フルーツ・ジャーナル vol.2 2020SS by fruits of life

大橋さんのアトリエには大きな窓があります。
「曇りの日は薄いグレー、夜明けや夕焼けの頃には、
いちばんいろいろな色が混じってきれい」
さまざまな表情を見せてくれる空のパレットから、
ひとつひとつの色を拾って、
今シーズンのコレクションが生まれました。

今回は淡色のグラデーションを楽しむ春のコーディネート、
さらに人気アイテムをとことん着倒す
オケージョン別コーディネートなど、
大橋さんならではのスタイリスト目線で、
たくさんの着こなしをご紹介します。

〜 Contents 1 〜
春の淡色グラデーション。
重ねて生まれるニュアンスに注目!

上品さと凛々しさと。
ツヤ感のある生地をほんのりグレーで色付け。

「薄い色が気になる」と言う人が周りに増えていると大橋さん。
これまで黒、ネイビー中心だった人が、白っぽい、淡い色合いの服に惹かれているようだと。
そんな気分をさっそくつかまえて、ここでご紹介するのは、
白にほんのりニュアンスをプラスしたような2種のライトグレーのコーディネート。
やわらかさと同時に着る人の凛とした佇まいを醸し出します。

① 張りのあるシルクコットンの生地がやわらかな陰影を。

② 落ち感がきれいに出るリヨセルのスカート。

③ カフスは二つ折りにせず、あえて伸ばして線をくずしてみる。

fruits of life バンドカラーシャツ 小町鼠(ライトグレー)
fruits of life タックスカート 月白(ライトグレー)
fruits of life × que ベロア革ミュール グレー

白は意外と難しい!?

——シルクコットンのバンドカラーシャツは「小町鼠(こまちねず)」。ベージュとグレーを混ぜて、ごく薄くしたライトグレー。リヨセルのタックスカートは「月白(げっぱく)」。その名の通り、月の光をイメージしたライトグレーですね。この2つをコーディネートすると……

大橋さん 単品で見たときよりも、色の感じが変わるでしょう?

—— ほんとですね。もしこれが真っ白のコーディネートだったら、もっと緊張感が出るというか。

大橋さん そう、真っ白って意外と難しくて。友人のスタイリストも、この間、有名デザイナーさんに向かって「真っ白ってどうしたらいいんですか?」と質問してた笑。

—— 年齢のせいで、肌もくすんでくるから、顔色とのコントラストも気になります。

大橋さん まぶしすぎるのかな。着物の半襟もそうだもの。年をとったら生成りとかになるの。

——白は人工的に白くしているわけだから、意外と強い。

大橋さん 真っ白は特にね。オフホワイトのほうが着やすいよね。

——オフホワイトのバリエーションとして、今回の色の展開があると?

大橋さん そう、ちょっとグレーに寄ってみたという。

——それでいうと、最近話題のグレーヘアもコントラストを和らげる効果があるのかもしれないですね。靴はグレーを合わせたんですね。

大橋さん 白とグレーで迷ったんですが、グレーを入れることによって、この服の印象がグレーに寄ってくる。白い靴にすると、白っぽい服という印象になります。どちらでもいいけれど、白にしちゃうとボワーッとしちゃうかな、と思って締める意味でもグレーにしました。

——濃いめの色で締める、これも覚えておきたい技ですね。

まだ肌寒い日は、明るい鳥の子色のコートを。
さてインナー選びのポイントは?

まだ少し肌寒い春のはじめは、卵の殻を思わせる鳥の子色のコーデュロイコートを。
白鼠→ 卯の花色→ 鳥の子色。
ライトグレー、オフホワイト、ライトベージュと、インナーからアウターへ
だんだん温かみのある色へ展開していきます。
見る人の気持ちもほっこりしそう。

① ボウタイブラウスの上にローブ、コートを重ねて。

② ベルトを結ぶと、小柄な方もバランスが取りやすくなる。1回結びでOK。

③ 胸元の色の重なりは、着物にも通じるものが。

fruits of life ボウタイブラウス 白鼠(ライトグレー)
fruits of life オキーフローブ 卯の花色(オフホワイト) 
fruits of life コーデュロイコート 鳥の子色(ライトベージュ)
fruits of life サイドボタンパンツ 卯の花色(オフホワイト)
fruits of life × que ベロア革ミュール ホワイト

大橋さん この白鼠(しろねず)のボウタイも雰囲気があるでしょう? これが真っ白だとしっくりしない。

—— 流行のボウタイブラウスですね。2019秋冬ではネイビーと黒でしたが、今回はライトグレー(白鼠)と薄紫(白菫色)、ネイビー(紺青色)の3色展開になりました。胸元の色の重なりが着物みたいですね。

大橋さん 色を重ねることによって、単色で見ていたときとは色の印象が変わってくるんです。例えば水色だと思って買っても、他の色と組み合わせると、あれ、こんな水色だったっけ? と。

—— わかる気がします。今回のコーディネートでいうと?

