糸島・海辺の手仕事料理店

“アダンソニア”という、ものさし

「子どもの一番の友達になる」、「仕事がせわしなくなりすぎて、家族がバラバラになったら店を辞める」。
前田さん一家が築きあげた、独自の家族のものさし。
そこには、悩んだ末に形を変えながら歩んでいく姿がありました。

第4回

家族のものさし

〜子どもの一番の友達になるために〜

子どもに時間を割くと、よく育つ。

土曜日のランチタイム。キッチンで忙しなく動く達也さんとゆかりさんの前に〝トォー!〟と、戦隊モノのお面をかぶった男の子が現れた。〝たまちゃん〟の愛称で親しまれている前田家の第二子・環くんである。『アダンソニア』は絶賛営業中。きっと多くの大人は子どもに仕事を中断されると「あっちに行っていなさい」と言ってしまうか、さらりと流してしまいそうだが、達也さんは違 う。変身シーンから技のアレコレまで、ひとしきりパフォーマンスが終わるまで見届ける。小さなレンジャーに合わせて、腰をかがめて目を合わせ、ウンウンと深く頷いている。全てを出し切ったたまちゃんは、満足してキッチンを後にした。「たとえ仕事が中断しても、僕が倍速で動いて遅れを取り戻せばいい」と、当たり前のように話している。

アダンソニアの日常は、家族とともにある。家と店が一緒になっていて、夕方ともなれば、ランドセルを背負った長女の日和ちゃんとたまちゃんが帰って くる。店内のテーブルでふたりはおやつを食べ、宿題をはじめるのだ。仕事を終えた達也さんとゆかりさんは、ふたりの隣に座り、宿題タイムに付き合う。 夜になれば4人で食卓を囲み、絵を描いたり、本を読んだり。「子どもにきちんと時間を割くと、良く育ちますよ」と達也さんは微笑む。取材中、元気に挨拶をしてくれた日和ちゃんとたまちゃんの満面の笑顔が、その証拠のように思う。

ランチは2交代にして喫茶も予約制。17時には閉店する。定休日は日曜日も含めて週2回にする。店をそんなスタイルにしたのも、家族の時間をたっぷり取るためだと言う。今では仕事との時間のバランスが〝ちょうどよい状態〟ではあるけれど、かつては悩んだ時期もあったようだ。
ゆかりさんが、こんなエピソードを教えてくれた。「オープン当初は、ディナーをしていたのもあり、達也さんも私もヘトヘトになっていました。片付けまで入れると夜中まで仕事になって、朝はすっきり起きられず、子どもたちを気持ちよく送り出せない。家庭内に悪い空気が蔓延してしまい、イライラが募って喧嘩も多くなり…。いよいよ〝家を出てやるー!〟ってくらいに精神的にも疲れてしまったんです。そうしたら達也さんが「このまま無理をして仕事を続けて家族がバラバラになるのなら、店を辞めよう」って、言ったんです」。

仕事をする目的が〝お金だけ〟になると、営業時間を長くせざるを得ない。今の倍ほど働けば経済的には満足するけれど、それより大切なものを大切にしたい、と。
「僕は、長女が生まれて初めて対面した時、心の底から沸き立つ喜びを感じたんです。そして、この子の一番の友達になろうと思いました。親という感覚より、遊び相手であり、良き理解者というか。だけど、自分の店をはじめると、なかなかリズムが掴めなかったんですね。苦しい時期も正直あって。子どもたちと接する時間を削るぐらいなら、仕事は無理をせず、欲張らず、お金はあるだけで暮らせばいいという考えに切り替わりました。家族より大切なものはありませんから」。

見切り発車でも、まずはやってみる。

ライフワークバランスが叫ばれ、ワンオペ(ワンオペレーション)育児という言葉が生まれる昨今、前田家が築き上げてきた家族のあり方は、至極素晴らしいものであり、理想的であり、まっとうだと思う。達也さんも「こういう家族を中心とした店(事業形態)がもっと増えると嬉しい」という。けれどもその清々しい姿が、時折眩しいと感じる人々も少なくはないと思う。
「僕自身もなかなかスタートできなかった人なんです。店をはじめたのは、36歳だったし。かつては雑誌のなかの素敵な店をたくさん見て、理想ばかりを追い求め、失敗がすぐに頭をよぎって…、なかなか一歩が踏み出せなかったんです。貯金もほぼなくて、開業資金は40万円ほど。でも、動き始めたら知恵も絞るし、協力してくれる人も現れる。最初は60点70点を目指して、小さく小さくはじめる。そこから学んだことを生かして改善を繰り返し、ゆっくり100点になっていった感じですね。見切り発車でもやってみたのが良かったのかも」。

