撮影:有賀傑
構成・文:松本あかね
台湾写真提供:内田真美

③ 「台湾伝説」ならぬ「東京伝説」は
  果たして可能?

内田さんが感激したという、台湾の人たちの子どもとお母さんへのやさしさ。
旅友達との間で「台湾伝説」と呼ぶエピソードの数々をお伺いしてきました。
ここ日本でも、「伝説」が生まれる可能性はあるのでしょうか。
そのために私たちができることは何でしょうか。
最終回ではそれについて考えてみたいと思います。

新「東京伝説」計画、発進!?

——子どもや若い人への目線は、お子さんを出産されてから変わりましたか。

若い頃は、そもそも接し方がわかりませんでした。
子どもを好きになれなかったらどうしよう、って妊娠中も思っていました。
でも大丈夫でした。しかも、世の中の子ども全員がかわいくなった(笑)。
なんてキラキラしたきれいな存在だろう、と。

娘が生まれてから、これまで周りの子どもに対して、もっとやさしくできたはず、とすごく思いました。
もっと声をかければよかったなと思って。
私も娘が小さい頃、よそのおばあちゃんたちに声をかけてもらうのがすごく嬉しかったので、
今は赤ちゃん連れのお母さんを見ると、声がけをするようにしています。

——実際にどんな言葉をかけるんですか。

「かわいいですね」、「今、何ヶ月ですか」、「抱っこできるうちが華なんですよ」、
「大変なことってね、忘れるから大丈夫ですよ」、とか。

——「台湾伝説」を地でいっているわけですね?

そういうわけじゃないんですけど・・なんかこう、自分の場合を振り返っても、
駅でベビーカーを運ぶのなんかを手伝ってくださるのって、子どもがいる方。
つまりわかっている方なんです、どう大変かっていうのが。

——無関心に見えるのは、皆さん、その大変さがわからないっていうこともあるんでしょうか。

独特だと思うんですけど、日本の人って見て見ないふりをしませんか。
自分と違うカルチャーの人がいると、なかったことにするというか。
もちろんやさしい人もいるけれど、階段でベビーカーを孤独に運んでいると、
手伝ってくれるのって、大抵子どもを連れている人なんです。

どうして皆手助けしないんだろうと思いますが、やっぱり大変さが実感としてわからないと難しいのかな。
でも誰かが手伝ってくれて、大変さをわかってくれているということが伝われば、お母さんたちも気が楽になるかなと思いますから。
だから時間が許す限り、見かけたら声をかけたり手伝ったり。

たとえば泣き叫んでいる子がいるでしょ、あれはベビーカーがいやなんですよね。
だから一人で右往左往しているお母さんがいると、「私押しますから、よかったら抱っこしてあげてください」、って。
だって抱っこして欲しくて泣いているんですもの、ね。
ちょっとしたら落ち着いて子どもが泣き止むと、お母さんもほっとする。
そうやって大泣きしてる子のそばでお母さんは困ってる、だけど、実は子どもに困っているんじゃなくて、周りの視線に困っているから。
その状況を少しでも変えたくて。

お母さんに「おつかれさま」と言ってあげたい。

——内田さんが自然にそうできるのは、台湾の経験のせいもあるのでしょうか。

そうですね、日本でもそうですけれど、声をかけてもらうことが嬉しかったから。
自分が声がけをしているのも、目の前にいる子どもたちに対して「この世にようこそ」、という気持ちがあるから。
「来てくれてありがとう」、と思わせてもらえること、それってかけがえのないことだと思っているので、
それをお母さんに伝えたくて言っている部分もあります。

友人が子連れで遊びにきてくれたときも、かわいいかわいいというんですけど、
それは赤ちゃんがかわいくてというのはもちろん、お母さんに「出産、おつかれさまでした」という気持ちを伝えたいというのもあって。
ひとりの女性が子どもを産んだ、そのことをきちんと肯定したいという思いがあるからなんです。

——街ですれ違った見ず知らずの赤ちゃんに「かわいい」というときも、お母さんに、「おつかれさま」という気持ち?

