今のわたしができるまで第五回
陶芸家 十場あすかさん 〈前編〉

合わないものを削ぎ落として
ようやくたどり着いた陶芸の道

充実した仕事をしているあの人も、輝く雰囲気をまとっているあの人も、ゼロから突然、いまいる場所に立っているわけではありません。誰もがみんな、ときに迷いながら歩き続けて今のところにいる。

この連載では、私たち“くらすこと”がすてきだと思う方々に、これまでの道、今、そしてこれからのことについて、お話を伺っていきます。

写真・文:七緒

2023年11月3日〜12日、十場あすかさんの個展をくらすことの店舗内にあるギャラリー グレープフルーツジュースで開催します。
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第五回にご登場いただくのは、陶芸家の十場あすかさん。彼女の手から生まれる器はおおらかさの中に夢を散りばめたような美しさがあり、くらすことでも人気の作家です。

実はあすかさんは特定の師を持たず独立。4人の子を育てる母でもあり、10年間育児に専念した後、2017年に本格的に作陶をはじめました。

一般的な陶芸家が歩む道とは異なる道のりにぐっと興味が湧き、人生のこと、ものづくりのこと、ゆっくりお話を聞かせてもらうことにしました。

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とにかく早く自立したかった
10代の頃

今年2月、神戸の淡河町へ。雪がまだらに残る六甲山を越え、山あいの町を奥へ奥へ。目の前に広がる田畑、家の前に無造作に置かれたまあるい円球。ここが、十場あすかさんと陶芸家の夫・十場天伸さんが暮らす自宅兼工房。

「私、本当は普通の仕事をしたかったんです。医療事務とか、そういうちゃんとしたお勤めに憧れて、最初は福祉の仕事を志しました。両親が公務員だったのもあって、仕事ってそういうもんやと思ってたから」

陶芸家の夫・十場天伸さんと和やかに

けたけた笑いながら、人懐っこい表情で語るあすかさん。今の作家としての活躍からは想像もつかない現実的な話がのっけから飛び出し、引き込まれます。

「手っ取り早く自立できそうやから福祉を選んだと思う。広島の実家にいた頃はわりと親の制約下にいる感覚があって、早くそこから出たくて。でもね、進んでいく途中で『あ、やばい、こっちじゃない』って気づいたの(笑)」

たとえば実習の時、利用者のおばあちゃんとは仲良くなれそうなのに、スタッフとは噛み合わないと感じたこと。アルバイトの面接でスマートな受け答えができず落ちまくっていたこと。なんか違う、なんか違う。

バツ、バツ、バツ。
最後に二重丸をつけた陶芸

「で、20歳くらいのときかな、バイト先の友人に編み物を教えてもらって『黙々とものをつくることやったら夢中でできるわ!』って気づいたんです。やりたくないことにバツをつけていったら、ものづくりにたどり着いた」

腹を決めたらすぐ行動。京都伝統工芸専門学校(現:京都伝統工芸大学校)へ入学。伝統工芸を選んだのも、なんとも地に足がついた理由です。

「ウェブサイトに就職率96%って書いてあったんです。ここに行けば、とりあえず就職して、自立できそうって(笑)」

木工、竹工芸などさまざまな専攻から陶芸を選んだのは、手で生み出すおおらかな世界に惹かれたから。見事、みっちりはまったあすかさんは、2年間、朝から晩まで打ち込みました。

「色んなことにバツしてきたけど、陶芸は違ったの。『丸!二重丸!』みたいな(笑)ああ、これで自立できるって思いました」

これは合わない、これも合わない、とバツをつけ続けた後、陶芸家としてのスタートラインに立ったあすかさん。

陶芸家として生計を立てるには、窯元に就職するか、弟子入りして独立が一般的。でもあすかさんは卒業後そのまま独立。加えて24歳で第一子を出産、その後10年間は育児で休業。王道からはかけ離れた、自分だけの道を歩んでいきます。

「でもね、当然、最初はどこかで働くことを考えていたんですよ」

薪窯の脇にはおもむろにふたりの作品が

当時からお付き合いしていた夫・天伸さんと共に、陶芸家の元を何軒か訪ねてみたあすかさん。でも、どこへ行っても弟子入りを断られてしまいます。

「多分、あんたらは使えないって思われたんでしょうね(笑)あと『自分らでやりなさい』とも言われました。1軒目、2軒目と断られて、3軒目でも同じことを言われた頃には『2人でやるしかないか』って。一通り技術は身についてるし、1人じゃ難しくても2人だったら何とかできるかもって」

そうして2007年、あすかさん24歳、天伸さん25歳の時に、ここ淡河町で独立。ようやく陶芸人生がはじまると思ったら…

「実は淡河に来た時点で妊娠してたんです」

あすかさんが作陶にはげむ母屋

妊娠・出産の10年。
ゆらぎながらも潔く休業

そこから10年は妊娠・出産の繰り返し。一人目の長男の時は、陶芸をする余裕もあったそうですが、軌道に乗っていない中、何からはじめたらいいのか。子どもがかわいい時期に一緒にいたい気持ちも強く、仕事と育児のはざまでゆらぐ日も。

「だけど、悩む間もなくどんどん生まれるんですよ。気づいたら1歳過ぎたあたりで次の子ができちゃうから、休む暇がない(笑)5年間は、生んで、生んでの繰り返しでした」

その間、ものづくりからまるっきり離れていたわけではありません。むしろ日常はものづくりの宝庫。帽子を編んだり、味噌づくりをしたり。暮らしを前向きに楽しんでいました。でも、だんだんと心の風向きが変わってきます。

「2012年に三男を出産してすぐ『あ、もう働かなきゃ!』っていきなり本能のスイッチが入ったんです。出産直前に、天伸と大喧嘩したのを覚えています。自立しなきゃ!って体の底から突き動かされたんだろうね」

三男出産後、陶芸を再開。まずは天伸さんの雑用から始めましたが、なかなかうまくできません。

「手伝っても、二度手間みたいになってしまって。そうこうしてたら4人目の長女ができて、次男が『保育園行きたくない。1人でザリガニで遊んでたい』とか言うから園をやめて。陶芸はまた一旦お休み」

子育てに追われ、キャリアが思うように進まない。焦りが募りそうな状況ですが、結果、あすかさんは潔く10年お休みしました。

「やっぱり4人を育てながらで、卒業からのブランクもあって、陶芸に打ち込める環境ではなかったですね。一番下の長女が1歳半になった時、近くに小規模の保育園ができたんです。そこに三男と長女を入れて、ようやく自分の時間ができました」

後半につづきます。

お話を聞くひと

十場あすかさん
陶芸家
1983年広島県生まれ。2007年に京都伝統工芸専門学校を卒業後、夫・十場天神さんとともに神戸・淡河町にて独立。育児で10年休業のち2017年に復帰。白を基調としたおおらかな作風が人気。
@asukajuba

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