アーユルヴェーダが教えてくれる新しい親子関係

アーユルヴェーダが教えてくれる新しい親子関係(1) 〜わたしを知る

教えてくれる人 池田早紀
構成・文 松本あかね
イラスト SAITOE

その①
わたしを知る

はじめに

小さな子どもを守り、食べさせ、身の回りの世話をすることは、親として最も大切なこと。
歩き始め、おしゃべりを始め、公園で遊び始めるようになれば、
今度は人として育つために必要なことが備わるように、教え諭しあれこれ心砕く。
それも親心の一つのあらわれだと思います。

でも時にその「親」という役割にとらわれてしまうと、お互いの間に育まれるはずの、
「親子」という枠を超えたより豊かな人間関係を見逃してしまうこともあるかもしれない、といったら驚かれるでしょうか。

お子さんとすごす毎日の中で、「親として振舞う自分」を窮屈に感じる、なんだか自分らしくない、と感じている方がいたら、
日頃のお子さんとの関係を思い起こしてみてください。

指示ばかりしてしまう、できないことばかりが気になる、子供も自分も生き生きしていないと感じる。
「私、母親には向いていないかも」と感じることがある。

もし心当たりがあるとしたら、親としての自分のあり方、子どもである娘さんや息子さんのあり方を、
無意識に枠にはめているところがあるのかもしれません。

親子関係も人間同士の関係のひとつ。たとえば一口に友人と言っても、相手によってその関係が異なるように、
あなたのお子さんとの関係は、ほかの誰の親子関係とも同じでないはず。
それぞれの親子関係は、親が子どもの成長を見守る中で、日々発見し、築き上げていくものではないでしょうか。

この連載ではアーユルヴェーダの智慧を借りて、体質論(ドーシャ理論といいます)から親子関係を見つめ直してみましょう。
自分とお子さんのドーシャを知ることで、持って生まれた自分の性質、お子さんの性質について、
今までより広く深く気づくことができるようになるでしょう。
そのことで、きっとお子さんとの日々のやりとりが変わり始め、
やがて徐々に、しっかりと、親子でありながら、人と人として認め合う、豊かな関係が育まれていくことを願っています。

現在のわたしを知る

第一回のテーマは「現在のわたしを知る」。
お母さんになった私が得意なこと、お母さんになっても苦手なこと。ほかの人には簡単でも、私には難しいこと、逆に私にとってはなんでもなくても、人によってはハードルが高いと感じられること。かつては子どもであり、現在はお母さんとして生きる「わたし」を、アーユルヴェーダの視点で見つめ直してみましょう。

アーユルヴェーダってなに?
アーユルヴェーダはインドの伝統的な医学で、サンスクリット語で「生命の智慧」という言葉を意味します。中国の中医学もアーユルヴェーダを礎とするといわれる、3000年以上の歴史を持つ、世界最古の医学体系です。

人は自然そのもの
アーユルヴェーダという医学では病気の症状だけを診療の対象とするのではなく、人間の身体、心、魂、つまりは人間のすべてを診療の対象として扱います。また、同じ症状でも人によって異なる理由があり、また異なる処方が存在すると考える「個性をみていく医学」でもあります。そのとき診断の拠り所となるのが、自然界の3つのエネルギー(風、火、水)です。アーユルヴェーダでは、万物はこの3要素から成るとされ、人間の身体、食べ物、時間(季節)など、自然界のすべてにこれらの要素を見出してゆきます。この「要素」のことをサンスクリット語で「ドーシャ」といい、ヴァータ(風)、ピッタ(火)、カファ(水)と呼んでいます。

体質=ドーシャの「偏りやすさ」
たとえばヴァータ体質というのは風のエネルギーを多く持つということ。誰の中にもこれら3つのドーシャが存在していますが、特定のドーシャだけが増えすぎると体調を崩したり、病気になったりするといわれます。そうしたドーシャの「偏りやすさ」の傾向をアーユルヴェーダでは「体質」と呼び、注目します。このドーシャのバランスをどうとっていくかが、アーユルヴェーダの療法の基本的な考え方となるのです。

ドーシャは揺らぎ、重なり合う
とはいえ、多くの場合、体質は、3つのドーシャのうちのどれかひとつがあてはまるということは少なく、2つのドーシャを併せ持つ人がほとんど。また、体質の中のドーシャは固定されたものではなく、季節や食生活などによっても増えたり減ったりします。たとえば産前産後でドーシャのバランスが大きく変化したという人も。あくまで今の自分自身を知るためのひとつの方法としてとらえていただければと思います。

ではそれぞれのドーシャの特徴について、見ていきましょう。

Vata ヴァータ (風)=じっとしていない、こだわらない
風の要素はヴァータといいます。日常の中であなたが感じる「風」のように、爽やかで軽やか。 常に動き回っているため時に慌ただしい、そんな特徴を持っています。

