取材・文 渡辺 尚子
写真 有賀 傑

今のわたしができるまで 第一回「なかしましほさん」後半

いつでもやめられるから、
いつまでも続けている

なかしましほさんがおやつの通販「foodmood」を始めてから、十数年が経ちました。

お店の形態も変化しました。
通販専門から店頭販売へ、そしてカフェ併設へ。
それでも焼きたてのおやつのさくっとした歯触りや香ばしさは、スタートしたときと変わりません。

「ただただ続けていたらこうなっただけ。
実際は、かっこよくも、見た目のようにほっこりした感じもなくて、たんたんとしています」となかしまさんは言います。

たったひとつの好きなことを長く続けてきたからこそ変化したことと、それでもなお変わらなかったことがあります。
なかしまさんの今、そしてこれからを伺いました。

たくさんのものは、必要ない気がします。

今年(2015年)4月、なかしまさんは国立市内に店舗を引っ越しました。
いままでの店よりもうんと広いその場所は、さっぱりとした清潔感があって、爽やかです。
大きくあいた窓から入る日差しが空間を明るく照らします。
ガラスの花瓶には、背丈ほどあるグリーンがたっぷりと生けられています。
レジ脇のショーケースには焼きたてのケーキ、壁ぎわの棚には箱詰めのクッキー。
店を訪れた人は、スタッフとことばを交わしつつ、おやつを求めていきます。

なにより大きな変化は、イートインが併設されたことでしょう。
店を訪れた人は、この空間で、お菓子とお茶を楽しむことができるのです。 

スペースは広くなりましたが、扱うおやつの種類は増えません。

「なるべく引き算していくことを意識しているかもしれません。
他の店にあるからうちも、ということは一切やりたくない。
たくさんの種類は必要なくて、自分が本当においしいと思うものだけを置きたい。
そして、そのなかにお客さんがどれかひとつは好きなものがある、というのがいい。
それでいいと思っているんです」

お客さんの顔を見ながら、お菓子を売ること。

「ここに移る前、姉(手芸作家の三國万里子さん)と一緒に場所を借りたときから、通販をすっぱりやめました。
いまは、ほぼ日さんと年に一度だけ通販をしているのですが、
それ以外はなるべく通販をせず、ずっと対面で売っていきたいという気持ちがあります」
となかしまさんは言います。

なぜ、対面販売を選んだのでしょう。

「お菓子って、洋服と違って単価が安いですよね。
だけど送料や手数料がプラスすると、高くなってしまう。
イベントとしてではなく、それを日常として行うのはすこし苦しくなってしまって。
あとはクッキーは割れやすいお菓子なので、もちろん割れても味に変化があるわけではないのですが、
せっかく届いたクッキーが割れていたら、お客様ががっかりするんじゃないかと思って」

おやつとはそもそも、日常のさもない喜びのひとつであるはずです。
ちょっとつまんで、ほんの少しだけ嬉しい気持ちになる。
そのさもない喜びのために宅配便を使う……
そのことを、少しずつ苦しく感じ始めていました。

「対面販売なら、近所の方にも買ってもらえるし、
遠くの人は電車賃がかかるけれど、せっかく来たのだからと国立の町も見てもらえる、と思って」
と、なかしまさんはにこっと笑いました。

スタッフを雇うことにした理由。

最初のスタッフを募ったのは、4年前。

「当時は、スタッフを雇うことに葛藤がありました。
人に任せて作ったものは、私が自分でつくるものとは違いますよね。
でも、私ひとりで作っていたら数に限界があって、おやつをほしいと言ってくれるお客さん全員に届けられない。

それに私は職人タイプではないので、毎日アトリエにこもってクッキーを作り続けていると、しんどくなってしまうんです。
レシピ本を作ったり、店以外の場所で教室をひらいたりしながらクッキーを焼くことで、バランスがとれる。
そのためには他の人の力を借りることが必要だと、心の整理ができたんです。

スタートは大変でした。
こっちは『思ったとおりにやってもらえない』と焦り、向こうは『そんなに早く覚えられない』となる。
険悪な雰囲気になったこともありましたよ(笑)。
それでもお菓子を作りたいとがんばってくれて、続けることができました。
するとだんだん、お菓子も売れるようになって、スタッフも少しずつ増え、
今度は私が直接教えなくても、スタッフ同士で教え合えるようになったんです」

いま、お菓子のレシピや店内に飾る花選びなど、大枠はなかしまさんが決め、
レシピを作りやすくする工夫や飾り方などは、現場のスタッフがおこなっています。

「私は毎日現場にいるわけではないから、細かいことはスタッフのみんなが決めていく。
『迷ったり困ったりしたらいつでも言って』と伝え、相談されたらそれに答えています。

お店をやってスタッフも増えてきて、決断しなくちゃいけない機会がどんどん増えてきました。
私が決めないとスタッフはもっと迷うので、決断がどんどん早くなってきましたね」

気持ちや体調は、お菓子の味に出ると思っています。

とはいえ、順調なことばかりではありません。日々、さまざまな出来事がおこります。
だからこそ顔を合わせて話す時間を、なかしまさんは大切にしています。

「問題って結局は話さないと解決しませんね。
忙しいからという理由で話し合わずにいると、どんどんずれていってしまう。
お店を移転した当初は、仕事は山積みでへとへとなんだけど、とにかく話そう、と、毎日ミーティングをしました。
そうやって話すと、解決策が生まれたりする」

