みんなの「ものさし」通信
第一回「PERFECT DAYS」を見て、自分の暮らしを見つめ直したくなった。
ドイツの名匠ヴィム・ヴェンダース監督と、役所広司さん主演の映画「PERFECT DAYS」。「THE TOKYO TOILET プロジェクト」で世界的な建築家やクリエイターによって改修された東京・渋谷の公共トイレを舞台に描いた人間ドラマです。
この映画が公開されてから、くらすことのスタッフの間で話題に。その流れからミーティングで感じたこと、考えたことを、それぞれが話す場面がありました。その内容を聞いていると、なんだかわたしたちがくらすことを通して考えていきたいと思っている暮らしや生き方の「ものさし」に通じる部分がたくさんあって、自分たちの「ものさし」がアップデートされたような気がしたんです。
この気持ちや考えをみなさんにもシェアしたい!と思い、スタッフの感想をまとめてみました。同じ映画を見ても、思うことは人それぞれ。みなさんは、どんなことを考えましたか?
※以下、ネタバレを含みます。まだご覧になっていない方は、ご注意くださいませ。
みんなの「ものさし」 通信って?
周りの意見に惑わされず、自分のこころに素直な選択したい。わたしが大切にしたいことや選択。そんなときに、必要な指標となるものをわたしたちは「ものさし」と、呼んでいます。
幸せってなんだろう? 本当に必要なことや大事なことって? ひとりひとりが考える、「わたし自身のものさし」を見つけるのに、役に立つことができたら。そんなことを掲げて、くらすことは活動しています。
自分のこころに素直になって、自分のものさしを見つけたい…と思っていても、慌ただしすぎる日常で「ものさし」を見つけていくのは、なかなか大変なこと。
そんな日々の中でも、「これがわたしの大切にしたいものさしかも!」と気づかせてくれる映画やドラマ、本との出会いがあります。そんな時に、しっかりと自分たちのこころと向き合って、言葉にしてみることにしました。
毎回ひとつのコンテンツをテーマに、それぞれの考える「ものさし」をお届けしていきます。
第1回「PERFECT DAYS」を見て、
自分の暮らしを見つめ直したくなった。
自然と一体化する一瞬。ひとと関わり、通じ合えるその一瞬。人生はそんな光の連なりでできている
2023年の後半。ひととの関わりの中でしんどい出来事がいろいろあって、疲れ果てていた。そんなときに勧められてたまたま見た『PERFECT DAYS』。
朝、家のドアを開けて見上げる空。木々の隙間から届く木漏れ日の煌めき。自然と一体化するその一瞬。人生は、そんな一瞬の光の連なりでできていて、わたしはそれを知っている。そう、わたしはそのことを知っている。それが生きる幸せだということを。
そしてそんな幸せの意味を知っているからこそ、家族や友人や、さまざまなひとと出会い人生は深みを増すことも知っている。
スナックのママ(石川さゆり)の別れた元夫(三浦友和)と川で出会い、ガンで長くはないという彼とこんな言葉を交わす。
「影と影が重なると濃くなるんですかね?」。
影を重ね、平山(役所広司)は言う。
「ほらちょっと濃くなったような気がしませんか?変わらないなんてそんなバカなことがあるはずがない」
ひとと関わり、通じ合えるその一瞬も、光の煌めき。
自分を生き、人と生きることを諦めずに、そう信じていこうと思えた映画でした。
淡路島の「心に風」のハーブ畑。植物と一緒に過ごした友に癒やされた幸せな一日。
くらすこと代表 藤田
くらすことをはじめて来年20年ということに先日気づき、おののきました。好きな顔はシソンヌのじろう。最近山﨑健人がかわいいと思いだし、いよいよ本格的なおばちゃんになってきた気がします。
日々の暮らしの中の“他者を介在させない自分だけの幸せ
観終わった後の最初の感想は「満ちている」「足りている」ということ。あれも、これもと欲張ってしまう自分を優しく制してくれ、十分足りてるよと教えてくれる、そんな映画です。日々の暮らしの中の“他者を介在させない自分だけの幸せ”について深く考えさせられました。
映画は好きでよく観ますが、何日にも渡って自分を包み込み価値観を揺るがせるものはそう多くありません。これはその貴重な1本となりました。
最近読んだ本に「この世の中で1番大切なのはリラックスできていること」という一文があり“ああ、まさに本を閉じて眠りにつく平山はこの状態なのだ”と思いました。私も他者を介在しない自分だけの満ち足りたパーフェクトデイズを積み重ねていきたいです。
映画を観てから、ふと空を見上げることが増えました。
商品企画スタッフ 赤間
趣味は洋裁と映画鑑賞。お散歩しながらのラジオも欠かせません。お気に入りのラジオはオードリーとロバート秋山
心静かにささやかな幸福を噛み締める姿がとても印象的でした。
