どんぐり倶楽部・糸山泰造さんインタビュー
その2

英語の「I see」が意味するところ

僕はもともと、埼玉にあるバリバリの受験進学塾で教えていたんです。
夏の合宿では高原のホテルを借りきって、百台以上のバスで何千人が行くような。
テレビの取材が毎年来ていました。
そんなところにいたからよくわかるんですが、その塾のような学習方法によって、せっかくの才能がほとんど潰されています。
それは「ただできるだけ」、にしてしまうから。
要するに受験はパターン学習という技で突破できるんですよ。
しかし、その技のために壊れる子があまりにも多すぎるから、ほかのやりかたをずっと考えていました。
やっぱり、絵で説明すると子どもたちはわかるんですよね。
では、なぜ絵図だとわかるのか。
それは、頭のなかは、絵を扱っているから。言葉では考えていないからなんです。

——たしかに…! 人間も動物なのだから、それは当たり前ですね。

犬も考えてるのかな、なんてことをよく言うけれど、考えてるに決まっているんですよ。
生命の歴史を調べたら、目ができたのはカンブリア紀。
5億4千年前、目ができた瞬間に、僕らの思考が始まったとわかったんです。
おそらく感覚器官としては存在していて、映像としてぼーっと、あやふやに映っていたのが、
あるときから、目をとおしてイメージを再現できるようになった。
それでどういうことが起こるかというと、獲るほうと獲られるほう(捕食・被食)では、獲るほうが目をもっているわけです。
相手の動きがわかるから。そうすると、相手の次の動きを予測して動くようになる。
これが「視覚イメージの移動、変形」、つまり、思考そのもの。
視覚イメージで考える力を教えてあげれば、誰だってわかる、できるようになるんです。
「わかる」は英語で「I see(私は見える)」っていうじゃない? 
見えるというのは、頭のなかで再現できるということ。
だから言葉を絵図に再現できた時点で、「わかる」まで到達しているんです。
それが「考える」という段階になると、その絵図を動かす、あるいは変形させなければいけないということになります。
では、そういうことができる限界点はどこかというと、僕の結論は12歳なんです。
そう考える根拠のひとつに、哺乳類の寿命は、性成熟年齢の6~10倍だということがあります。
人間でいうと、性成熟年齢はだいたい11~12歳。
その10倍は120歳で、みごとにそれくらいが人間の寿命の限界ですよね。
自分の子孫を残せる状態になるまでには、いろいろ機能をつくりあげなきゃいけないわけです。
人間の最高の機能は思考することだから、思考する回路も性成熟年齢ごろまでにできあがるはず。
だからこそ、小学校のときに感情も理論もていねいに育てあげていくべきなのです。
かつて外遊びでつくられていたベースがなくなっているのに、学校は相変わらず整理学習だけをしている。
だから子どもたちは納得できなくて、わけがわからない。
わからないならばもう覚えるしかないという流れで、いまコピー学習が全盛期なんです。

その子のオリジナルの考えかたは、強く、応用がきく

どんぐりは、ベースをつくりながら理論もやります。
しかも、感情再現も同時に。それをゆっくりやっていく。
どんぐりの問題は1週間に2題しかやっちゃいけないんです。
こういう仕組みを知らないと、いっぱいやったほうがいいと思うかもしれないんですが、
自分のオリジナルの力を使って自分の回路をつくるには、ゆったりした時間と気持ちが必要なんですよ。
だからお菓子とお茶を用意して、時間をとって、だらりとした感じでやる。
ここに通ってくる子どもたちも、いつもお菓子やジュースを持ってきて、適当に始めて、いいときに切りあげる。
お菓子は持参しなきゃいけないという決まりなんでね(笑)。
そういう状況じゃないと起動しない。考えてみようという気にならない。
その気にさせるのが大変なんですよね。

——どんぐりでは、解きかたはもちろん、ヒントさえも子どもに与えない。
たいていの大人は、子どもにはまずやりかたを教えないとわからない、勉強は教えるものだと思っていると思うんですが。

教えるっていうのは、パターンを真似しろと言っているようなものです。
要するに、言われたとおりのことを繰り返せってこと。
けれど、それは他人の考えなので、その子にとって使いやすいとは限らない。
その点、絵は自由自在です。数の数えかたひとつにしても、その子のオリジナルだから強いし、なんにでも応用がきくんです。
全国から私のところに集まった10万点の子どもたちの絵が、それを物語っています。
どんぐりでは小2の後半から連立方程式が入ってくるんですが、それも普通に解いちゃう。
試験勉強はしたことがない、どんぐりを4年くらいやってる子たちが、5年生の夏には開成中学や麻布中学の入試問題をそのまま解いている。
「絵が見たいな、描いてね」とか言うくらいで、指導もなにもないですよ。
人間の頭って、それができるようになってるんですよ。だから、指導者はいらないんです。

——せめてその子の邪魔をしないように。

邪魔をしないことに意味があるんだとわかっていないと、めちゃくちゃ邪魔をするんですよ。
しかも、お金と時間を使って邪魔をする。

学校の宿題は、親が代わりにやる!?

