「小さな森 イスキア」を訪ねて

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長男が生まれてから、かのうかおりさんは長年の願いだったフランス留学へ旅立った。テーマはチーズ。酪農家や製造所を訪れて、地方色豊かなさまざまなチーズについて学ぶ。特にフランスとスペインの国境にまたがるバスク地方の文化に心を奪われ、帰国後にレシピを開発したバスクのチーズケーキは、全国的な人気を博す。
現在はオンラインで「カオリーヌ菓子店」を運営しながら、子ども向けの料理教室を中心に行っている。

かおりさんにとって「食」の原点は子どもの頃の食卓にある。
「両親は食卓をとても大事にしていました。料理好きな母の作った手料理がテーブルに載り切らないほど並びます。味や調理法のことなど、会話が弾んで、食卓がとても明るくって。すると父が食材について話を始め、歴史にまで及ぶこともあって、その話も大好きでした」

あるとき、食卓に込めた母の思いを聞いた。
「あなたを育てているとき、おばあちゃんから、うまかろうが不味かろうが、自分のつくったものをたくさん食べさせなさい、それが身も心も育てることだからって言われたのよ、って」

「食卓は受け継がれるんだなと思いましたね」
かおりさん自身はフランスの食文化を深く学んだ。しかし、子どもの食物アレルギーがわかると、母が得意とし、自身も幼い頃から慣れ親しんだ和食が中心になった。両親から受け継ぎ、誰に言われるでもなく実践してきたことが、大学時代の恩師から伝え聞く初女さんの思想とつながっている気がしていたという。

一方で働く世代は、日々の忙しさからどうしても食卓が疎かになってしまうと感じることがある。
「私も忙しいと手を抜くことはあります。でも一緒におむすびを結ぶだけで、幸せで心がまるくなるんですよね。そういうことを伝える活動がしたいなという気持ちが、ずっとあるんですね」

かおりさんは、最近、畑を始めた。「出来上がった野菜しか知らないことがずっとコンプレックスだったから」
「両親は長崎の壱岐の島で育っているから、葉っぱを見ただけで、あれはなんとかの材料で、と言える。それがうらやましくて。これから、子どもたちに料理についてもっと多くのことを伝えたいと思ったときに、農作物を育てる経験のないままでは、大事な部分が伝えられないだろうと」

そんな話を友達にしたところ、自分のおじさんを紹介してくれた。
「80歳の農家のおじいさんが私の先生。大豆を育ててみたいと言ったら、『僕はやったことはないけれど、面白そうだからやってみよう』と言ってくれて。そういえば自分のおばあちゃんも畦道で大豆を育てていたよ、と」

在来種の種をもらい、10月中旬に収穫。収穫祭をして祝ったものの、2週間経ったら蛾の幼虫がたくさん湧いてきた。でも諦められなくて、手作業で仕分けを敢行。初めての大豆栽培は、先生もかおりさんもわからないことだらけ。ただ、やれることはなんでもする心意気だった。

「大豆には命の循環を感じます」
大豆から豆腐へ、また発酵して味噌になり、日本人が常食するタンパク源。西ヨーロッパで1万年前から作られてきたチーズも同様に、人々の重要なタンパク源だった。その共通点に気づいたとき、後悔したとかおりさん
「なぜ私はチーズのことばかりやってきたんだろう、日本人なのに。発酵のことも味噌蔵に何度か行ったことがあるくらいだし、田んぼの畔で大豆を育てていたということも、おじさんの話を聞くまで知らなかった」

かおりさんの話に耳を傾けていた戸倉江里さんが口を開いた。
「田んぼの畔で大豆、小豆を育てることはかつて日本の広い地域で行われていたそうなんですよ。『畦豆(あぜまめ)』と呼ばれて、畔に豆がびっしりなっている里山の風景は、日本の原風景といわれているんです」

江里さんはフォトグラファーとして活動しながら、13年前、福岡県との県境に位置する大分県・耶馬溪に夫婦で移住。農薬や肥料を使わない自然栽培で米と少量の大豆を育てている。

水田にしても、単に減反政策や後継者不足のために減っているだけではない。近視眼的な、時に短絡的とも言える施作を前に、個々の農家にはなす術のないことがあまりにも多い。

「うちは米農家ですが、夫が師と仰ぐ人から分けてもらった種をずっとつないでいるんです。育苗といって田んぼの苗を育てるのも、春先に地域の山に登って、山の土を分けてもらって種を蒔くところから始めているんですね。地域の土と地域の水でお米作りをさせてもらっている、すごく幸せなことだなと思いながら」

江里さんは言う。昔、通っていたヨガの先生から「人間だけが地球上の生き物の中で調和が取れていない」という話を聞いたとき、その理由がよくわからなかった。けれど、種をつなぐようになったいまはわかる。

「収穫して、その種を採って、また翌年種を蒔くっていうことをしたときにハッとして。種を蒔くまでは、収穫して食べるため、これを売って生活をするためと思っていたのが、命を繋ぐサイクルの上の中に自分がポンって入れた気がして。その種に動かされているような気持ち、まるで蜜蜂になったような。自分たちが食べるためだけではなくて、命のサイクルの中にいるんだなと思えたんです」

自分たちの手で育てた田んぼにトンボが来る、クモが巣を張っている。それを見たときに、虫たちと同じく、命の媒介者みたいになったような気持ちになった。「これまでこの感覚が抜け落ちていたんだ」
農業を始めてから、江里さんはこれまで感じたことのない気持ちに満たされる体験するようになった。
「朝起きると、ものすごく幸せな気持ちになるときがあるんです。起きた瞬間、生まれてきてよかったって、思わず涙が出るようなときが」

「結婚するとき、母に旦那さんに幸せにしてもらいなさいよと言われて、違和感があったけれどそれが何だったのかよくわからなくて。だけど、今思うのは、幸せを感じられる状態に自分があるということかなって。それは兼業農家になって、幸せを感じられる自分が新しく生まれたからというよりは目を覚ましたというような感覚。胸が急にいっぱいになったり、すごく感動したりするのはたぶん、山だったり土だったりとつながっているような瞬間があるからなんだろうな」

「すごい気づきだなぁ。初女さんに聞かせてあげたかったなぁ」感に耐えない様子で俊雄さんが言った。
「いのちの循環ですね。初女さんなら何と言われただろう。『霊的な気づき』と言われたかもしれませんね。自分の中に眠っていたものが目を覚ましたという感覚は、私には一人一人の中に神様がおられるということのように感じます。すごいなあ、そういう体験があるんですね」

江里さんが続ける。
「農の世界の豊かさに感動する、だからやめられないですね。兼業農家になって後悔したことはありません。刈り取った稲を掛け干ししているときに台風が来たりすると、ドキドキして寝られないし、イノシシも来るし、そんなことはたくさんあるんですけど、農業をするようになって、私、手を合わせるということが自然にできるようになりました」

「大いなるものに対してね」、紀美子さんが言い添えた。

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