撮影:有賀傑
構成・文:松本あかね
台湾写真提供:内田真美

① お母さんと子どもにやさしい、
  台湾の街

本屋さんに並ぶこちらの本、もうご覧になった方もあるでしょうか。
タイトルは「私的台湾食記帖」。
ページをめくると、色鮮やかな南国のフルーツジュース、古い建物をリノベーションした本屋さん、雑貨屋さんと間違えそうなおしゃれな食材屋さん・・これまでの台湾のイメージが更新されるような感性のお店が並んでいます。
それに豆や芋がどっさり載った甘味や、屋台が所狭しと出揃う市場、
昔ながらの良心的な味わいを伝えるお店の健在ぶりも伺えて、
そんな新旧のお店の有り様から台湾の「現在」、
生き生きした小さな南の島の暮らしぶりが伝わってくるようです。

著者は、元々15年来通っていて、子どもと一緒にはじめていく外国も台湾と決めていたという料理研究家の内田真美さん。
娘さんが2歳半の頃から通った経験をもとに、初めての人や小さなお子さん連れのお母さんのために作ったガイドブックです。

小さな子を連れて電車移動でさえ大変なのに、外国だなんて・・という声もあるかもしれません。
それは然り、なのですが、なぜ子連れの台湾旅行を勧めるかといえば、実はここに内田さんが見つけたある「答え」があるから。

出産後、東京で「ちょっと孤独な感じで」子育てしていたという内田さん。
そのとき感じていた周りから注がれるお母さんと子どもへの目線、それはまるで、何もかもお母さんの責任、
といわれているような威圧感があったといいます。
赤ちゃんの生活周りのケアはほぼ両肩にかかり、ちょっとのベビーカーでの外出にも気を使う、
そんな日々にくたびれていたとき、初めて娘さんを連れて行った台湾。
そこで出会ったのは、見ず知らずの人も子どもを愛で、お母さんにも自然にやさしく親切にしてくれるチャーミングな台湾の人たちでした。

「子どもが世の宝だという価値観がきちんと残っていて、
子どもはかわいがるべき存在として肯定されるので、すごく気が楽になるし、嬉しくなる、旅をしていても」

それからは、一年に一、二度のペースで通い、たくさんやさしくしてもらって、
おいしいものを食べ、娘さんや旅仲間たちと街歩きを楽しむ、そんな旅を重ねてきたといいます。
そうして子育てで疲れた心と体に英気を養ってきたのだと。
ここでは、内田さんと娘さんが台湾で出会ったチャーミングなエピソードを中心に、
子連れ旅で巡る台湾の魅力についてお話を伺いました。

そして最終回では、いつのまにか子どもへの目線が厳しくなってしまった東京で、
小さいお子さんがいるお母さんも、そうでない人も、この現状に対してどんなことができるのか、
内田さんの日頃の実践を伺いながら、いっしょに考えてみたいと思います。

台湾に通う理由

——台湾へ行ったきっかけは何だったのですか。

図書館で見つけた「食在台湾」という本でした。
子どもの頃から知らない国の人がどんなものを食べているのかに興味があって、
何度も借りてきて眺めては「きっと好きだな、この国」と思っていました。

台湾に惹かれるきっかけとなった本、「食在台湾」。学生のグループが屋台の卓にずらりと並んで朝ごはんを食べていたり、生き生きした食の有り様が描かれる。

ヨーロッパに憧れがあったりして、それからすぐには行かなかったんですけど、
何年かして行ってみたら、想像よりずーっと良かったんです。

——どんなところが良かったのでしょう。

土地と自分の体がすごく合ったんです。
体の中の悪い気が全部、すっと通るような、停滞していた体の中の空気がきれいに入れ替わるような。
食べ物はもちろん、土地の持つゆるい感じや、皆さんのやさしさも印象的でした。
普通の生活にきちんと精気があって、上っ面で生活していない感じ。
「食べて生きる」という感覚が明確というか、そういうところがいいなと思いました。

