Restaurant Sardinas
レモングラスオイルができるまで<後編>
——その⾏程をたずねて

サルディナスのレモングラスオイルは、お客さんの声に応えるようにして生まれ、耶馬溪という土地にじっくり根を張りながら、つくられてきました。

オイルづくりを見えないところで支えてきた、いくつもの思いや出来事。その試行と変化のつみかさねは、サルディナスというお店の「かたち」にもあらわれているようです。

香内さん一家が、それまで住んでいた那須から、今いる大分へ移住するきっかけとなったのは10年前の3月11日。震災と原発事故を目の当たりにし、店も家もそのまま、次の日には那須を離れたのだといいます。

そのときからはじまった新しい土地での生活。
過ごしていく日々の中で香内さんが見つけたものはなんだったのでしょうか。その10年をふりかえります。

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レストラン・サルディナスの店内。
香内さん自らの手で改修をかさねて、今の姿に。

ワクワクするようなことをやっていこう

―サルディナスのこれまでを振り返ったとき、10年前の震災が大きな変化だったとおっしゃっていましたが、生活はどんなふうに変わっていったのでしょうか。

震災があって、今まで当たり前に思っていた生活を見直したんです。手にする魚にも、肉にも、さまざまな行程があること。そこを省いて生活してきた自分がいました。

基本的には「原発事故はどういう事故だったのか」というのが自分にとってはすごく大きかったんです。東電やその周辺の原発村と言われる人たちの責任も大いにあると思いますが、 私自身の不自由ない生活に対する恩恵の思いの低さも、災害を引き起こした原因のひとつと思うようになりました。

そうなると、生活をコンパクトに、「なるべく電気を使わない」「なるべく稼がない」「なるべく農作物を自分で育てる」。震災直後、那須から耶馬溪に来たばかりの時は、そういう方向に行ったんですよ。

——そうだったんですか。

でも、それを1年、2年とやっていたら、「これやってみたいな」と思いついたとしても「いや、でも稼いだらまた前のような生活に戻る」から、やらない。そんな風に、自分の可能性を自分でストップするようになっていって、ゆくゆくそれはハッピーなことではないな、と思えてきたんですね。

耶馬溪に移住後、キャンプ場の一角で
「亜細亜食堂cago」という屋号で営業していた頃のワインイベント。
(写真:eri tokura)

耶馬溪に来て5、6年経ったぐらいから、何かしっくり来ていないことに気づいて。最初は楽しくてやってたんですけれどね。それで、考え直そうと思いました。

だからって、なんでもかんでも自分で好きなようにする、ということじゃなくて、「ここは、ちゃんとこうしよう」と。でも「自分がワクワクするようなことは、もう少し抑えずにやっていこう」っていう気持ちに段々変わってきました。やっぱりその方が楽しいんですよ、すごく。

お客さんあっての喜び、家族あっての喜び

その後、香内さんは「自分は何が好きなのか、何に多くの喜びを感じるのか」を考えて行動するようになったそうです。 それは、同時に家族や社会にとって自分の役割は何かを考えることでもあった、と言います。「なるべく◯◯しない」「なるべく稼がない」「こうでなければいけない」という方向に向かっていた気持ちは、少しずつ変わっていきます。

そんな中、香内さんご夫妻は、家族全員でヨーロッパ旅行へ行くことを決めます。「家族の中で、お金があるからこそできることがある」と思い始めた香内さんは、旅行を目標にお金を貯め、1ヶ月間、3人のお子さんを連れて、スペインやポルトガルを回りました。

「自分たちの考え方を変えていったからこそ、いろいろ変化して、楽しさに繋がったんです」。

自身にとって、家族にとっての楽しさをもたらしてくれた、旅。それからは、お店でも香内さん自身が大好きなワインのイベントをおこなってみたり、と自身が喜びを感じることをひとつひとつたしかめていきました。

スペイン・ポルトガル滞在時の一枚。

——香内さんの思いは、その中でどんな風に変わってきたんでしょうか。

お店のあり方も、今は、お客さんの側の喜びを常に考えるようになりました。 「いかにここでお客さんがハッピーな気持ちになってくれるか」とか、こどもが来た時に 「大きくなっても思い出に残るようなお店をやりたいな」とか。働いてるスタッフにも、ここで仕事をすることに誇りを持ったり、嬉しいなって思ってもらえるようになりたいですね。そこが変わってきたところかな、と思います。

