今のわたしができるまで第五回
陶芸家 十場あすかさん 〈後編〉
目の前に向き合い続けたから
できない自分も愛せるようになった
充実した仕事をしているあの人も、輝く雰囲気をまとっているあの人も、ゼロから突然、いまいる場所に立っているわけではありません。誰もがみんな、ときに迷いながら歩き続けて今のところにいる。
私たち“くらすこと”がすてきだと思う方々に、これまでの道、今、そしてこれからのことについて、お話を伺う「今のわたしができるまで」。
第五回は、陶芸家の十場あすかさんにお話を伺いました。
写真・文:七緒
2023年11月3日〜12日、十場あすかさんの個展をくらすことの店舗内にあるギャラリー グレープフルーツジュースで開催します。
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独立後、すぐに妊娠がわかった十場あすかさん。10年間は子どもとの暮らしを一番に楽しみつつも、葛藤を抱える日もあったと打ち明けてくれました。
そうして2017年に陶芸家としての活動を再開。田んぼで採れる稲わらの灰からできた藁白釉(わらばいゆう)を生かした白の作風。おおらかで、あたたかくて、暮らしにすっと馴染む数々。
今、ものづくりで大切にしていることは何でしょう?
“雑い”のにしっくり馴染む。
十場あすかの器論
「なんでもないけど、存在感のあるものを目指しています。もともと白い器を作りたいと思ってたわけじゃないんです。子育て中に『やっぱりシンプルがいいな、白が落ち着く』と思い至って。なんやろうな…天伸が買ってきた李朝の器かな。“雑い”のに馴染む。こういうのを作りたいって思ったんかな」
李朝の器とは14世紀から19世紀頃まで続いた李氏朝鮮で作られた白い器のこと。素朴でどっしり、それでいてやわらかな佇まい。
「この器、なんでもないじゃないですか。重さもあるのに、毎日手に取っちゃうんです。心赴くまま作ったら自然とこうなった感がいい。あと、主張の強い天伸の器が家にたくさんあるでしょ?なおさら『なんでもないって素晴らしい』みたいな気持ちもある(笑)」
白といっても、真っ白じゃない。ゆらぎのある色あいとざらりとした質感があすかさんらしさ。土を混ぜあわせることで雑味を入れて、薪窯で焼くことを大事にしています。
「ツルンとしたくないんです。その方が長いこと一緒にいられる気がして」
たとえば電気窯は、同じ色・トーンのものを何枚も生産することに長けています。安定して制作できるため、お店やギャラリーから求められることも。
一方、薪窯は炎で焼いていきます。火をくぐることで、想像もしえなかった色の変化やグラデーション、ゆらぎが生まれるのが特徴。
「全く同じものを100枚作っても私は面白くないと思っちゃう。人間だって同じ人はいないし、そういう所がいいなって思うから」
積み重ねたものがあるから、
きっと大丈夫
育児10年、再開6年。これまでを振り返って「ぎゅうぎゅうでした。もう、めっちゃダッシュしてた」と笑うあすかさん。
「去年、福岡の『TERCEIRO』で展示した時、オーナーさんに『こんなわーっとした忙しない仕事のやり方、どうなんかなあって思う』って相談したら『今はわーっとする時期なんじゃない?』って言われて。そっか、わーっとしないと見えないものあるもんねって、腑に落ちました」
前編で話していたように、自立が人生のテーマだったあすかさん。その気持ちは変わらずあるのでしょうか。
「今はね、自立したいとも思ってない。あの気持ち、どこ行ったんやろう?(笑)」
「去年くらいに、もう陶芸でやっていけるって思えたんです。それが大きいかな。再開してそりゃ1〜2年はできないんですよ。技術は身についているけど、ブランクがあるから乗りきれなくて。毎日毎日積み重ねて、理想に近くなってきてる。完全一致しているかっていうと、まだちょっとあれやけど…でも、だいぶ近づいている」
できない自分も「まあ、えっか」
今後、どんなことに挑戦していきたいですか?と伺うと…
「目標が全然ないんです。天伸は最初、学校で自己紹介した時も『世界で活躍したいです』って言い切って、みんな『おおー!』ってどよめいて(笑)私はとにかく目の前のことを一生懸命やる、以上。みたいな感じかなあ。それがどんどん次へつながっていることが見えるようになってきた」
自身に合わないものを削ぎ落として、たどり着いたものづくりの道。10年の休業を経て、見つけた自身の世界観。
「今でも、昔のちゃんとしなきゃ精神の延長で、きっちり作りたい気持ちはあるんですよ。でもやっぱりできないんです。できないことを、昔は『なんでだろう、うーん』って思ってたけど」
今は、そのできない自分も…
「まあ、えっかって感じ(笑)まあ、えっかって」
お話を聞くひと
十場あすかさん
陶芸家
1983年広島県生まれ。2007年に京都伝統工芸専門学校を卒業後、夫・十場天神さんとともに神戸・淡河町にて独立。育児で10年休業のち2017年に復帰。白を基調としたおおらかな作風が人気。
@asukajuba