子連れ台湾旅行の魅力——「台湾伝説」とは

——台湾は独身時代に行ったことがある人も多いと思うのですが、子連れで行くとどんなところが違うのでしょう。

台湾にはかれこれ15年来通っていて、娘が2歳半の頃、初めて一緒に行きました。
それまでも台湾の人はやさしいと感じていたのですが、
ベビーカーで行く台湾は、それはもう皆さんがニコニコ、かわいいかわいいと、どこへ行っても。
先日も知人の男性が子連れで行ったのですが、「なんで皆やさしいの」、「いっぱいお菓子とかくれる」、子連れの台湾は最高です、って。

旅仲間の間で、もうこれ以上台湾を好きになれない、っていうくらいやさしくしてもらったエピソードを、
勝手に「台湾伝説」と呼んでいるんですけど。
「どうしよう、またこんないいことあった」ってみんなで報告し合っているんです(笑)。

——たとえばどんなエピソードが?

ホテルのエレベーターで一緒になった人がまず、「かわいい」と言い始める(笑)。
それからロビーでタクシーを待っていると、今度はホテルの人たちが、かわいいかわいいと言ってくれて、ニコニコ送り出してくれる。
食堂へごはんを食べにいけば、若い女の子たちにかわいい、娘と一緒に写真を撮らせて、と言われたことも。
これには驚きましたけど。

赤ちゃんのいる台湾に住んでいる友人と、彼女の行きつけのお店へ行ったときのことですが、
まずお店のひとが入れ替わり立ち代わり赤ちゃんを見にやってくる。
そのうち抱っこして、あやしながらどこかへ行っちゃうんですよ(笑)。
赤ちゃんがそうやって厨房やバックヤードをひと巡りしてくる間、大人たちはご飯をゆっくり食べられる。

娘を連れて行ったときも、ちゃんと食べているかどうか、お店の人がちょこちょこ見に来てくださるんです。
「おいしい?」、みんなが楽しく、特に子どもが楽しく過ごせているか、おいしく食べられているかを店主の方がきちんと見てくださる。
そのお店は特別かもしれないですけれど、絶対とはいえませんが、台湾ではそういうことに遭遇することができるんですね。

包み込む「父性」が健在

——そんなふうに見守ってくださったら、レストランでの食事も楽しめますよね。
東京では乗り物の中で困るという話をよく聞くのですが、台湾ではいかがですか。

電車に乗ると、まず子どもが乗ってきた瞬間に席を立って、座れ座れと言われます。
次で降りるから、「ネクスト ステーション」と言っても、いいから座って、座ってと。

この間、台湾の空港でバスに乗っていたとき、第一ターミナルで降りるはずが、娘が眠ってしまい、第二ターミナルまで行ってしまって。
バス係のおじさんに「第一ターミナルまで歩いて帰れる?」と聞いたら、モノレールがあるからおいで、と乗り場まで連れて行ってくれて。
そのうち娘がぐずり始めたら「僕が荷物をもつから、君は子どもをみてあげて」と。
結局モノレールのゲートまで一緒に行って、荷物を乗せてくれて、「じゃあね」って。
男性がこうさりげなく、ジェンルマン、スマートな感じで手伝ってくださること、日本ではあまりないですよね。

——皆忙しそうで、街で見かけるお母さんと子どもは、眼にも入らないという感じかもしれません。

男性に気にかけてもらうと余計嬉しいというのはありますね。日本ではなかなかないことなので。
子連れの友人たちとの旅で何日目かの朝ごはんのとき、しばらく父親と離れていたせいで娘が「パパ!」って泣き出したんですよ。
そうしたら、友達曰く、向こうの席の4人グループの男性がパッとこっちを向いて、頷きながらニコニコしていた、って。

台湾では、家長的だったり権威的するのでなくて、やさしさでみんなを包みこむような「父性」がまだ健在なんだなと感じさせられます。

台湾の街の中——コミュニティがごちゃまぜ

——ゆったりした街の空気や人々の和やかな様子が伝わってくるようですね。
初めて行かれた頃と比べて、そういう雰囲気は変わりませんか。

初めての台湾は15年前でしたが、その間の経済発展は大きかったと思います。
レートも、町の雰囲気もすごく変わりました。生活面でも当初は日本と時代の差を感じましたが、それも今はほぼなくなって。
服装の流行にしても、ほとんどかわりがなくなりました。外貨保有率がアジアで上位というのもあって、勢いも感じますし。
でもやさしさの面ではかわらない。みんなやさしいですね。

