くしまけんじのしあわせ巡るごはんのつくり方 vol.3
五感をフル活動して料理する

構成・文 松本あかね
写真 有賀傑

——「厨房では、五感はいつもフル活動」とくしまさん。
五感と料理の関係には、どんなつながりがあるのでしょう。
くしまさんの料理レッスン最終回です。

くしまけんじ
料理家。東京・西荻窪にある「食堂くしま」店主。旬の野菜をふんだんに使った大胆な食材の組み合わせと、繊細なお料理が評判。体に優しいイタリア料理を提供し、人気を集める。2015年5月『食堂くしまのレシピ帖 僕のしあわせなごはん 野菜中心イタリア家庭料理』を刊行し、現在、執筆活動、レシピの提供、料理教室など、活躍の場も広げている。
食堂くしま:〒167-0042 東京都杉並区西荻北5丁目26-17 万代荘1階
shokudoukushima.com

「丁寧に料理するっていいな」この連載をきっかけに、皆さんにはそんなふうに思ってもらえたらいいなと思っています。
ところで、具体的にはそれってどうすることだと思いますか? 

僕が思うに、ひとつめはその素材をどうしたら一番おいしくできるのかな、と考えること。
ふたつめは、五感を使って料理すること。

連載一回目のときのプレクラスで目、鼻、手を使って素材の第一印象を捉えるレッスンをしました。
料理というと、味覚、嗅覚を使うことは皆さんすぐ頭に浮かぶと思いますが、じつは視覚、聴覚、触覚にも大切な役割があるのです。
素材のいちばんのおいしさを引き出すために、目や耳や手にもっともっと活躍してもらう方法を、お話します。

色で連想する ——「目」

料理の素材の組み合わせを「どうやって思いつくの?」と聞かれることがあります。僕がよくするのは、色から連想していくこと。

たとえばパプリカの赤い色に惹かれて、赤い一皿を作ろうと思いつく。
黄色のパプリカを組み合わせて、オーブンで焼いて赤いオイルソースをかけよう。オリーブオイルにドライトマト、レーズン、赤タマネギ、花椒、ピンクペッパー、そして黒オリーブ。
赤、赤紫、黒のグラデーションの展開で、味と香りが合いそうなもの、アクセントになるもの、甘かったり、すっぱかったり、辛かったり、食べたとき、口の中でプチプチいろいろな味が弾けておもしろくなるように組み合わせていく。
最後に粗塩とイタリアンパセリを加えたら、焼きあがって皮をむいたパプリカにたらり。

ほら、色は素敵なインスピレーションを与えてくれると思いませんか。

ちぎる ——「手」

ふと野菜が足りない、と思うことありませんか。あるいは、今日は疲れて料理がしたくない、ということは?
そんなときにおすすめなのが「手」で作るサラダ。包丁やまな板を使わず、手でちぎってつくります。

ちぎる、というのは最も原始的でワイルドな調理法。
これから夏にかけて体のエネルギーが開放に向かう時期には、体の調子をそれに合わせて整えることが大切。
それには引きちぎったり、ボウルの中に落とし込んだり、ふわっと散らしたり、という「拡散」させる調理法が有効です。
ちぎると断面がギザギザになって、味がよく絡んだり、食感がそのまま残るのもいい。

葉物を扱うときは、力が加わると水分が出て色が変わってしまうので、なるべくふわっと空気を含ませるように、かつ全体に味が回るようにしたい。そんなときも「手」の出番。
底から返すように、手のひら全体を使って和える。見た目にも味にも、仕上がりのやさしさに影響するのがわかります。

全て、どういう料理をつくりたいか、どういうのがおいしいと思うかが出発点。
出来上がりを思い浮かべて、それに近づけるにはどうしたらいいかを考えれば、自ずと工程も決まってくる。
ふわっとしたサラダにしたいと思えば、手でふわっと混ぜる、ということなんです。

すり鉢で作る、ちぎるサラダ(2人分)

材料:

「パリパリ」
ルッコラ2束
水菜1束
きゅうり1本
スプラウト(お好みのもの、今回はラディッシュのスプラウト)1パック
レモン1個

「カリカリ」
アーモンド 大さじ2
かぼちゃの種 大さじ2
ひまわりの種 大さじ1
白ごま 小さじ2
松の実 大さじ1と1/2

「そのほか」
ドライトマト 1/2枚
海苔 2枚
オリーブ油 大さじ2
醤油 大さじ1
バルサミコ酢 大さじ1/2

*葉物、ナッツ類、調味料はすべてお好みのもの、量に変えても。いろいろな組み合わせを楽しんで。

つくり方

  • きゅうりは、ナイフやピーラーで皮を剥く(皮には、きゅうり独特のえぐみのある匂いが。また、皮を剥くと歯触りも軽くなるので。お好みで、剥かなくてももちろん大丈夫)。
  • ナッツは、炒る必要があるものは、フライパンなどで香ばしい香りがしてくるまで炒る。
  • レモンを半分に切っておく。
  • ドライトマトはハサミで小さくカットしておく。

