今のわたしができるまで 第六回
パームリーダー くろさわじゅんこさん〈後編〉
手のひらに刻まれた
“イイ線”を大切にして生きていく
充実した仕事をしているあの人も、輝く雰囲気をまとっているあの人も、ゼロから突然、今いる場所に立っているわけではありません。誰もがみんな、時に迷いながら歩き続けて今のところにいる。
この連載では、私たち“くらすこと”がすてきだと思う方々に、これまでの道、今、そしてこれからのことについて、お話を伺っていきます。
構成・文:神武春菜
写真:穴見春樹
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占い師になると決めたくろさわさん。ホロスコープ、タロットカード、四柱推命など、さまざまな種類の占いの中から選んだのがパームリーディングだった。「パーム(palm)」とは、「手のひら」のこと。パームリーディングとは、手相占いのことです。
「子どもの頃から勉強が嫌いで、教科書を開いてもまったく頭に入ってこなかった私が、手相の本だけは、内容がスルスルと頭に入ってきたんです。
ただね、自分がそんなふうに当たり前にできてきたことって、『みんなもできる』とか『こんなのたいしたことないよ』って思っちゃいません? 私も、ずっと『手相は誰でも読めるんだろうな』って思っていました。
でも、自分は当たり前のように淡々と続けられることほど、その人の才能だったりする。それを磨いていくだけで、人生は豊かになっていくんじゃないかなって。私にとっては、それがパームリーディングだったんです」
勤めていた会社を辞め、フリーターをしながらパームリーディングの活動をスタート。名刺を作り、ブログで参加者を募集して、喫茶店やイベントでパームリーディングを行う。ようやく、自分の道を歩み始めた気がした。
相手のために読もうとすると
自分の言葉が出てこない
最初の4、5年は試行錯誤の日々だった。
「会社員時代の癖もあって、“ちゃんとしなきゃ”っていうきちんとしたい自分がたまにむくむくと出てくるわけですよ。
自分にはこう読めるけど、相手に分かりやすく伝えるには別の言い方が分かりやすいかもしれない。相手のために読もうとすればするほど、自分の言葉が出てこない。空回りして、全てうまくいかなくなっちゃった」
「好きなことを仕事にしたのだから、会社員時代よりも収入を上げたい」。独立後はそんな気持ちもあって、くろさわさんは、やっぱり、むちゃくちゃ頑張った。
結果、燃え尽き症候群のようになり、線を読むことと距離を置いた時期もあったという。
「もう、自分の楽しみのためにしかやらない!」
そう振り切るまで4年かかった。
自分が感じたままに、自分の言葉で伝え始めると、「こういうの、体験したことない」「私も読んでほしい!」と、たちまちお客さんが増えていった。2016年頃からは、依頼があれば全国各地どこへでも向かう、現在の鑑定スタイルに。「旅をしながら手のひらを読むひと」。そんなふうに紹介されることも増えた。
「みんなが右って言っても、『私は左!』って言って、左手をぐりぐり回しながらその道を突き進んでいく。そんな境地にやっとなれました」
その頃、10ページに渡るインタビューが掲載された小冊子「uresica」。「パームリーディングのこと、自分のことをもっと知ってほしいと思い、1000部くらい買い取ってよく配っていました」
人生は、「線」では決まりません
号泣しながら話す人。「悩んでいるわけではないけれど」と、興味本意でやってきた人。夫婦や家族で参加してくれた人たち。これまで、1000人以上の人の手のひらを読んできた。
「線を読むだけではなくて、いろんな方の背景や、今置かれている状況をお聞きしていて思うのが、いい手相をしているから成功するとか、お金持ちになるとかではないということです。
自分のイイところをちゃんと知っていて、自分を大切にしている人は、どんな手をしていても面白いことが出来る。
時間の使い方やイイ線の生かし方など、お客さんとの対話の中で学ばせていただくことがたくさんあります。その学びが次の人へと繋がれていく。私の読み方も、どんどん変化していると思います」
手のひらに刻まれたさまざまな線は、人生を決めるものではない。その人が歩んできた道のようであり、これからの人生の羅針盤のような存在――。
くろさわさんのパームリーディングを体験後、自分の手のひらをふと見てみると、ただのシワだと思っていた線が特別なものに見えてきた。いろんな可能性をにぎりしめていると思うと、なんだかワクワクしてくる!
景色も、自然のパワーも
アイスランドは桁違い!