愛読した台湾のガイドブック。友人でもある、台湾在住の青木由香さん著「台湾ニイハオノート」。

——日本と台湾、経済発展、近代化という同じようなイニシエーションを経ていながら、
「やさしさ」の面で二つの国の道筋はどこでどう変わってきてしまったのでしょう。

どこなんだろう、って思います。こんな近くて、文化の感じも成熟してきて似ているのに、
もともとあったやさしさみたいなものだけ、なんで日本はなくなってきてしまったんだろうって。

台湾できれいなレストランで子どもと食事をしていても、どうして子どもがこんなところに、という反応もないし。
美味しいものを人々が食べて生きていく、それが当たり前のことという風潮がしっかり残っているので、
「あ、私、子どもとこんなに楽しく食事をしていいんだ」、この肯定感に救われましたね。
それは台湾を訪れるといろんな場所で、場面場面で感じられることで。

街の中でコミュニティがそんなに分断していないんですよね。
台湾は街中にコーヒーショップがたくさんあるんですが、そこで、塾の帰りをお迎えに行ったおじいちゃまなんでしょうね。
小学生二人とおじいちゃんが三人でお茶していたり。

——確かに、東京ではあまり見かけない光景ですね。

街角にいろんな年代の人たちがいるのが普通の光景なんです。
日本の場合、若い人はこういう店、ご年配の人はこういう店へ行く、と分かれているじゃないですか。
しかもこういう地域に住んでいる人が行くお店はこういう感じ、って分断されるみたい。

前に少し遅めの時間にちょっとスノッブなカフェに入ったことがあったんですけれど、娘はカフェインを飲まないので水を、私がケーキとお茶をひとつずつとって半分こして食べるからと持ってきてもらったら、店員の男の子がすっときて、「ガールにプレゼント」、スチームミルクにマシュマロがのったものを持ってきてくれて、「Enjoy!」って。

——やさしい!

そう、さらっとやさしいんですよ。かっこいいお兄さんだったんですけど。

——たしかに六本木のおしゃれなカフェでそんなことがあるか、ちょっと想像できないかもしれないですね。

つづく。
第二回は、子連れの旅の組み立て方、子どもの外食事情についてうかがいます。

内田真美
料理研究家。長崎県生まれ。夫と7歳女児との3人家族。主に、雑誌、書籍、広告などで活動している。
台湾の食、人々、土地に魅了され、15年以上通い続けている。

真美さん教えて!台湾子連れ旅

これからはじめての台湾旅行を考えていらっしゃるお母さん。何度か台湾を訪れているけれど、こういうときはどうしたら?など、子連れ台湾旅行の困った!や疑問質問に、内田真美さんが答えてくれます。
メールにて、真美さんに伺いたい疑問質問を、ぜひお送りください。内田真美さんのインタビュー掲載終了後、まとめてくらすことウェブマガジンにて、ご紹介させていただきます。
台湾子連れ旅の達人、内田真美さんにお聞きになりたいことを、この機会にぜひ!

<送り先>
メールの件名を「真美さん教えて!台湾子連れ旅」とし、office@kurasukoto.comまで質問とお名前(ペンネームも可)、お子さんの年齢と性別をお書き添えの上、お送りください。お送り頂いた質問のすべてにお答えできかねますが、なるべく対応できるようしたいと思っておりますので、あらかじめご了承くださいませ。

『私的台湾食記帖』

内田真美
出版社:アノニマスタジオ 1,600円(税抜)

台湾に15年以上通い続けているという内田真美さんによる、台湾の食ガイドブック。はじめて台湾に行かれる方や、子どもと一緒に台湾の街歩きを楽しみたい方に、オーガニックなどのこだわりの素材を使って調理していたり、子どもと安心して一緒に食事出来るお店を中心にご紹介しています。子連れ旅に助かる宿泊や公園など遊び場の情報も掲載していて、なかなか得られない子連れ旅ならではの、役立つ情報も満載です。

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