映画を観終わった後に、「いったい今観たものは何だったんだろう」と考えさせられたり、余韻に浸ることができる映画が私にとっての好きな映画です。この映画はそんな1本になりました。
平山さんは自分自身の「ものさし」を持っているひと。自らの状況を受け入れ、心静かにささやかな幸福を噛み締める姿がとても印象的でした。
まだ自分の中で咀嚼中なので、うまく言語化できないのですが、生きる喜び、怒りや悲しみなどの感情、孤独、そして周りの人たち全てを抱きしめて生きたい、と思いました。
(※犬山イヌコが個人的にツボなので、古本屋の店主役がぴったりで最高でした!派手なストーリーではないので、出てくる人のキャラクターが際立っているなぁと思いました。)
毎朝起きたらカーテンを開けて、空を見て、遠くの山を見る。私の日課です。(山を見て、キャンプ行きたいな〜ってなる)
カスタマーサポート 川尻
最近のブームは、木彫りの熊を集めること。気づけばそれ以外の熊グッズも自宅に増殖中。
ずっと大切にしたいことを再認識できたような映画でした。
毎日は繰り返しのように見えても決して同じ日はなく、わたしにとっての「いま、ここ。」や「この瞬間の美しさ」「この瞬間の自分にとっての心地よさや心あたたまる小さな幸せ」を見つけて、ひとつひとつ愛でているようなトイレ清掃員・平山のあの柔らかい眼差しは今でも忘れられません。
ふとした時に空を眺めて今日も美しい空だとその一瞬を噛みしめたり、木漏れ日の美しさに見惚れてシャターをきるシーンはもちろん、特に気づきのあったシーンは、フィルムカメラで撮り溜めた写真を現像して、写真を選別、年数ごとに分けた缶に入れて押入れにそっとおさめるシーン。10年分?それ以上?の缶が押入れの中にぎゅっと積まれていたのですが、きっと誰かに見せるためのものではなく、自分の心の中にそっとしまうようなそんな感覚で大事に保管をしているのだろうなと感じられました。
わたしも日々の気づきをメモに書き留めたり、写真におさめることが多いのですが、このそっと心のどこかにしまっておく感覚って、ほかほかとした温かい気持ちを心に貯めていくようなものだよな〜と、なんだか平山と重ねている自分がいました。この毎日の小さな幸せみつけが毎日を色づけてくれて、一日一日が満たされていくのだろう…。これから先もずっと大切にしたいことを再認識できたような映画となりました。
そんな今日も、晴れていたので仕事場へは自転車で通勤。いつもの道で、いつもの橋を渡るのですが、水面がキラキラしていたり、鴨が3羽のんびりと泳いでいたり、木々や雲が水面に映ってゆらゆらしていたり…信号待ちの間、ふと昨日とは異なる美しい景色にうっとりとしている自分。まだまだ映画の余韻に浸っている、そんな朝でした。
あともうひとつ。2020年 – 2023年の渋谷区のプロジェクト「THE TOKYO TOILET」で設計された安藤 忠雄さんや坂 茂さんの個性的なトイレがそれぞれのシーンに出てくるのですが、前職が建築系だったこともあり、建築やグラフィック的な視点でも見どころがたくさん。映画の後も「THE TOKYO TOILET」のWEBページをみながら、それぞれのシーンを思い浮かべてしまったほどです。
ゆらゆら、きらっと、愛おしく感じたものや景色は、つい写真に撮ってしまいます。
編集スタッフ 福場
こころと身体の巡りを良くすることを心がけて過ごしています。去年は志賀島10kmマラソン。今年は和太鼓か?
今日何をするべきかがわかっている人は、実は幸せな人なんじゃないか。
主人公の平山さんは自分のルーティンがはっきりある人で、あまりまわりに左右されずに、自分の幸せを知っている人だなと思いました。木漏れ日を見つけること。仕事終わりの銭湯とビール。小さな苗木を育てること。眠る前に本を読むこと、などなど。側から見たらそれはささやかすぎて、本人ですら幸せとは思っていないかもしれないけど、自分がどんな人間で、今日何をするべきかがわかっている人は、実は幸せな人なんじゃないかと思います。
そんな淡々とした生活を見ているうちに、不思議と私の心も満たされていきました。そして、ルーティンの合間に起こる予想外の出来事(それは人との出会いによって起きる!)こそ、人生のドラマだなあ、とも。
印象的だったのは、仕事の日と休日のルーティンの違い。気に入らない写真はびりびり破いていい写真だけを保管していること。無口だけど、飲み屋の主人とのコミュニケーションは少し楽しそう。夜は小さな灯りで眠くなるまで本を読み、朝は今日やるべきことがわかっている人のスッキリとした目覚め方で、朝どうしても布団の中で眠気を引きずってしまう私は、そのぱっと目が覚める感じに「これこそが理想の目覚めだ」と感化されました。(そして早起きを意識する日々へ・・・いつまで続くか?)