取材の最後に、海の前で家族写真を撮らせてもらった。みんな白いトップスで、なんだかお揃いのユニフォームのようだ。「僕は、子どもに対しても親という意識があまりなくて、家族は仲間という感覚なんです。僕の漕いでいた船に、彼女(ゆかりさん)が乗ってきて、子どもたちが乗ってきて…。そのみんなでワイワイ言いながら、旅をしている気分かな。旅行は、楽しい方がいいですよね」と、とびきりの笑顔。工夫して、実験して、失敗したら舵を切り直す。小さな幸せを積み上げて、大きな幸せを築いていく。チームアダンソニアの冒険は、まだまだ続く。

【 ものさしコラム 】

前田家の子育て

「子どもたちを受験戦争には巻き込みたくないなぁ」と前田さん夫妻。
日常的に子どもたちとどのように接しているのか話を聞いた。

◉体をきちんと向けて話をする。

“話を聞いてもらいたいときにきちんと聞いてもらえることが、人として一番嬉しい”という想いから、子どもたちが話しかけてきたらきちんと体を向けて目線を合わせて話をする。「いつも話を聞いてもらえるという感覚があるせいか、子どもたちは僕たちの話もよく聞いてくれますよ」。

◉子どもの都合も大事にする。

「仕事の用事など、大人にも都合があるように、子どもにも都合がある」と達也さん。大人にばかり主導権があるのではなくて、子どもたちの想いも聞いて相談しながら、日常の時間の配分や外出、行事の入れ方を考えるのだという。「夜も本が読みたいというなら時間を区切らず読みたいだけ読ませる。それで朝起きられなくて眠たい…という日もありますが、それは自分が考えてしたこと。遅くまで起きるとどうなるかを自ら学ぶ経験でもありますよね」

◉ダメをなるべく言わない。

キャラクターものはダメ、あの食べ物はダメ…。つい言ってしまいがちだが、前田家では好きなものを好きなように与える。「ガチャポンがしたいと言えばさせますし、子どもたちがねだってくれるうちが幸せで可愛いなぁと。大人になったら自分で好き勝手買っちゃうから…」と微笑むゆかりさん。ダメをあまり言わないせいか、駄々をこねることがあまりないと言います。

◉常識にとらわれず、小さなトゲをとってあげる。

「長女がとても繊細で、車の音が怖いのか私から離れたくなかったのか、小学校にあがった当初、朝の登校が難しかったんです。3ヶ月ぐらい一緒に歩いて行きましたが、泣いて泣いて仕方がなかった。手にウサギを描いてあげて、お守りだよって送り出したりもしたけど…。悩んだ末に、学校と近所の友達や親御さんたちに相談をして、車で行かせてもらうようにしました。すると、笑顔で学校生活を送れるようになったんです」とゆかりさん。子どもの個性を理解した上で常識にとらわれず、より良い方へ向かうようにする。「子どもが困っている、小さなトゲをちょっと取るだけで全てがうまくいくなら、そのトゲをと ってあげられたらなぁと思っています」。

◉好きなことを仕事にできるよう、背中で伝える。

遊びや好きなことをトコトン突き詰めて欲しいというのが前田家の基本理念。ゆかりさんの幼少期しかり(第3回目連載参照)それが仕事につながったり、自分で事業ができたり…と将来の何かに役立つのだと言います。「僕たちとしては、仕事を真面目に丁寧にして、背中で見せるしかないですね。勉強しなさい!と口うるさく言われても楽しくないし。勉強が好きなら勉強をすればいいけど、今は子どもだからね。せっかくなんで、しっかり遊んで欲しい!」。

前田さんご夫婦の話を聞いていると、子どもは親の持ち物ではない、そんなメッセージが込められている気がしてならなかった。私たちはつい、躾やマナー、世間体を振りかざし、無意識のうちに子どもを支配しがちだ。「子どもを通じて、 私たちが子ども時代に戻ったような感覚になって、一番楽しませてもらってるかもしれない」とふたりは笑った。

写真 白木世志一
構成・文 ミキナオコ

アダンソニア

福岡県糸島市にある海辺の料理店。地元の食材を使った季節のコース料理が楽しめる。店の顔とも言える手打ちパスタと、フォトジェニックなデザートが人気。丁寧な手仕事にファンが多い。
〒819-1614 福岡県糸島市二丈浜窪396-1 Tel:092-325-2226
12:00〜17:00 (売り切れ次第終了) / 木、日曜休
*ランチ12:00〜、13:30〜、カフェ15:00〜で、共に予約制
http://adansonia.petit.cc

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