小学校の宿題といえば、「計算ドリル」「漢字ドリル」などの反復練習や「教科書の音読」が代表的ですが、
反復練習は単純だから強化されやすい。
電線でいうと、すごく抵抗が低いんです。電流がすぐそっちに流れちゃう。
そういう性質のことをやってばかりいると、複雑で、繊細で、難しい問題を考える気にならないんですね。
だから、いわゆる学校の宿題と、どんぐりの問題は一緒にはできないんです。5~10分でも厳しいです。

——たしかにいまの学校の宿題は、自分の頭で考える勉強ではありませんね。

子どもの学校の成績はそこそこいいけども、なんとなく疑問を感じている親御さんは、いいとこ取りしてどちらもさせちゃうんです。
だけど、一緒にはできない。
繊細で複雑なことをやろうとするときに、単純で強力なことも一緒にやってたら、エネルギーがそっちに流れてしまうから。
単純な話が、百マス計算をやっていたら、生活が百マス計算のテンポになってしまう。
そうすると、そのテンポでこのどんぐりの問題は、まず解けない。

——先生の本に紹介されていたお母さんの手紙が印象的でした。宿題をやりなさいとガミガミ言ってきたお母さんがどんぐりと出会い、子どもの宿題を自分が代わりにやるようになったら、子どもにやさしい労いの言葉をかけられた。それで、自分がいままでどういう言葉を子どもに浴びせてきたかということにはっと気がついたという。

お母さんは、自分の言ってる言葉やタイミング、語感がわからないんですよ。
だから、子どもとの会話をボイスレコーダーで1日録ってもらうんです。
それをきちんとやってくれた人はまず、変わりますね。
どんなにひどいことを子どもに言っていたのかがわかるので。
それは全部、子どものストレスになっているから、それを取り除いてあげると、子どもがだんだん自由になってくるんですよ。
フラッシュとか暗記をずっとやってきた子どもだと、それをまず解除してあげるのに時間がかかります。
宿題、自分でやってみるとわかりますよ。親はいろいろな言い訳をつけて子どもに宿題をさせようとするけれど、
その言い訳って、ひとつも当たっていないですもんね。
「嫌なことでもやらなければいけないことはあるんだから、その習慣をつけよう」とかね(笑)。
それってべつに宿題でなくてもいいわけですから。
なおかつ、先生は宿題なんかほとんど見てないんですよ。
それに、回数を競ってシールをもらうために何回もやったりするわけでしょ。
こんな理不尽なことはない。
だから本当に、誰のためにもなっていないんです。

——学校に行かないといけないし宿題は出されるという現状はあるから、こういうときはこうするといいという、それに沿った対応策があるのがおもしろい点ですね。

こういう回避方法ができますっていうのは、理論があるから言えるんですね。
学校に行くことはルールとしてはみんな受け入れているし、受け入れながらも工夫すれば生活できる範囲ではあるわけです。
そこに価値はないですよ。ないけれども、工夫しておこなってみる価値はある。
工夫して乗りきれるんだということを経験する材料に使うんです。
しかし、体験させることについては勘違いも多いですね。
ちゃんと時間をかけて感じて味わうという過程がないと意味がないのに、体験ばかりをとにかく数多くさせようとする。
味わうとか感じるとかいう過程を経て、初めてデータベースに蓄積されるんです。
体験教室とか体験学習をいっぱいさせているのに、どうしていまひとつなんだろうって言っている親御さんは多いですね。

——意識的に子どもが味わえるようになるには、やはり余裕が必要なんでしょうか。

やることがいっぱいでは駄目なんですよ。少なくするんです。
ひとつでいいから、狭くていいから、深く行くんですよ。
すると、初めてそこから平行移動できて、広がりが生まれるんです。

糸山泰造(いとやま たいぞう)
1959年、佐賀県生まれ。明治大学商学部卒。コンピュータプログラマー、システムエンジニア、バーテンダー、シナリオライターなどさまざまな職業を経験しつつ、進学塾講師および塾講師の指導に携わる。85年より「どんぐり倶楽部」運営。オリジナルテキストや教材の開発から添削や保護者の教育相談まで、教育を子育ての一部という信念のもとに指導にあたる。著書に『絶対学力』『新・絶対学力』(文藝春秋)、『子育てと教育の大原則』(エクスナレッジ)、『絵で解く算数』(朝日新聞社)など。
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