JUNICHI OGAWA

季節のレクチュール #3・夏 その2
Lecture des Saisons #3 – été – 02

構成・文 松本 あかね
写真 有賀 傑

※レクチュールlecture:(仏)古くはレッスン、講話という意味を持つ言葉

「大人の夏休み」—— 街へ

店、人からエネルギーをもらう夏の一日

海の街、鎌倉には夏になるとたくさんの人が訪れます。休日の遠出は楽しみのひとつ。とはいえ前回お伝えしたように、夏は体力を消耗しやすい季節ですから、ただパーッと解放するためだけでなく、せっかくの休日だからこそ、しっかり英気を養えるような場所へ出向いてほしい、そんなふうに思います。

僕は常々、いわゆるパワースポットというのは、土地のエネルギーによるものだけでなく、人によっても作り出せるものだと思っていて。人が生み出すもの、場には、その人のエネルギーが伝わって流れているもの。それに触れると、自分の中にもその良いエネルギーが流れ込んできて、元気になる。そういう場所もまた、パワースポットと呼びたいと思うのです。

皆さんにも、何かを買うためだけでなく、その人に会いたいから、その空間に身を置きたいから行く、というお店はありませんか。今回ご紹介するのも、僕の大好きなおすすめのスポットであると同時に、食事の作り手のエネルギーがすばらしいお店、静かな美意識に貫かれた特別な佇まいを持つお店です。「大人の夏休み」にはぜひ本当の意味で素敵な場所に身を置いて、夏の疲れを癒してほしいなぁ、エナジーチャージしてもらいたいなぁと思います。

そんな気持ちで、今回は僕にとって特別な鎌倉のお店を二軒、ご紹介したいと思います。

バスから始まる休日

湘南方面へいらっしゃったことのある方はわかると思いますが、鎌倉や葉山はバス文化。鎌倉住民は旅行も近所へのお出かけも、どこへ行くにもまず停留所でバスを待つところから始まります。
みなさんも鎌倉に来たら、江ノ電もいいけれどぜひバスを使ってみてください。

まず、時間通りに来ないところがいい。ベンチに座って、どんな順番で街を巡ろうか考える。どこでご飯を食べようか、そういえば久しぶりに友だちのお店を覗きたいけれど、今日はお店にいるかしら、それとも野菜を買いたいから、まずは連売(鎌倉市農協連即売所)へ行くべきか……それにしても遅いな、と道路の彼方へ目を凝らす。そんなバスを待つ時間がとても好きです。

夏は、山手の道では緑がうんと近くて、窓にザザザと枝が当たったり、木漏れ日の中を行くのが気持ちいい。夏のバスだから感じられる幸せだなと思います。

そんなふうに、大人の夏休みには分刻みのスケジュールでなく、時間を忘れて、のんびりお出かけを楽しんでほしいなと思います。そうして新しいルートを見つけるのも、鎌倉の街を巡る楽しみ方のひとつになるかもしれませんね。

Yukkohan ユッコハン

鎌倉駅から由比ヶ浜へ向かう途中、若宮大路から少し入った一軒家は、一見何のお店か、わからないかもしれません。門から緑のしげるアプローチを通っていくと、ガラス戸の向こうにはいろいろなお惣菜が並ぶカウンター。そして元気いっぱいの女の子がそのまま大きくなったようなゆっこさんの笑顔が迎えてくれます。

ここはゆっこさんこと中内由紀子さんが作る日替わり弁当が評判のお弁当屋さん。緑したたる庭の東屋に座っていただくお弁当は、まさにパワーフード。食べると体の奥から力が湧いてくるようです。

新鮮な野菜中心の日替わりのお惣菜から好きなものを選んで、アルミのお皿に盛りつけてもらうと思わずニコニコ。ここのお弁当はおいしいのはもちろん、食べた後、体がとても軽いのです。つまり消化が気持ち良く進むご飯なんですね。そして一日中、じわーっと幸せな気持ちが続きます。それはなぜかというと、ゆっこさんが料理を作るときに込めた思いや愛で食材のエネルギーが軽やかになっているからではないかな、と思うのです。

パッと花が咲いたような笑顔からもわかるように、ゆっこさんはエネルギーの塊のような人。「食はパワーを作るもの。来てくれた人が元気になるように『元気の素』を作ろうと思って」。お惣菜のほかに人気のハンバーグも、ゆっこさん曰く「愛情をこめてこねる」ためかふわっと柔らか。とても軽やかで、普段あまりお肉を食べない僕もぱくぱく食べてしまいます。

ここのお弁当を食べると、料理は作り手の思いやエネルギーが大切なんだな、ということをいつも思い出します。
ゆっこさんの作るご飯は体にも心にもやさしい、だから、幸せな気持ちになるんだなぁと思います。

鎌倉に来たら生しらす丼もよいけれど、こちらのお弁当もぜひ。もちろんテイクアウトもできます。少し涼しくなったら、浜辺へお弁当を持っていくのもいいですね。

Yukkohan
yukkohan.com

招山由比ヶ浜 しょうざんゆいがはま

鎌倉の海のそばと山の上に二店舗を構えるギャラリー招山。僕の憧れの作家の方たちが展示をされる、とても静かで美しい空間です。
今日ご紹介するのは、由比ヶ浜にほど近い「招山由比ヶ浜」。山のギャラリーで展示した作品を常設する場として設けられたスペースで、作品を購入することもできます。

招山を訪れた方は、ここの空気が周りと異なることに、すぐ気づかれると思います。時間の流れもまた。ここは洋画家、故朝井閑右衛門の旧アトリエの庭の一角にあります。この建物はもとは管理人小屋だったとか。すぐ裏手には大きなクスの木があって、まるでご神木のよう。その奥で鬱蒼うっそうとした木々の合間にたたずむ母屋はまるで本殿のようです。ここは僕にとって神社のような聖域サンクチュアリ。気持ちを鎮めたいときに訪れる場所です。

招山は物との出会いはもちろん、美しい時間や静かなエネルギーにも触れられる場所。控えめで優しく、それでいて凛としたこの空間は、オーナーの渡邊恭代さんのお人柄にも通じるもの。僕が鎌倉に越して来たばかりの頃からいつも気にかけてくださって、最近どうしてるの? とか、小川さんが好きそうな布が入ったよ、とか、そんな何気ないおしゃべりにほっとします。いつもそこに渡邊さんがいてくれる、その安心感も僕にとってはなくてはならないものなのです。

神社を訪れるような気持ちで門をくぐり、クスの木と朝井閑右衛門の旧アトリエである母屋を眺めて心を鎮める。選び抜かれた布、器を眺め、空間に身をひたしていると、バタバタ忙しかった、自分の中の何かが止まって、静かな気持ちになっているのが感じられます。ここに来るといつも、とても豊かなものにふれたような、何か大切なものを思い出すような気がするのです。

気持ちが湧き立つ夏だからこそ、このふと静止する感覚を、味わってほしいなと思います。

招山由比ヶ浜
https://www.shouzan.org/

MEME

「本当の私と出会う」をテーマに、スピリチュアルな感性をもっと身近に感じるスピリット&ライフマガジン『MEME(ミーム)』。カウンセラーであり、アーティストである小川純一さんが自ら編集長になって立ち上げた小さな冊子です。

MEME spirit&life magazine issue #01
MEME spirit&life magazine issue #02

[lecture]