「小さな森 イスキア」を訪ねて

福岡市内の自宅で「小さな森 イスキア」という場を設けているご夫妻がいる。吉田俊雄さんと紀美子さん。佐藤初女さんの「森のイスキア」の活動に賛同し、晩年の初女さんの講演活動を支えたお二人だ。

「森のイスキア」は青森県、岩木山の麓にあり、初女さんの活動の拠点だった建物の名。悩みや苦しみ、為す術のない事の成り行き。それらに圧倒され、無力感に浸された人々が最後の望みとして、あるいは生きる本能に突き動かされて訪れた場所だ。扉を開け、何も問わず、ともに食卓を囲む。そのことをただ続けてきた人が初女さんだ。

〈初女さんのおむすびを食べて、自殺を思いとどまった人がいる〉、ある雑誌の記事が映画監督の龍村仁さんの目にとまったことが、森のイスキアが広く知られるきっかけになった。龍村さんは森のイスキアを訪れて初女さんと対面し、その日のうちに自身が監督する作品への出演を請うたという。

ドキュメンタリー映画『地球交響曲 ガイアシンフォニー 第二番』(1995年)に出演した初女さんとそのおむすびは、鮮烈な印象をもたらした。映画を観た人は皆、心のどこかに「イスキア」を置いただろう。誰もが受け入れられ、自らを癒すことのできる場所が北国の山麓にある。そう思うだけで、実際にその扉を叩くことはなくても、多くの人が支えられたのではないだろうか。

吉田夫妻と「くらすこと」を主宰する藤田ゆみさんが初めて会ったのは、2012年に東京・蔵前で開催した初女さんのおむすび講習会。

「そのとき、初女先生がガラスの扉に頭をぶつけてしまうハプニングがありました。藤田さんが心配して、初女先生、絶対お医者さんに見てもらってください、とにかく検査だけでもしてくださいと。それでことなきを得たんですけどね」

初女先生のお供をして、全国あちこちへ行ったけれど、あのときのことは忘れられない、と俊雄さんは微笑む。

夫妻は10年以上、東京の自宅マンションで、「森のイスキア」にならい、人々を迎え入れる活動を行ってきた。初女さんが亡くなった同年、夫妻は俊雄さんの故郷・福岡へ戻ることを決断する。そして福岡の自宅で「小さな森イスキア」として活動を始めることになった。

同じ頃、「くらすこと」も拠点を東京から移し、偶然にもゆみさんと吉田夫妻は福岡で再会を果たす。いつか、イスキアを引き継いだお二人の話をゆっくり聞いてみたい、そうした思いを温めていた折、「カオリーヌ菓子店」の店主であり、旧友のかのうかおりさんから来福の知らせ。

以前、かおりさんはゆみさんから初女さんのおむすび講習会の話を聞き、これまで著作などを通じてしか知らなかった初女さんのことをもっとよく知りたいと思うようになったという。知りたいと思うと止まらない、行動力のあるかおりさんはさっそく吉田俊雄さんに連絡し、そこで自身と初女さんとの思わぬ縁を知る。かおりさんが食物学を学んだ大学時代の恩師が、初女さんの開催する料理教室に通っていたこと、初女さん最後の講演会は恩師が主催していたことなどだ。このときに俊雄さんと交わした、福岡を訪れた際にはぜひお会いしましょうという約束がこの度の「小さな森 イスキア」訪問へとつながった。

仕事で福岡へ行くことが決まったとき、かおりさんはゆみさんを吉田夫妻との食事会に誘った。ならば実際にイスキアの会を体験をさせてもらってはどうだろう、というのが、ゆみさんの提案。

こうして晩秋の木漏れ日の美しいこの日、イスキアの集いが開かれることになった。

本来のイスキアの集いは、集まったメンバーだけのもの。ここで話されたこと、聞いたことが外に出ることは決してない。その意味で閉じられた集いである。しかし、初女さんの遺志を継いだご夫妻の思いと、この場に参加するメンバーにもたらされた体験について、そして初女さんの遺したものを多くの人に知ってもらいたいという願いから、ここに記録した。