Pitta ピッタ(火)=エネルギッシュ
火の要素はピッタといいます。日常の中であなたが見ている「火」のように、暖かで明るいもの。 近づくと熱すぎてしまう場合もありますね。

Kapha カファ(水)=動かない、慎重
水の要素はカファといいます。 日常の中であなたが触れている「水」のように、ゆったりと安定感のあるもの。 溢れるほど豊かで、時に溺れそうになることも。

このように、アーユルヴェーダでは日常の中で接している風・火・水にまつわるイメージをてがかりに、
自分自身を客観的に捉えていく方法をとっています。
ドーシャ診断は本場インドでもアーユルヴェーダのお医者さまがさまざまな観点から慎重に判断するものではありますが、
以下のセルフチェックシートでおおまかなドーシャのバランスの傾向をつかむことができます。
おおよその見当をつけたら、次回からは、この3つの自然界の要素のイメージを自分の中に重ね合わせ、
自分のドーシャを知るレッスンを始めていきましょう。

ヴァータ(風)

体格 □ ほうっておくと痩せがち/過去に体重の増減が激しかった
皮膚 □ 乾燥肌/そばかすが出来やすい
□ 細い/痛みやすい
□ 一重まぶた/細い
□ 歯が長め/出っ歯/乱杭歯
額(※) □ 手指4本の横幅より狭い
食欲 □ ムラがある/不安定
排泄 □ 便秘がち
睡眠 □ 短く断続的/眠るのが苦手
体質 □ 寒がり/手足の先が冷える/身体が固い
動作 □ すばやく活動的/流動的/ひらめいてすぐに実行するタイプ
部屋 □ ちらかりがち/引っ越しが好き/よく模様替えをする
人によく言われる長所 □ アイディア豊富/芸術的センスがある
よくでる身体のトラブル □ 疲労/すぐ風邪をひく/痛みに弱い
すきなこと □ 歌/踊る事/笑う事/運動
きらいなこと □ じっとしていること/同じ事を続けること
ストレスがたまると □ とにかく誰かとおしゃべりしたい

※額は眉毛の上から髪の毛の生え際までをさします

ピッタ(火)

体格 □ 中肉中背
皮膚 □ ニキビが出来やすい/ホクロが多い
□ 柔らかい/若いころから白髪が多い
□ 目つきが鋭い/充血・結膜炎になりやすい
□ 歯が黄色い/歯ぐきから出血しやすい/歯並びが動きやすい
額(※) □ 手指4本の横幅と同じくらい
食欲 □ 旺盛/空腹に耐えられない
排泄 □ 下痢傾向/1日に2度以上行く
睡眠 □ 短いが熟睡/頭が冴えて寝付けないこともある
体質 □ 暑さに弱い/汗をよくかく/体臭が気になる
動作 □ 計画的/時間に正確/必要なことだけサッと行動して無駄がない
部屋 □ きちんと片付いている/使った物が元のところに戻ってないと嫌
人によく言われる長所 □ 論理的/リーダーシップがある/声が通る
よくでる身体のトラブル □ 口内炎/胸焼け/痔
すきなこと □ おしゃれ/香水、アクセサリー、服などを買うこと
きらいなこと □ 時間やお金の無駄/悪臭
ストレスがたまると □ 物に当たったり、スポーツで発散したい

※額は眉毛の上から髪の毛の生え際までをさします

カファ(水)

体格 □ 元々ふっくら/骨が太い
皮膚 □ 色白でキメが細かい/しっとりしている
□ 太くて丈夫/量が多い
□ まつ毛が長く大きい/黒目がち
□ 白い/一本いっぽんの歯が大きくて丈夫
額(※) □ 手指4本の横幅より広い/丸みがある
食欲 □ 安定/一食抜いても平気
排泄 □ 良好
睡眠 □ 深く長い/長時間寝ないと不調
体質 □ 湿度に弱い/夏でもおしりやお腹がつめたい
動作 □ 人よりはゆっくり/マイペース/動き出すまでに時間がかかる
部屋 □ 捨てないので物が多い/あまり気にしない
人によく言われる長所 □ 収集家/博識/集中力がある/忍耐づよい
よくでる身体のトラブル □ むくむ/鼻がつまる/痰がからむ
すきなこと □ 家にいること/読書/講座に行くこと
きらいなこと □ 運動/新しいこと/面倒なこと
ストレスがたまると □ 一人で誰とも会わずに静かにしていたい

※額は眉毛の上から髪の毛の生え際までをさします

profile池田早紀(いけださき)
2002年、心理学を勉強中に南インドでアーユルヴェーダに出会い、その体にも心にも快適な治療法に衝撃を受ける。2006年よりアーユルヴェーダ・カウンセラーとして国内外のさまざまなクリニックや医療施設で研修・施術の経験を積み、トリートメント、カウンセリングを行う。イベント、セミナーなども多数開催。現在は一児の母。
sakin-ayurveda.jimdo.com