そういう気持ちですね。
だって、誰かが生まないと子どもはこの世にいないわけですし、その方が産んでくれたから子どもがいるのですし。
だからお母さんにも赤ちゃんにも「おつかれさまでした」という気持ちです。
皆さんもその気持ちは、きっとあるのではないでしょうか。
だから電車で赤ちゃんが泣き叫んでいるときも、「声がかわいい♡」ってちょっと大きめに言ったりします(笑)

——すごいです! その手があったか、と思いました。

あの小さな赤ちゃんの声って、一時期のものじゃないですか。独特のかわいい声。
だから電車の中で赤ちゃんが泣いていてだんだん空気が殺伐としてきたと思うと、「あ、赤ちゃんの声かわいい」、って。
そうやって誰かが言ったら、「かわいいもんだ」と思う人がいるかもしれないじゃないですか。

——確かに徐々に緊張感が高まっていく、あの空気に一石を投じることができそうです。

誰かが言うと、多分気持ちが伝染するから。
泣いていたりすると、「あ、かわいいもんだな」という方にスイッチが入る人もいるかもしれないから。
今は子どもの数も少ないし、事態をどう受け止めてよいのかわからなくて、みんな、スイッチがフラットになっている状態なのかな、と。
だからこっちに引っ張れば、少しは意識が変わってくるかなという感触はもっていますね。

日本もかつて「子ども天国」だった

——台湾のお話を伺っていて、ついこの間まで日本もそうだったのではという気がしました。
地方ではまだゆるやかなが雰囲気が残っていると思いますし。

年に何回か沖縄へ行くのですが、それは感じますね。
そう思うと、東京で顕著なことなのかもしれませんが、どうしてこんなに母子が社会の中で分断された感じになってしまったんだろうって思います。
子育てはすべて個人の責任、母親の責任だとすり替えられているんじゃないでしょうか。
お父さんだって、家族であり親なのに、そこで「母親の責任」と声高に言われてしまうのが不思議。
単純に子どもの声がうるさいとか疎ましいとか思うのかもしれないけれど、何事もお互いさまで、世の中にはいろんな人がいて、子どもがいるのも特別なことでなく、脈々と続いてきた生物としての営みなのに、と。
なんでそんなに排除しようとするのかなと。

お母さんのためのお食事会——まずママを満たすこと。

——現状にいろいろ問題はあるかもしれないけれど、「子ども天国」復活の可能性に向けて、ひとりひとりが意識を持って何ができるかと考えた時、
今伺った内田さんの声がけは、「新・東京伝説」を作っているのではと思いました。1年前までは、お子さん連れのお食事会もされていたとか。

現在はスケジュールの関係でお休みしているのですけれど。
子どもをフィーチャーした催しってたくさんありますが、お母さんのための何かとなると、意外とないなと思って。

お母さんって、お母さんになった瞬間に人格がなくなったみたいに一括りにされてしまうところがありますよね。
もともと一人の女の人で、それまで働いたり、自分の好きなこともしていたのに、
母になった瞬間に奉仕するのが当たり前という立場で見られてしまう。
決してそんな訳はなくて、インプットだって必要だし、やさしくされたいし、ゆったり過ごす時間だって必要なはずなのに。
何よりも「母としてこうあらねばならない」という思いから、お母さん自身を解放してあげたい。
お母さんが満たされてこそ、家族にもやさしくできますし、
自分のためにも、それ社会に対してもいろいろできることがあるのではという思いがあったので。

——お食事会はどんな集まりだったのですか?