「小さな森 イスキア」は「森のイスキア」での初女さんの活動をそのままの形で引き継いでいる。

「ここに来たいという方がいらしたら、名前や理由を聞くことなく迎えて、一緒に食事をする。お互いに話したいことを話し、聴き合う。お互いの違いを認め合って、ともに過ごす。それがイスキアだと思っています」

吉田俊雄さんの覚えている初女さんは、その場にいるだけで周りを癒した。

「あの秘密はなんだ? と思いました。私たちにできることは初女さんの見よう見まねですが、その人のありのままを受け入れ、話を聴いて、寄り添うこと。それが活動の基本です」

イスキアの集いにはいくつか約束事がある。

「私は長年、企業に勤めて問題解決型の思考が染み付いていましたからね、ついアドバイスをしたくなる。今もまだその名残りみたいなのがいっぱい残っています」

イスキアの活動を含め、長年、被災地で心理的なサポートをするボランティアとして経験を積んでいる俊雄さんだが、それでなお、「聴く」ことに徹することの難しさを痛感するという。

「『聞く』は、耳で聞くこと。聞く内容は出来事や情報のレベルが中心だと思っています。一方、相手が話したいこと、聴いてほしいことを『キク』ときは、悩み苦しみの内容が多いですから、傾聴の『聴く』が大切だと思っています。『聴』の字が、耳+目、心で構成されているように、表情や語調などもたくさんのメッセージを伝えてくれます。そのときは、気持ちや感情に焦点を当てて反復したり質問したりして聴くことを大切にしています」

話を遮らず、終わりまで聴く。アドバイスをしない。それを守って丸ごとの相手の話を聴くことは、相手を信じることでもある。

「苦しんでおられても、答えはその方の中にあるということを心から信じて。相手の話を『聴く』ということは、ご本人が答えに気づくためのお手伝い。もやもやした感情も言葉にして語られると、いつのまにか整理されて、自分で答えに気づかれていく。人からこうだよという答えをもらうのではなく、話をそのままに聴いて受け止めてくれる人がいれば、必ず自分で答えを見つけられる。答えを持っておられることを信じて待つ、それが『聴く』ということ。それは相手と共にいることだし、大丈夫だよという祈りだと思っています」

初女さんは「私の祈りは生活そのもの」という言葉を残している。「若い頃の長い闘病生活とそれを支えた信仰は、初女さんの日常生活をそのままイスキアの活動へと展開する力になっていたと思います。人のためにいつも動いている人でした」と俊雄さん。

「亡くなられて2年後に弘前市で開催した会に、市内にある高齢者福祉施設の園長さんが来てくださったことがあります。初女さんはどんな方でしたか? と僕が聞くと、『入居者の方との接し方を本当に厳しく指導されました』という話をしてくださいました」

「聖歌の中にイエス・キリストの言葉をもとにした、こんな歌詞があります。『私は門の外に立ち、扉を叩いている、もし声を聞いて門を開けるなら、私は中に入り、あなたと共に住む』。この聖歌を大切にしなさいといつも言っておられたと。初女さんは、入居してくる人を、イエス様が来てくださったと思って迎えなさいと教えられたのだと思います」

イスキアはきっとそういうところだ。夜中にトントンとノックする人がいる、開けていいものかどうか、初女さんも葛藤する。けれど、最後は扉を開ける。なぜなら、そこにいるのが神様だったら、開けるだろうから。

「それで怖い思いをしたことは一度もありません、とおっしゃっていた。きっと、その聖歌にあったイエスさまの言葉からも、勇気をもらっていたのかもしれませんね。本当に勇気のいることですが、私たちも少しずつ近づきたいと努力をしています」

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