊になるかどうか。そういうことを考えると、やはり違うと思うのです。だからメリーゴーランドには、あまり音が鳴る本などは置いていません。正直に言うと、自分の好きな本を並べてます。自信を持って「好きです!」と言える本じゃないと、お客さんにおすすめできませんから。
なので、いますごく売れている本でもうちに置いていない場合もありますし、四日市店と京都店とでもぜんぜん品揃えが違うんです。子どもの本は、ベストセラーでなくロングセラーだとよくいわれます。おばあちゃんが小さい頃に読んでいた本を、その孫もまた読んでいる、ということが絵本の世界ではあるのです。考えてみれば、これはすごいことですよね。
みんな本を読まなくなったとか、電子書籍が出てきたりとか、本をめぐる状況や本のあり方というのが変わってきていますが、いま小さな子どもたちが読んだ物語は、50年後だって100年後だって、絵本を開けばやっぱり同じようにそこにあるんです。だから、本はなるべく買って、末永くおうちの本棚に並べて置いてほしいな、と思います。もし京都に遊びに来ることがあれば、ぜひメリーゴーランドを覗いてみてください。

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 ブックトークが終わった後は、紹介された絵本の販売会も行われました。最初は緊張の面持ちだった子どもたちも、トークの途中からずっとはしゃぎっぱなし。お母さんたちもそれぞれ真剣に本を選んだり、名残惜しそうに話し合ったり、本当にみんな楽しそうでした。本屋さんを飛び出して本について語る「ブックトーク」という試み。ぜひ今後ともいろいろな場所で続けていってもらいたいものです。
近日中に、鈴木潤さんのインタビュー記事も掲載予定です。今回のブックトークで紹介しきれなかった本のこと、ご自身の思い出の一冊、人と本とを繋ぐ本屋さんのお仕事のこと、絵本ではない本のこと、などなど。どうぞお楽しみに!

鈴木潤(すずき じゅん)
三重県の「子どもの本専門店メリーゴーランド」で13年、企画を担当。児童文学や絵本の作家のアトリエ、チルドレンズミュージアムなど海外を歴訪。07年の京都出店に伴い店長就任、京都に移住。09年夏に長男、13年に次男を出産。雑誌やラジオなどで子どもの本を紹介するなど、子どもの本の普及に力を注いでいる。少林寺拳法弐段。 milkjapon.com/blog/suzuki/

文:石鍋健太
1982年生。東京都世田谷区下北沢の古書店クラリスブックスに勤める傍ら、フリーライター・エディターとしても活動。二児の父。

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