くらすこと新連載
毎日毎日、ごはんを作って、洗って、片付けて。また、「今日は何にしよ〜」と考える…。ごはん作りって、正直、たいへん!
そんな日々のごはんについて、くらすことスタッフで話していて、みんなが思ったこと。それは、「みんな、実際のところ、何食べているの〜??」
おしゃれじゃなくてもいい。映えなくてもいい。知りたいのは、着飾っていない、毎日のふつうのごはん。
そこで、くらすことが気になっている方々に、ごはん日記をつけていただくことに。
後日届いた日記には、気になる献立はもちろん、作る人、食べる人の思いや、真似してみたいアイディアがぎゅっと詰まっていたのでした。
料理家の和田麻紀子さんは、農家さんの畑仕事のお手伝いをしながら、デザイナーの夫の昭一さん、4歳、8歳の2人のお子さんと、福岡県の中西部に位置する自然豊かな那珂川市に暮らしています。
麻紀子さんは、会うと必ずと言っていいほど、農家さんから教わった野菜の食べ方や、子どもたちも喜ぶ料理のアレンジ法などを教えてくれて、くらすことスタッフは、「そんな食べ方があったなんて!」と、いつも大盛り上がり。
同時に、麻紀子さんが日頃考えている、食の未来のこと、子どもたちに伝えていきたいこと、食に関わる自身の想いを、飾ることなく話してくれるのです。そんな麻紀子さんの日々のごはんが気になって、和田家のごはん日記をつけていただくことに。
第1回目は、秋から冬のごはん日記です。
文・写真:和田麻紀子
編集:神武春菜
待望の雨。畑に苗を植えるタイミングは、雨の前を狙って植えることが多いが、晴れ続きでタイミングがなく、結果植えてから水をまくこの頃だった。面積があるとこの散水作業も重たいホースを運びながらなかなかの力仕事。雨が降ると子どもたちは、「畑が喜んでるね〜」と言うようになった。人間も野菜もほとんど水だ。
畑仕事でない今日、低気圧に弱い私は頭がぼんやり天気痛。頭を晴らすためにスパイスを欲する。夫が用途不明で買ってきた合挽でカレーだな。茹でてあるひよこ豆と畑のトマトとジュースを作った時の絞りかすのニンジン(全部冷凍ストック)。生姜、ニンニク、カレー粉、クミンとコリアンダー、ターメリック、作ったケチャップと市販の中濃ソース、塩麹。
満たされた。スパイスは薬だ。自分のごはん日記に「おいしかった」と記録するのは何だかだけど、確実にその素材を育てている人たちの力がおいしくさせている。
長女の運動会。今どきで、午前中に終わり、給食もお弁当もなし。PTA役員の私は子どもより先に出て、片付けして子どもより後に帰ってくる。珍しく早起きして昼ごはんの支度をしておくか!と唐揚げを揚げて大量のおにぎりを握って、多分食べないけど小松菜のナムルを。朝とお昼と兼用のおにぎりを急いで食べて、結局ワクワクして待ちきれない長女がだいぶ早いけど一緒に出て走って学校へ。
エモいという言葉の意味を去年子どもの初めての小学校の運動会で知った。本当は子どもの出番見たら帰ってね、と言われていたのに、ほとんど知り合いもいないのに、最後まで見てジーンとして立ちすくんでいた。
今年は昨日の練習も見ているのに、また6年生の演目で泣く。娘も楽しそうで何より。令和でも高学年はソーラン節や花傘。バタバタと帰ってきてお昼ごはんに朝作ったものを食べる。バタバタしていた証拠に唐揚げが写真に写ってない!笑
夫が仕事でロゴを作ることになった久留米のアスパラ農家サカイさんのところへ同行。アスパラは今期がちょうど終わり。このもしゃもしゃとした葉がアスパラだとは。
以前、サイキさんが「作りたい野菜ある?」と聞いてくれたことがあって、アスパラが好きだという話をしたらアスパラには興味がなかった。この日、サカイさんにお話を聞くとアスパラは10年同じ株で育てることから、リスクを減らすために弱い除草剤を撒いているという。無農薬で育てるのは難しい野菜なのだな。どうできるかも知らずに提案してしまった自分が少し恥ずかしくなった。
農業に携わって農薬を使う気持ちも理解できるようになった。できたら使いたくないのは農家さんの気持ちであろう。除草は根気のいる作業だ。農作業の過酷さと、野菜の生態を知って、慣行農法の野菜との付き合い方を理解することで、いろんなことが腑に落ちるようになった。畑と農に関わる人たちは私にとって大人になってからの先生。
久々に朝から焼き魚。隣で次女が「パンが良かった」とずっと言っている。焼き魚はお皿ごとグリルで焼けるもので焼くと楽。一度割ってしまい2代目。
