yourwear 佐藤孔代さん
北国・秋田の温かなニット
雪深い北東北からの、手仕事の贈り物

北国・秋田のなかでも北部に位置し、積雪の多い地域として有名な大館。
一年の半分は吐く息が凍るように寒く、グレーの曇り空と真っ白な雪に覆われるこの地で、
カシミヤのストールやニット帽を地元の人たちと共同で作っている
yourwearデザイナーの佐藤孔代(みちよ)さん。
晩春から秋まで続くという秋冬のニットづくりの工房を訪ねました。

田んぼを渡る風が青い稲穂を波のように分けていく8月、孔代さんのアトリエでは2018年秋冬コレクションとしてショップに納める商品の製作がピークを迎えていた。

この日は作り手の木越政子さん(65)と大森美喜子さん(46)が工房にやってきて、アイロンがけの作業をスタート。「ウールジャカードマフラー」にスチームを当て、形を整えつつ、糸に空気を含ませて編地をふっくらとさせる大切な工程だ。

政子さん(右)は手編み機で編んだばかりの編地にたっぷりのスチームを当てて、編地を整える。これを二枚はぎ合わせたのち、クリーニング、二度目のアイロンがけ(左)を経て糸が空気を含み、ふっくらとした柔らかな肌触りのニット製品になる。

「yourwearのニットはチクチクしないし肩が凝らない」
とニットを敬遠していた人にも「手放せない」と評判に。主力商品であるストールと帽子を中心にしたBASICラインのほか、糸の組み合わせや編み模様などがすべて一点もののミトンシリーズ「BLUE BOX」などの商品づくりは、孔代さんを中心とした地元・大館の編み手さんと作り手さんの総勢5人が、電動の機械を使わず、編み立てからタグ付けまでの作業工程のほとんどを手作業で行っている。

「地元・大館に居を移してから、ここでできることを考えて、小回りの効くものづくりを実現するために行き着いた形がこうだった、という感じですね。」
と孔代さんは朗らかに笑う。

秋冬のニットづくりは夏の間がピークだそう。
この日は盛夏とは思えないほど涼しい風が田んぼを撫でてアトリエに入ってきた。

作り手さんたちは「今日みたいに涼しいと、アイロンがけも楽」と言いながら作業に集中していた。

手編み機。祖母や母の世代が使っていた、という人もいるのでは。

「手編み機」というものをご存知だろうか。主に家庭用として昭和期に普及したもので、棒針編みと同じような編み目を手編みより早く編めるとして、全盛期だった昭和30年代にはミシンと同じように普及していたもの。60代の政子さんも「私も嫁入り道具に持ってきたけど、そのままずっと使わないでいたわ」と恥ずかしそうに話す。現在では国内でたった1社のメーカーを残すのみとなった貴重な手編み機は、yourwearの商品づくりになくてはならない大事な道具の一つである。

「ウールジャカードマフラー」はウール、アルパカ、キャメルを使い、この手編み機でゆっくりと編まれている。孔代さんは手編み機を大館に戻ってから使い始めたという。
「機械編みと比べると、やっぱり編み地が違うんですよね。柔らかい雰囲気が出るんです」と孔代さん。

キャリッジと呼ばれるレバーのついた糸を供給する装置をゆっくりと左右に動かすことで編み地ができていく。

段数のカウンターが立てる「カチッ、カチッ、カチッ」というリズミカルな音とともに、孔代さんの足の間に編み地がおもしろいようにできあがっていく。
「言葉に表せないコツがあるんですよね。急ぎすぎると目が飛んでしまうし、遅すぎると糸が弛んで編み地が伸びてしまう。だから手編み機を動かすときは手先の感覚や全身のリズムにとても集中している気がします」と孔代さん。

手編み機で編み地を作っていく孔代さん。「繊細なものだし、手編み機の機嫌をうかがうのに意外と骨が折れるんです」と微笑む。

みるみるうちにジャカードの編み地ができあがっていく。ジャカードとは2色以上の色の毛糸を使う編み込み模様のこと。

編み上がった「ウールジャカードマフラー」のパーツ。同じものを2枚編む。ゆったりとした編み地は手編み機ならでは。

編み地の性質上、端が丸まるのをスチームで整える。アイロンがけをすると端のクセがとれて扱いやすくなる。

同じようにして編んだパーツ2枚をはぎ合わせる次の工程はとても細かい作業。若くて目がよく、手先の器用な美喜子さんが担当する。このようにyourwearのものづくりはひとつひとつ、分業による共同作業でつくられる。

綴じ・はぎが得意な美喜子さん。捨て糸を外して端を綴じているところ。一目でもずれたらやり直しなので「最後の一目でぴったり合うとほっとする」とか。

孔代さんは「それぞれが得意分野と技術をもっていて、仕事ぶりも誠実で丁寧。だからいい糸さえ仕入れられれば、ほとんどの作業を大館で完結させることができるようになりました。外注する部分も少ないので、コストも抑えられて、カシミヤなど高価な糸を使った製品も手に届く価格で提供できるんです」と話す。

はぎ作業を担当する美喜子さんは「このマフラーは端は一目おきに拾ってはいでいきます。編み物としてこういう技術があるのは知っていても、孔代さんの指示に従って手を動かしていくとだんだん製品ができあがるにつれて『ああ、こういうふうになるのか』という驚きがあって、おもしろいんですよ」とものづくりの喜びを語る。

2枚のパーツをはぎ合わせる作業。美喜子さんが2/0号という細いかぎ針で一目一目拾っていく。

完成した「ウールジャカードマフラー/ターコイズ(11,000円)」。ニットでありながら織物のような表情の一枚に。

孔代さんのものづくりは、糸を触ったり、編み機を動かしたりと、手と五感をフルに使いながら進む。
「この糸だったら幅の狭いマフラーになったら気持ち良いかなぁ、なんて思いながら手を動かすんです。もう少し細い糸に変えてみようか、なんていうことも手作業が多いからやれる。デザイン画から描くってことはあまりないですね」と孔代さん。糸を触る孔代さんの手つきは、糸と対話そのものなのだ。

佐藤孔代(さとう・みちよ)
秋田県大館市出身。服飾専門学校を経て東京のアパレルメーカーに就職し、ニット部門で商品企画などを行う。2005年に友人と立ち上げたアパレルブランド「YUKI」を経て、2010年ニットブランド「yourwear」をスタート。2014年春に故郷の大館に戻り、地元の人たちとの共同作業によるニット製品の製作に取り組む。

後編「天然素材の丈夫な糸だからこそできる、yourwearのお直しサービスのこと」へ

写真 船橋陽馬
取材・文 三谷葵