でもね、と、なかしまさんはことばを継ぎました。

「そうすると、また新たなことが起きて……。
次々起こる出来事にいつも向き合っている感じです」 

そう語るなかしまさんの表情は、意外なほどすっきりしています。

なかしまさんが折りにふれてスタッフに話すのは、「しんどい気持ちでお菓子をつくらないで」ということです。

「もちろん体力的には当然ハードだと思います。
オーブン使うから暑いし、立ち仕事だし。

けれども、きびしいけど、楽しいのが仕事だと思います。
だから肉体的にも精神的にもしんどいだけだったら、難しいと思うんです。
しんどさを抱えたままお菓子を作らないでほしい。

『そんなの、味に出ない』と思う人もいるかもしれないけれど、
私は人の気持ちや体調って、味に関係してくると思っているんです。
だからスタッフにはよく『どうぞここにいる間は楽しく働いて貰って、
もしも次を見つけたらそこに向かっていってほしい』って話しています」

アイディアは、ほどよい距離感から。

「foodmood」は、これからどんな店になっていくのでしょうか。
これからの展望を尋ねると、さっぱりとした答えがかえってきました。

「この場所で何十年も、というのはいまは考えていませんし、環境が変わっても、それを楽しもうと思っているんですね。

どうも、遠くのことが考えられなくて。
3ヶ月後のイベントのことなんかを打診されると、そんな先のことはわからないって、呆然とするんですよ。
あまり先のことだと、自分の状況が変わっているかもしれないし、今いいと思っていたことが違っているかもしれないから。

でも、たとえば『2週間後にこんなことがあるからやってほしい』と言われると、イメージがつく範囲だから決められる。
お店のことも、ちょうどいい距離のことだとすごくいいアイディアが生まれてくるんです」

先のことはわからない、となかしまさんは言います。
それでも確信していることがある。
この先もきっと、私はお菓子をつくっていくだろう。
ここかもしれないし、あるいは、ここではないどこかで。

人のあり方も環境とともに変わっていきます。
そのなかで自分自身がしっくりくる形を見つけ、全力を注ぐ。
変わっていくことをおもしろがり、そこから生まれる日常を楽しみたいと、なかしまさんは思っています。

foodmoodを代表するお菓子についてなかしまさんに思いを聞きました。

クッキーBOX(6種のクッキー詰め合わせ) 2,300円

アトリエで一人でおかしを作っていた時代からあるfoodomoodの代表作です。箱詰めのクッキーって、嬉しいですよね。ちょっと特別感があって、プレゼントにもできるし。箱を開けたときに、わあって楽しい気持ちになるところも気に入っています。

シフォンケーキ  ホールサイズ 2,000円/1ピース 340円
(シフォンの値段は種類によって変わります)

クッキーと同時期に作り始めたfoodmoodの2大柱です。もともとシフォンケーキをつくるのが得意というのもあり、他にはないしっとりとした食感を売りにしています。クリームがなくてもおいしく食べられるのが売りで。生地に季節の食材などをたっぷり加えて焼いています。手でちぎって食べてくださいね。

シフォンサンド 450円

店をオープンさせるときに、新たなfoodmoodの定番になってほしいと思ってはじめました。豆乳とバニラビーンズを使ったもっちりとしたシフォンに、季節のジャムとクリームをサンドしています。

アースケーキ 450円

ナッツやドライフルーツ、全粒粉がぎゅっとつまって滋養たっぷりなんです。噛むほどにじわじわと甘みも感じられるパンのようなケーキ。忙しい朝や外出時にも、これさえあれば、ちゃんとおなかも気持ちを満たしてくれる。foodmoodのコンセプトを体現するような、ずっと置いておきたい商品のひとつですね。

キャロットケーキ 400円

店頭販売の工房時代からつくっているケーキのひとつです。にんじんをとにかくたくさん使っていて、しっとりしています。酸味のあるクリームを添えてお召し上がりください。女性にとても人気のある商品です。

お話を聞くひと

なかしましほさん
東京都・国立市にあるおやつの店foodmood店主/料理家。乳製品を使わず、菜種油でつくる「ごはんのようなおやつ」を提案。書籍や雑誌などで、おやつやごはんのレシピを多数提案、「ごはんとおやつ、雑貨の店 くらすこと」では、フードディレクションや、「foodmood のおやつ教室」を開催してくださっています。著書多数。
foodmood.jp

なかしましほさんの本

『もっちりシフォンさっくりクッキーどっしりケーキ』

¥1,300(税抜)
なかしましほさんの初のレシピ集です。甘さを控えて素材のおいしさを引きだした、毎日食べたい“ごはん”のようなおやつ。アースケーキのレシピも載っています。

『まいにち食べたい ごはんのようなクッキーとビスケットの本』

¥1,200(税抜)
「foodmood(フードムード)」のなかしましほさんのお菓子のなかでも、とくに人気の焼き菓子のレシピ集。ボウルの中で手で混ぜるだけ、バターや生クリームなしで、驚くほどおいしいクッキーに。

『まいにち食べたい ごはんのようなシフォンケーキの本』

¥1,200(税抜)
「基本のシフォンケーキ」では、豆乳、レモン、チョコレート、バナナを詳細なプロセスで紹介。シフォン生地でつくるロールケーキやカステラなど、楽しい応用編も満載。

『まいにち食べたい ごはんのようなケーキとマフィンの本』

¥1,200(税抜)
マフィン、スコーン、ケーキ、タルト、パイがテーマの「ごはんのようなおやつ」シリーズ第3弾。基本のマフィン、基本のスコーンの後は、果物や野菜を使っての応用も。

『まいにち食べたい ごはんのようなクッキーとクラッカーの本』

¥1,200(税抜)
シリーズ第4弾は、クッキー、クラッカー、ビスケット、サブレ、ガレットなどの焼き菓子レシピが満載。全工程が写真つきで、「クッキー作りの『困った!』相談室」も大きな参考になります。

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