——それは、香内さん自身も楽しむっていうことですよね。

もちろんもちろん。究極を言えば、それがいちばんかもしれないんですけれど。そう思えるようになったんですよね。

——ご自身の喜びと、家族やスタッフの喜びというのは、香内さんの中ではどんなふうに交わっているんでしょう。

お店って、お客さんに楽しんでもらえて初めて、満たされるんです。そのお客さんに「このお料理美味しかったです」「このワインおいしかったです」って言ってもらえて、「嬉しいな」「やっててよかったな」って思う。そこまでいって初めて、自分がやってることに対して楽しさが得られるんです。

やっぱりそれは、お客さんあっての喜びだし、家族あっての喜びだし、スタッフいての喜びだし。どんなに格好いいお店をつくっても、どんなに美味しいお料理をつくっても、それだけじゃ、心からの自分の喜びっていうのは得られないんですね。

レストランのテラスから望む耶馬溪の山々。

もっとこの環境で楽しめることがあるんじゃないか

自身の喜びに気づいた香内さんからは、楽しさに向けて、これからに向けて、次々とアイデアが溢れてきているようです。最後に、レストラン・サルディナスの「これから」についてお聞きしました。

——お店でこれからやってみたいな、と思っていることはありますか?

たとえば、妻(リツコさん)が料理教室をしてるんですけれども、今までのスタイルを一旦やめるんですね。なんでやめるかというと、また違ったスタイルで、もっと楽しいやり方がないかな、と。今のスタイルが、それはそれで準備が大変な部分が出てきて、そこのバランスが悪くなってきたんです。ありがたいことに、来てくださった人は満足して帰ってくださるし、また次も、って言ってくださるんですけれども。

普通だったら、そこでは安定した収入も得られるし、お客さんにも喜んでもらえてるから、今のスタイルで行こう、となると思うんですよね。どこか抑えながら。 でも、さっきの(震災の時の)話のように、それが段々溜まっていくと、抜け出せなくなってしまうと思うんです。そういう前触れを感じて、「なんとなく大変だな」と思うようになってきたから「一旦、形を変えてみようか」、そういうふうになってます。

リツコさんが主催する料理教室 BUENA VISTA。
スペイン語で「良い眺め」の意。

レストランのこの日のメインは「サルティン・ボッカ」。
イタリア・ローマのお料理で、和牛の上に生ハム、
セージを敷いてさっと焼いたもの。

——どんなふうに変わるんですか?

みんなでワインを飲みながら料理教室、とか(笑)。料理はしっかりレッスンするんだけど、お客さんは立ち飲みしながら、自分たちも一緒に飲む。パーティーのような教室も面白いんじゃないか。 あとは、今、四品作ってるんですけれど、きっちり四品じゃなくて、「これ教えたいな」と思ったら、一品でも料理教室をするとか。もっとこう、軽やかにやろうか、と言ってます。

うちはレストランなので、基本的にあまり拡張性がないんです。だから、より一層、アイディアを出していきたい、というのがあるんですよね。もっともっと、この環境で楽しめることがあるんじゃないのかなぁっていう…それを追求していく。ほんとに、楽しんでいってもらいたいんですよね。

● ▲ ■

「楽しむこと、楽しんでもらうこと」から、広がっていったサルディナスの今。 日々が新しくあるために、香内さんはこう言います。

「原発事故から5、6年思っていた気持ちというのは、今もやっぱり大切なんですね。それがあるからこそ、新しいことをやるにしても、ひとつひとつ今あるものに対して見直していこう、っていう気持ちが常に持てるので。」

サルディナスの営みは、これからも軽やかに続いていきそうです。ワクワクする気持ちを、 傍らに抱えながら。

妻・リツコさんとともに。

構成・文:野上麻衣

Restaurant Sardinas

住所:大分県中津市耶馬渓町大島1476
Tel:0979-56-2828
金.土16:00〜22:30「ワインと共に愉しむディナー」
日.月11:00〜17:00 (L.O.15:00)「エスニックランチ」

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