今日も運動会代休なので長女はお弁当持って学童へ。キノコを入れたオムライス。自分で採ったし、おいしかったからかエリンギが好きになったと。なので隙間にエリンギを炒めたのも入れておいた。
長女が小さい頃は、この子は野菜食べられるようになるのかな、とたそがれていた時期があったけど、大きくなって経験とともに食べられるようになった。自分で採ったとか、誰かが作ったとか、不意なきっかけで食べられるものが増えていった。あんまり頑張りすぎず、でも諦めずに食卓に出し続けることが大事だと思う。
長女が「明日はフレンチトースト1人で作るから」と昨日サクサク買い物して、私がフランスパンで作ったのがいいとリクエストするも、「妹が皮が硬いというからこっちのがいいと思う」と却下される。
一人先に起きて、ささっと作り「どうぞー」と言って、長女はメープルシロップだけ、次女はクリームチーズとなぜかバターも塗ってシロップはいらないと。長女はさっさと食べてりんごつまんで出ていった。私のお皿にはあんまり染み込んでない端っこが、妹には一番おいしそうに焼けたのが置いてあった。
友人が生落花生を烏龍茶とスパイスで煮ていたのがおいしそうだったのでやってみた。TORiの相棒ましゃが送ってくれた台湾の烏龍茶を贅沢に使って。コトコトしている間の香りが、ちょうどこの季節に一緒に子連れで行った台湾の旅のことを思い出させる。香りの記憶って鮮明だ。もっと八角入れてもよかったな。
夏野菜の収穫を終えた畑の片付け。除草はコツコツ大変だけど、片付けは筋トレ。久々に全身が痛い。収穫されなくなって野生化した野菜たちを見るのが好きだ。大葉は枯れてもしっかり香りを畑に残し、オクラは支柱もなしにどこまで伸びるの?と見上げる高さに。モロヘイヤはもはや枝。刈ったのを運ぶだけで一苦労だった。
ヘトヘトだけど畑の大根とカブを炊いたのを食べたくて夜はおでんに。以前友人が作ってくれたおでんが幸せの味で、中でもエリンギが主役級の存在感。それ以来、エリンギは必須。むしろ月曜にもぎったエリンギを食べたいために筋肉痛の体で作る。
新米の玄米に昆布の佃煮入れてしれっとおにぎりにして出したら次女が食べていた。「サイキさんが作った玄米おいしいね」だって。あとは高菜を塩漬けにしていたのと梅を混ぜておにぎり。高菜食べないかなと思ったら長女が「うまいこのおにぎり!」と言って食べていた。そういう小さなことが嬉しい。
東京から福岡に拠点を移し、
農業のお手伝いをすること2年目。
1年目は右も左も何もわからなかったことも、
2巡目になると景色が違って見えた。
知っていると見えてくるものが違う。
農産物を消費する価値観も変わった。
自分が住んでいる半径何キロかで育ったものを
食べて暮らすことができるようになった。
毎日作って食べて洗ってを繰り返す。
これってとても幸せな繰り返しのはずなのに、
とてもめんどくさい作業。
でもそれが毎日。
余裕のある暮らしとは程遠い日常の和田家の現実。
私も誰かの日常から教えてもらうことばかり。
知ることで見えるものが少しでも変わったら
嬉しいなと思います。
そして我が家の朝ごはんの正解はまだわからない。
と思った記録を終えた次の日の週末の朝、
豚汁と塩むすびと漬物の朝食だった。
長女がふと「今日お昼までお腹すいたーってならなかったんだよね」と。
「ごはんだったからかな」というと「これからお米がいいかも!」と。
これが正解かもしれない。
みんなの未来の楽しい食卓が続くことを願い、
今日も作り手さんへ感謝を持って。
私たちの身体は3か月前に食べたものでできている、らしい。
think globally,act locally.を常に思いながら。
ひたすら私が寝坊しているということがわかったので早く寝ます。
和田麻紀子
和田麻紀子
profile
神奈川県生まれ。3歳と7歳の姉妹の母。学生時代、世界各国を旅し、訪れた国の日常食に興味を持つ。世界のお母さんの味と古くから伝わる保存食をテーマにフードユニットTORiを岡本雅恵と共に主宰し、中目黒でカフェとケータリングを行う。社員食堂やレシピ開発などをしながら2021年まで東京で活動。2022年、土に近い生活を、と福岡県那珂川市に移住し、無農薬野菜を育てる畑で働きながら食まわりのことと改めて向き合う生活をしている。
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