去年読んだ『海からの贈物』という本が私的にかなりヒットだったのですが、「私たちの生活は煩雑すぎる」「何よりも大事なのは自分自身との調和」「1人になる時間が必要」ということを綴っていて、『PERFECT DAYS』とも響き合う本だなあと思いました。
朝ゆっくり起きて、のんびりコーヒーを淹れるのが私の休日のルーティンです。
編集・書店スタッフ 見月
平山の就寝・起床シーンに感銘を受け、生活リズムを朝型へと移行中。眠気とたたかいながら本を読むシーンがよかったです。
「今は、今!」がわたしの心に響きました。
朝、おばあさんの掃除の音で目覚め、身支度をして、盆栽に水をやり、外に出るときに空を見上げてにっこりと微笑む。淡々としたルーティンの中でも、その時間を噛み締めるような平山さんの表情。そして、自転車に乗りながら、姪っ子ちゃんに平山さんが言った言葉。「今は、今!」がわたしの心に響きました。
なぜこんなにも平山さんの日常や佇まいに惹かれているのか…それは、わたし自身が「いま」を感じられていないからだなあ〜と実感しました。わたしの日常には、今という時間とスマホの中にある時間がいつも共存しているような…。朝、スマホの目覚ましで目覚め、SNSをチェックしながら準備をして家を出て、歩きながらチラチラとスマホを覗く。
1日を振り返った時に、今日がどんな空だったか、自分がどんなことを感じたかなんて、よく覚えていないかわりに、スマホばかり見ているんだなあと反省しました。
私も、木漏れ日を見て心が落ち着いたり、空を見上げて綺麗だなと感じたり。好きな音楽を聞いて、夕陽を見ながら散歩したり。そんな時間が好きだったはず。
流石に平山さんのようにスマホを持たない選択はできないけれど、スマホから少し距離を置いて、「いま」起きていることに意識を向けて、自分の五感が喜ぶ時間を増やしたいなあと思います。
散歩中に、いつも写真を撮りたくなるお気に入りの場所です。
編集スタッフ 岩部
インテリアと小麦が大好物。最近はタイ料理がマイブーム。美味しい「カオソーイ」を見つけるべく、タイ料理屋さんを巡っています。
この映画を見てから、街の音や景色を感じたくなりました。
一人一人、一日一日。丁寧に向き合って日々を過ごす姿がじんわり響きました。主人公の平山が、自分自身に対して含め、日常で関わる一人一人に丁寧に向き合っている姿が印象に残っています。
時間に対しても同じで、長い人生の中の単なる一日ではなく大切な24時間として描かれて、うれしいことがあった日、悲しいことがあった日、その日いっぱいに噛み締めたら翌朝にはまたまっさらな気持ちで。そんな姿がすがすがしく羨ましく感じてしまいました。
この映画を見てから、街の音や景色を感じたくなり、雨落ちる音や水たまりの波紋などを意識しながら歩いてみるとその瞬間がとてもきらめいて見えました。
印象的だったのは現像写真を選別するシーン。不要と判断したものは潔く破って必要なものだけを選んでいく作業は、こんなふうに色んなものを削ぎ落として平山のルーティンが出来上がったのかなと想像させられました。
平山レベルとはいかずとも自分に必要なものや行動を整理して、日常のルーティンの中で心が動く自分なりの視点にフォーカスできるように日々の行動や思いと向き合っていきたいと思います。
壁に映った影がとても綺麗で、思わず写真に収めました。
ギャラリー企画スタッフ 大津
47都道府県制覇の旅を敢行中!(のこり4県)おいしいものとある程度の睡眠を補給すれば、タフに動きつづけます。
『PERFECT DAYS』 のプレイリストを作ってみました。あなたにとっての「PERFECT DAYS」とは?
映画での使用楽曲と同年代の楽曲を中心に、映画を見たひとりひとりの『わたしのPERFECT DAYS』をイメージできるようなプレイリストを作ってみました。ぜひ、聞いてみてください!
PERFECT DAYS
監督:ヴィム・ヴェンダース
脚本:ヴィム・ヴェンダース、 高崎卓馬
製作:柳井康治
出演:役所広司、柄本時生、中野有紗、アオイヤマダ、麻生祐未、石川さゆり、田中泯、三浦友和
製作:MASTER MIND
配給:ビターズ・エンド
2023/日本/カラー/DCP/5.1ch/スタンダード/124 分
ⓒ 2023 MASTER MIND Ltd.
perfectdays-movie.jp