大橋さん 白寄りの薄い色と合わせることで、コートの鳥の子色の黄色みが立ってきます。

—— ライトベージュの黄色の要素が際立ってくるのですね。この間、角田光代さん訳の源氏物語を読んでいたら、装いの描写がたくさん出てくるのに改めて気づいて。十二単もどうしてそんなに重ねるのだろうと不思議に思っていたのですが、もしかしたら今お話しくださったような色同士の相乗効果を楽しんだのかもしれませんね。

大橋さん 着物にはそういう楽しみがあるんですよ。反対に同じものを着ても、半襟や帯との色の組み合わせによっては洗練されて見えたり、野暮ったく見えたり。

——洋服を着るときも意識したいポイントかもしれません。普段よく着るのはネイビーとグレーとベージュなんですけど、何か違う色が着たいなと思っても、他の選択肢というと赤、緑、黄色みたいな色しかなかったり。

大橋さん それは差し色的な発想があるからだと思う。少し鮮やかな色も入れておこう、みたいな。

—— 極端なんですね。だから、どっちも気分じゃないとなってしまうんです(溜息)。

つづく

淡い虹のような色合いのトップスを重ねて。
色で遊んでみる。

小町鼠(こまちねず)と白菫色(しろすみれいろ)は
今季の展示会でもっとも人気のあった色。
ここでは上質なコットン、シルクコットンなど
薄い、透け感のある生地を使い、
天女の羽衣もかくや!? の仕上がりに。
大橋さんがしてみたかった、夢のコーディネートをご覧ください。

① 一番下に着た白菫色(薄紫)が全体を締める役割を。

② 間に着たローブの明るいトーンの水色に、同じローブの小町鼠(こまちねず)を重ねて、明るさを少し抑える。

③ 手持ちのベルトでウエストマークしても。

fruits of life ボウタイブラウス 白菫色(薄紫)
fruits of life オキーフローブ 小町鼠(ライトグレー) 
fruits of life オキーフローブ 甕覗(水色) 
fruits of life サイドボタンパンツ 卯の花色(オフホワイト)
fruits of life × que ベロア革ミュール ホワイト

色で遊ぶ

大橋さん 自分の好きな色でつくるとこういうことができて楽しい!! 色で遊べる。どれも同じような色と言われるかもしれないけれど、でもそういう色同士だと、こうやってちょっとした重ね着ができるの。

—— 下に着た色がうっすら透けていくんですね。

大橋さん 微妙な色合いは、小さなメーカーだからできることかなと思うの。さっきも言ったように色といえば差し色という発想が強いと、結果的に赤、青、緑みたいなわかりやすい色になる。似た色が並ぶとどっちかにしておこうという発想にもなるし。

—— だからでしょうか、繊細な淡い色の世界、とても新鮮です。

大橋さん 今回、色と向き合ってみて、気づいたことやいろいろ考えたこともあったというか。

—— 何か発見がありました?

大橋さん ありました。ニュアンスがちょっとずつ違う色ってありますよね。これからはそういうところを汲み取って服を作っていこうと思ったんです。例えば薄いグレーの服を作っているメーカーはたくさんある。でも私はそことは違うグレーを選んでいこうと思ったの。

—— うーん、それができるのも、違いがわかる目があるからですね。

大橋さん 考えてみたら短大時代、色彩学は成績がよかったんだよなと思い出したの。パターンとかギリギリのラインで卒業したのにね笑。

シンプルに水色系を重ねて。
初めてでもトライしやすいグラデーションコーデ。

フレアたっぷりのローブの裾がゆらゆら。
春のかすみがかった空の色、淡い淡いインディゴの始まりの色。
儚いからこそ、見つめたくなる。
そんな色の存在感を教えてくれるコーディネート。
ニュアンスの少しずつ異なる色が重なって生まれる、
響き合う色の余韻をまとって。

① トロッとした落ち感が魅力のリヨセルのギャザーパンツ。濃いグレーがトップの淡い色を受け止めます。

② 白いミュールが抜け感を出してくれる。

③ 「袖はまくってくしゃっとさせて」。

fruits of life バンドカラーシャツ 青白磁色(ライトブルー)
fruits of life オキーフローブ 甕覗(ライトブルー) 
fruits of life ギャザーパンツ 消炭色(チャコールグレー)
fruits of life × que ベロア革ミュール ホワイト

スタイリスト目線の服作りとは?

