写真・繁延あづさ

長崎・雲仙を拠点に、
料理と理論を東洋の視点から伝えている奥津典子さん。
18 歳、12 歳、3 歳の歳の差のある、3人の子育てまっただ中です。

「子どもひとり一人の個性が違うように、
土地土地で風土や食材も違い、たのしい学びがあります。
そしてますます、台所こそ全ての土台だなあと思うのです」

食事は毎日のもの。おいしいと、毎日が愉しく豊かになります。
この連載では、奥津さんが日々実践する、
家族が元気になる台所の知恵を紹介します。

vol.1

切り方は大切

家族の健康は日々の台所から。
おいしくて、からだにいい食事の
決め手は「切り方」にある、と奥津さん。
あたり前のようでいて、実は奥が深い切り方。
からだを正しく使うとラクに切れて、野菜もよろこんでいるみたい。
おまけに切るときの音や体感の心地よさも味わえて
毎日の台所がぐんとたのしくなります。

ちゃんと切れた食材は
おいしくて消化・吸収もいい

食材がちゃんと切れていると断面がみずみずしくて、
口に入れた瞬間からおいしさがわかるんです。
子どももよろこんで食べてくれますし、
すーっとからだに入るので消化・吸収もいいのです。
そうして吸収されたものは素直に血液や細胞になってくれます。
血液の状態がよくなると腸内環境も整いますし、
免疫器官も丈夫になっていい状態になります。
気持ちのうえでも、なんとなく安心感が出てくるんです。
子どももすやすやとよく寝てくれますね。

お教室をしていると大抵の方は最初、ちゃんと包丁が持てていません。
包丁を握ったりつかんだりすると、余計な力が入ってからだにも無理がありますし、
野菜の繊維をつぶしてしまいます。
そうした食材が口から入ってくると、舌や胃腸は微妙にストレスを感じますし、
消化・吸収の負担になるので胃腸が弱っていってしまうことも。
とくに離乳の時期の子どもはつぶれた野菜が口に入ってくると
エグくて出してしまうこともあります。
ですので、ちゃんと包丁を持てるようになるといいですね。

1. 包丁の正しい持ち方

① まな板を自分と平行になるように置きます。

② 余裕があるときには、包丁を両手で持って自分の呼吸を通します。すると扱いやすくなります。

③ まな板に対して包丁の峰(刃の背の部分)を90度に立てます。

④ 利き手とは反対の手で包丁の刃を持ちます。

⑤ 利き手を包丁からいったん離します。

⑥ 利き手側の足を半歩引きます。
反対側の手で刃を持ったまま、利き手を上からかぶせるようにして柄の根元の部分を持ちます。

包丁を持つときのポイント

─── 小指と薬指、中指の3本の指で持つ

小指側から順に指を包丁に添えていきます。力を入れて支えるのは、小指と薬指、中指の3本の指。人差し指と親指は、補助。持つというより、挟み、方向を示すイメージで。
*小指に力を入れると脇が締まり、重心が下に下がります。すると肩の力が抜けます。

からだと包丁が平行になるように持つと、包丁を動かすときに肘がからだに当たることなく、スムースに切れます。

─── 握る、つかむは NG!

親指で包丁の嶺(みね)を押して切ると、肩に力が入り、繊維をつぶしてしまいます。

人差し指を嶺(みね)に添えるのは、包丁を横にして魚などを切るときにはよいです。しかし、垂直に野菜を切るときは繊維をつぶしてしまうので、避けましょう。

⑦ 切るときは包丁を前後に動かします。
極端に言うと斜めに入れて、斜めに抜くようなイメージです。
利き手の反対側の足で全身の重心を支え、利き手側を軽くするとラクに切れます。

丁寧に作業に集中すれば
うまく切れるようになる

日本人は大事なことを「大切」と言いますよね。
きっと昔から、切ることがどんなに大事なのか知っていたのだと思います。

包丁がちゃんと持てるようになるまでは、半年くらいはかかります。
日本人によくあるクセですが、「うまく切れない」とか、「できていない」とか、
評価をしてつまづいてしまうことがあります。でも、極端な話、できていなくてもいいんです。
余計なことを考えずに、丁寧に作業に集中するだけでうまく切れるようになりますよ。

Vol.2は切り方の実践として「お味噌汁」のつくり方を紹介します。

奥津典子

風土と身体に根ざした台所の理論と料理を発信。
2003年よりオーガニックベースを、07年より福島にて、食堂「ヒトト」(旧Base café)を夫と営む。
18歳、12歳、3歳の一男二女の母。2015年より、長崎県雲仙市小浜町に暮らす。
東京・京都・長崎県内を中心に教室と講座や「お母さん会」などで教えている。
オンデマンド講座「子育てのきほん」では、育児と教室業の両方から培った、
実際的で役立つ子育て論・料理を配信中。「台所料理の基本を学ぶ」通信講座を9月から配信予定。ご予約はオーガニックベースのホームページから。

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撮影    高橋マナミ
編集      天田 泉
デザイン  嶌村美里