お母さんであることを特権にしたくて、子どもがいる方限定にしました。
お母さんになると、子どもの泣き声を謝ったりしないで人が作ったものをゆっくり食べることが難しくなりますから。
形式としてはお料理教室ですけれど、私が作ったものを召し上がって、お腹いっぱいになって帰ってもらえたらという趣旨でした。

「子どもは泣く、ということはここに来た人は皆知っています。子どもが泣くことや動き回ることを謝らなくていいです。
子どもたちは自由にしてていいですし、お母さんたちも授乳したり立ったり座ったり自由にしていていいです」という話を最初にして。

参加してくださった方は、きちんとセッティングされたものを食べられるのがよかったみたいです。
授乳期のお母さんたちがたくさん食べてくれるのが嬉しかったですね。
授乳期って、食べても食べてもお腹すきますものね(笑)。

今、子連れ台湾旅行をすすめる理由

——そして今度は、台湾への親子旅行を提案していらっしゃるのですね。

この本もお母さんに楽しんでもらいたくて作りました。
一生懸命の育児から少し離れて、育児を肯定してもらえる台湾へ行って、おいしいものを食べてゆっくりして、
皆にやさしくしてもらって、元気を注いでもらって、また日々に戻っていくことができるように。

娘さんのリュックにいつも入っているお絵描きセット。

——旅行中楽しいということもあると思いますが、この世界には「子ども天国」と呼べるような場所があるんだと知ることができるのも、
お母さんにとって大切なことのように思います。

とにかく気が休まってもらえれば。入り口はおいしかった、やさしくしてもらったということなんですけど、
台湾は私にとってもそうでしたが、自分も能動的に何かができるようになるための、まさにインプットができる場だと思います。
そういう所に身を置くことで、お母さんたちの内面が潤ってほしいなと。
その状態になって初めて、この子をどうしてあげたいのかという気持ちが自然に芽生えてくるのではないかと思うので。

——それはお母さん自身も気づくとよいことかもしれません。

お母さんが満たされてこそ、家族にも優しくできるのだと思います。
愛情を無限にわく泉だと捉えてほしくないんですね。
もちろん子どもに対する愛情、友達、夫に対する愛情はありますけれども、
それが無条件にわくものだと、お母さんを聖人化してほしくないなと思います。

——経済成長や文化の発展の面でも、似たプロセスを経てきたように見える日本と台湾の母子を取り巻く環境が、
どうしてこんなに違ってしまったのか、すぐに答えは出ませんが、お母さんたちにはぜひ「台湾伝説」を体験してみてほしい。
そして、もしも東京でも新しい「東京伝説」が生まれてきたら、とても嬉しいことですよね。

さりげなくいうんですよ「あ、かわいー」、「泣くの仕事だもんねー」とか(笑)。
子どもが泣いている時、ニコニコしながら見守るだけでも、お母さんにとってはすごい免罪符。
大丈夫だよ、っていうのが伝わってきてね。許されたじゃないですけど、楽になる。

最近、母子に向けられる目線がより厳しくなっているような気がして、殺伐としてるなと寂しくなります。
日本の中でも東京は特に子育てしづらい環境なのかもしれないけれど、台湾でチャージして、満たされて帰ってきて、
そして自分から能動的に家族に、毎日に向かい合う。そんなきっかけにしてもらえたらなと思います。

内田真美
料理研究家。長崎県生まれ。夫と7歳女児との3人家族。主に、雑誌、書籍、広告などで活動している。
台湾の食、人々、土地に魅了され、15年以上通い続けている。

真美さん教えて!台湾子連れ旅

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メールにて、真美さんに伺いたい疑問質問を、ぜひお送りください。内田真美さんのインタビュー掲載終了後、まとめてくらすことウェブマガジンにて、ご紹介させていただきます。
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<送り先>
メールの件名を「真美さん教えて!台湾子連れ旅」とし、office@kurasukoto.comまで質問とお名前(ペンネームも可)、お子さんの年齢と性別をお書き添えの上、お送りください。お送り頂いた質問のすべてにお答えできかねますが、なるべく対応できるようしたいと思っておりますので、あらかじめご了承くださいませ。

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