—— 水色の重なりを、ギャザーパンツの消炭色が引き締めているんですね。そして足元は白。

大橋さん そう、濃いめの色が引き締める効果があるとしたら、白にすると軽くなって抜け感が出るんです。ボトムも同じで、淡い色のコーディネートのとき、白っぽいパンツかスカートがあるといいかも。抜け感が出て、全体のバランスがうまくいく。昔はこういう言葉が表すことって、スタイリストが自然にやっていたことだったけれど、今は一般の人がする時代になったんだな。

—— スタイリストさんの言葉にならない技には学ぶところがいっぱいあります。

大橋さん デザイナーとスタイリストはまた違うから。私の場合はデザインの段階からコーディネートを考えながら作っています。これとこれを合わせられるようにこうしよう、みたいなことをいつも考えている。そこはスタイリストだからというのはあるかもしれない。

—— 大橋さん、いつもfruits of lifeの服でなくても手持ちの服と合わせてみて、っていいますね。

大橋さん そう。確かにブランドによっては個性の強いものがあって、そのブランドの上下でないとうまくまとまらない場合もあるけれど。fruits of lifeはそんなに個性が強くないから、何とでも合わせられます。このオキーフローブもノースリーブの上に羽織ってみたりね。

—— 涼しげですね! 夏が待ち遠しくなります。

アンニュイな曇り空が、
色の引き立て役になってくれる日に。

暖かな日差しが降り注ぐ日もあれば、冬に戻ったような曇天の日もある。
季節が行ったり来たりするこの時期は、
気分を引き立てる明るいトーンのこんなコーディネートを知っておくと便利。
コーデュロイコートの、おなじみのベージュがぐっとシックに見えるのはなぜ?
ブラウスの白菫色もアンニュイな表情をより深めているのかも?
無限にも思える色彩の化学反応は、
どうしたら自分のものにできるのでしょうか?

① ボトムの濃いめのグレーが、全体の色のバランスの引き締め役。

② もともと長めのつくりのボウタイ。固結びにして垂らして。

③ カフスは半分折り返すくらいのバランスがちょうどいい。

fruits of life ボウタイブラウス 白菫色(薄紫)
fruits of life コーデュロイコート 枯野(ベージュ)
fruits of life ギャザーパンツ 消炭色(チャコールグレー) fruits of life × que ベロア革ミュール グレー

ちょっとだけ冒険してみる

—— こちらのコーディネート、消炭色が効いていますね!

大橋さん そうするとボウタイブラウスの白菫色(薄紫)がグレーっぽく見えてくるでしょう? ブルーと合わせるとブルーっぽく見えるし。すごくおもしろい。

—— コートのベージュもグレーっぽく見えてきたような。

大橋さん そう、不思議だよね。

—— 薄紫とベージュの組み合わせは、すごく雰囲気が出ますね。これを見てたら、買い物するとき、アイテムを単品でしか考えていなかったな、と。色同士の組み合わせをもっと想像しながら選んでみたらいいのかも。

大橋さん 私の場合、明るい色の服を作ろうと思ったら、まず手持ちの明るい色の服を普段から着てみるようにしています。最初は慣れないからちょっと恥ずかしいけれど、だんだん発見がある。なるほどね、この服ってこういうふうに着たらいいのかとかわかってきて。そこからこんなアイテムをという感じで、服を作っていきます。

—— やっぱり、いろいろ着てみるという挑戦は、してみたほうがいい?

大橋さん この間、吉永小百合さんが『プロフェッショナル〜仕事の流儀』に出ていて、これまで自分でしていたメークを、ここ何年かは人に任せている、そうすると自分の選ばない色を選んでくれて、それを受け入れてみると新しい自分が発見できるからとおっしゃっていて。それを見て洋服もそうだなって。お店の人が勧めてくれたものとか、友達がこれ似合うんじゃない? と言ってくれたのを「いやいや…」と尻込みするんじゃなくて、とりあえず、試着だけでもしてみるとか。そうすると、たとえ買わないにしても、発見があるときもあるし、自分にこういう色はな…と思っても、意外といけるかも? ということもあるというか。

—— ちょっとだけ冒険してみる。

大橋さん そう。試着は無料だから、ちょっと意識してトライしてみたら、それをきっかけに世界が広がるということがきっとあると思います。

フルーツ・ジャーナル vol.2 2020 SS
Contents 2:ノーカラージャケットをオケージョン別に着こなすには?

大橋利枝子

スタイリスト/デザイナー。雑誌『オリーブ』を経て雑誌、広告のスタイリストとして活躍。2012年『FLW』デザイナーに就任。2018年、衣服と暮らしまわりのものを扱うブランド『fruits of life』をスタート。著書に『おしゃれっていいもの』『FLWのソーイングとスタイル』(いずれも文化出版局)など。