①すり鉢にアーモンドを入れてすりこぎでつぶして、取り出しておく。

②すり鉢に、オリーブ油、醤油、バルサミコ酢を入れ、手で軽くすり鉢を揺するようにして馴染ませる。

③そこへ、葉物野菜を手でちぎりながら、入れていく。
きゅうりも手でひきちぎり、加える。

④ナッツ、ドライトマトも加え上からレモンを絞りかける。

⑤海苔をちぎりながら加え、指を広げてパーにした状態で下から上へ返すように、全体を馴染ませる。底にナッツや調味料が溜まりやすいので、下から上へ持ってくるように。すり鉢を回しながらすると上下左右が入れ替わる。

味見をし、足りないようなら、調味料を足して、味が馴染んだら出来上がり。
すり鉢のまま、食卓へ。取り分けても、ひとりならそのまま食べても。

音を聞いて料理する ——「耳」

食堂くしまの厨房は、一般の家庭の台所と広さはあまり変わらない、むしろ狭いくらいだと思います。
調理道具も、家庭用のサイズのフライパン、鍋を使って、いろいろなことを同時進行しながら料理をしています。
そういう意味でいえば、夕方の皆さんの台所と似た状況といえなくもないなと。

そんなとき、僕が耳をすませるのは、タイマーの音だけじゃなくて、お鍋やフライパンの立てる音。
火の強さは「音」でわかります。直接火加減を見なくても、鍋から出ている音で、あ、火が強すぎると思って弱くしたり、そろそろ混ぜないと焦げちゃうなとか。
「音」はいろんなことを教えてくれるから、台所ではぜひ耳を済ませてみてください。

・「ジュッ、ジュッ、ジュウー」
野菜をグリルしているときに出るこの音は、野菜から出た水分が蒸発する音。
「チリチリ」という音に変わり、やがて無音になったら、滲み出てくる水分がなくなり、焦げ目がつき始めたということ。「チリチリ」といい始めたら、一度様子を見て。

・「パチパチ」
かぼちゃの種やごまを炒るときは、中火にかけて転がすようにフライパンを揺すったり、ヘラで混ぜたり。
「パチッ」と最初の一粒がはぜ、香ばしい香りがして「パチパチ」と続き、ぷっくりと丸く膨らんできたらOK。焦げるようならフライパンを火から離して調節を。

・「ボコッ」
トマトソースを煮込むとき、はじめは小さな泡が鍋の縁に沿ってはねる「ピチピチ」という音、煮込むうちにとろみがつき、「ボコッ、…ボコッ」と底から湧き上がる音に変化します。
それがちょうどよい濃度まで煮詰まったというサイン。

おわりに:

いかがでしたか。おいしさを引き出すための目、耳、手の役割に気がついていただけたでしょうか。
ここまでご紹介したことは、日々料理する中で、僕がいいと思ったこと。たったひとつの正解というわけではありません。
一度この通りに作ってみて、もし「私はこの方がもっとおいしいと思う」、「私はこっちのやり方が好きだわ」ということがあったら、どんどん変えていってください。

料理ってつまるところ、作る人がどういう風に作りたいか、食べたいかだから。そう思った自分の感覚を信じて料理する。それが楽しさにつながるし、自分にとっての新しいおいしさを発見することにもつながっていくのだと思います。

好きな服を着て

毎日のことだからこそ、料理をするのが楽しくなるように、いろんなところからちょっとずつ「お楽しみ」をひっぱってくるのも大事なこと。よく切れる包丁や、好きなお鍋で料理することもそうですが、好きな服を着ることでも、料理は楽しくなります。

これはもともとフランスの貴族が着ていたアンティークのパジャマから型をとって、「修道院の食事当番」のイメージで作ってもらったもの。知人が縫ってくれたせいか機械で大量生産されたものより、着ていていい「気」を感じます。着るものからもいいエネルギーをもらうことも、僕のモットーである「健やかにフラットな気分で料理をすること」、を助けてくれていると思います。

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僕のしあわせなごはん 野菜中心イタリア家庭料理

くしまけんじ 著
中央公論新社 1,500円(税別)

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