旅をしながら鑑定先をめぐる日々を送っているが、仕事を休んで旅に出ることも。いろんな場所を訪れてきた中で、特別な場所があるという。北大西洋に浮かぶ小さな島、アイスランドだ。
海外だったらハワイ島、アリゾナ州のセドナやカルフォルニア州のシャスタ、日本だと熊野や伊勢、出雲など、ありとあらゆるパワースポットを訪れてきたというくろさわさん。アイスランドは、景色の雄大さも、自然から感じるエネルギーも桁違いだったそうだ。
「もし、人生であと1回しか海外に行けないと言われたら、迷いなくアイスランド! ものすごいパワーをもらえるの。まぁ行って何をするかっていったら、自然以外とくに何もない国なので、ドライブするだけなんですが(笑)」
じつは会社員時代も、年に一度は必ず海外旅行に出かけていた。でも、その頃の旅は、嫌いな自分から逃げるため。自分のことを誰一人知らない場所に行き、自分を解放することで心のバランスを保つための旅だったと振り返る。
今は、旅をしている時も、仕事をしている時も、ありのままの自分。
「私の手相は、〈好きなことしかできない〉〈趣味を実益にする〉なんです。好きなことを仕事にして、好きな場所に行く。自分に合う場所を見つけて、やっと空気を吸えるようになったというか、本当に生きやすくなりました」
くろさわさんの鑑定スタイルの定番はワンピース。「いつでも鑑定できるように、ワンピース姿が多いですね。普段着ってほとんど持っていないかも」。この日着ていたワンピースは、くらすことで購入したという「ヂェン先生の日常着」シリーズのもの。
好きなことを続けるために、
今の自分に合う方法を更新していく
くろさわさんは、鑑定で訪れた徳島県の土地の空気に惹かれ、6年前に埼玉県から徳島県鳴門市へ移住。そして今年3月、徳島県の西部に位置する三好市東祖谷(ひがしいや)へと引っ越した。
東祖谷は、剣山(つるぎさん)のふもとに広がる人口1600人余りの町。日本三代秘境の一つとされる祖谷地域の東に位置し、豊かな自然や山村の原風景が残る場所だ。
「会社員時代は、未来の自分の姿って全く想像できなかったんです。でも、この仕事を始めたら未来の自分がはっきり見えた。80歳くらいのおばあちゃんになった私が、山の中にある古い家を見つけて暮らしながら、パームリーディングをしている……。その場所がね、東祖谷な気がするんですよ」
「『ひがしいや』という響きにも惹かれました。」
今後は、旅に出る回数をへらし、zoom鑑定などを活用しながら、東祖谷の自宅でパームリーディングを行うスタイルに変えていく予定だ。
「昨年50歳を迎えて、100歳まで生きようと思っているので(笑)、やっと折り返し。好きな仕事を続けるために、心身ともにより無理をしない方法に、毎年、暮らし方を更新しています」
最後に改めて、“今のわたし”と、“これから”について伺った。
「今日こうしていろんなことを振り返ってみると、会社員時代の18年間に、私の生き方の答えがあるんだなと。あの頃の自分の生き方は、世の中の常識の中では正解だったかもしれない。でも、自分の中の正解はこっちだった。そして、こっちに方向転換した時って、自信があったわけでもなんでもないの。自分が無理してつい頑張ってしまうことは、もう選ばないことにしただけ。
今って情報も多いから、いろんなものやスキルを揃えていないと考えがちだと思うんです。でも、情報や選択肢が多くて苦しくなったら、そこから離れていく選択ってありだと思う。私がまさにそう。
本当に大切なものだけに、時間もパワーも使えるようになるから心身ともに元気でいられますしね。100歳になってもこの仕事を続けていたいと思っています」
自分の手のひらに刻まれた、大切な“イイ線”。
くろさわさんも、その線を大切にしながら進んでいく。
くろさわさんの愛用品
爪切りとシアバター
お客さんから手元がよく見える仕事柄、爪のケアと手の保湿は欠かせない。シアバターは「biga」。爪切りの持ち手部分のデザインはどこか羅針盤を想像させる。
カトラリーセット
旅鑑定に出かける時は、スーツケースに必ず入れているそう。「旅先で気になる飲食店があれば入りますが、ない時は旅先で買った野菜などを宿泊先で切って食べられるようにしています」
お話を聞くひと
くろさわじゅんこさん
パームリーダー
1973年埼玉県生まれ。2012年からパームリーダーとしての活動をスタート。全国各地でも鑑定会を開催し、旅をしながら手のひらを読んでいる。現在は徳島県三好市東祖谷在住。鑑定会の予定は、くろさわさんのSNSでチェックできる。
@junko_kurosawa