アーユルヴェーダが教えてくれる新しい親子関係

アーユルヴェーダが教えてくれる新しい親子関係(3) 〜子どもだったころの私を知る

教えてくれる人 池田早紀
構成・文 松本あかね
イラスト SAITOE

その③
子どもだったころの私を知る

三回目のテーマは、「子どもだったころの私を知る」。
あなたは自分がどんな子どもだったか覚えていますか。
子育て中のお母さんが、子どもの頃の自分に思いを馳せてみること。
それは、目の前の子どもを理解する良いきっかけになります。
子どもの目線から見た世界をもう一度みることで、目の前の子どもに寄り添う気持ち、
シンパシーを育むきっかけになるのです。

記憶の中の子どもだった私への理解を深めるためにも、ドーシャ理論は役立ちます。
人には皆、生まれ持ったドーシャ=プラクリティ()というものがあり、
子どものころのドーシャはプラクリティに最も近いといわれています。
「わたしを知る」最後の回では、プラクリティについて少し触れてみたいと思います。

その前に復習として、現在のドーシャを知るシーンをもう一場面見てみましょう。

こんなときの「わたし」〜お出かけ篇

「あなたの大好きな家族での休日の過ごし方は?」

a. 最近出来たばかりの話題の子連れスポットへ。その日の気分で遠出することも。また、仲良し家族とわいわい一緒にお出かけするのも大好き。

b. 休日は前々から予定を立ててお出かけ。おとなも子どもも楽しめて、ためにもなる場所がお気に入り。

c. 家族が揃うせっかくの休日は、おうちでゆっくり。みんなでDVDを見たり、一日お料理をしたり、それぞれ読書をしたり、のんびりすごすのが一番。

時に家族の間でも意見の分かれる休日の過ごし方。その理由はドーシャの傾向が分かれているせいかもしれません。

「新情報に敏感」ヴァータママ
aを選んだあなたはヴァータ(風)ママ。パッとひらめいたり、行動力が自慢で、風の要素の少ない人からみると驚くばかりの情報量と行動力です(自分にとってはふつうのことなのですが!)。1日に2つも3つも予定を入れてもこなせるのが特徴。ただしスタミナが無いので、朝は元気だけれど、誰よりも先に疲れてヘトヘトになってしまうことも。

「家族で美術館ツアー」ピッタママ
bを選んだあなたはピッタ(火)ママ。スケジュール帳には先々の予定まできっちり。貴重な休日を無駄にしないよう、前々から企画をして家族一緒に「最大限」楽しむことを重要視します。知的好奇心も美的感覚も優れているので、美術館やコンサートなど一流のものに子どもに触れさせることにも積極的です。ただし統率のとれない家族の行動にはフラストレーションが溜まることも。

「人混みは苦手」カファママ
cを選んだあなたはカファ(水)ママ。人混みや、気を遣う場所は苦手なので、普段どおり静かにのんびりすごすことが幸せの鍵。お昼頃までゆっくり寝ることも。自然も大好きだけれど、慌ただしく移動するのは嫌なので、遠出をするならまとまったお休みにと、心待ちにしています。

いかがでしょう。風、火、水のイメージを自分に重ね合わせてみることに、少し慣れてきたでしょうか。
それでは、今日のテーマ「子どもだったころのわたしを知る」ために、プラクリティについてみていきましょう。

子どもだったころのわたしを知る——プラクリティ・チェック

多くの人の場合、ドーシャバランスは日々変動しています。
食生活、ストレスなど環境条件によって、ヴァータ、ピッタ、カファの要素が増えたり減ったりしているのです。
体質(=ドーシャのバランス)が決定するのは受精時ですが、その生まれ持った体質を「プラクリティ」といい、
子どもの頃の体質は、プラクリティに最も近いといわれます。

ここでは時間を遡り、子どもだったころの感覚、見ていた世界を思い出してみましょう。
お母さんになる前の私、目の前の子どもと同じような、小さな子どもだった私のことを。

「轟々と風が吹く日は、こころがざわざわして仕方なかった記憶はありませんか?」

——そんなあなたはヴァータ(風)の要素をたくさん持っていたのかもしれません。

「おとなの言っていることが納得できなくて、ひとり怒りに震えた記憶はありませんか?」

——そんなあなたはピッタ(火)の要素をたくさん持っていたのかもしれません。

「夕方になるといつも物悲しいような、心細いような気持ちで訳もなく寂しくなった記憶はありませんか?」

——そんなあなたはカファ(水)の要素をたくさん持っていたのかもしれません。

ほかにも、
「静かな空間がとても怖かった」
「わけもなくむしゃくしゃして、それをわかってくれないことにまた腹が立って悔し涙を流した」
「ほんとうは遊びの仲間に入らず、ただずっと寝転んで雲をみていたかった」

それぞれが順にヴァータ(風)、ピッタ(火)、カファ(水)の特性です。
なんだか身に覚えがあるような、そんなシーンはあったでしょうか。
前回も述べたように、プラクリティにおいても、3つのうちどれかひとつだけがあてはまるという場合は少なく、
2つのドーシャが重なり合っている場合がほどんどです。
そして、成長過程の環境条件によってバランスが変化した結果、現在のドーシャと異なる傾向を持つことも多いのです。
ここでは、どちらが良い、悪いということでなく、
子ども時代の自分、ひいては現在の自分自身への理解を深めることに役立てていただけたらと思います。

おとなになっても、どこか自分の心の中に残っている感覚、記憶はどなたにでもあるはず。
子育てをしていると、現在の私の中に、子どもだったころのちいさな私がふとした瞬間に見え隠れするときがあるもの。
プラクリティを知ることは、自分自身への洞察を深める助け、ひいては子ども時代や子どもという存在を理解する手がかりになります。
そこにはきっとあなたとお子さんの関係に対する子育てのヒントが眠っているはずなのです。

子どものむき出しの感覚が触れていた世界を、お母さんになった今思い出してみる。
そうすることで、目の前で怒ったり泣いたり、笑っている子どもへの共感がひたひたとわいてくるかもしれません。
それは、あなたとお子さんにとってとても大切な瞬間。
新しい親子関係のきっかけは、実はそういうところから生まれてくるのかもしれないと思うのです。

〈もっと詳しく知りたい人のために 脚注〉
アーユルヴェーダにおいては生得的な体質をプラクリティ、後天的な影響を受けた現在の体質をヴィクリティと呼び、区別をしています。

profile池田早紀(いけださき)
2002年、心理学を勉強中に南インドでアーユルヴェーダに出会い、その体にも心にも快適な治療法に衝撃を受ける。2006年よりアーユルヴェーダ・カウンセラーとして国内外のさまざまなクリニックや医療施設で研修・施術の経験を積み、トリートメント、カウンセリングを行う。イベント、セミナーなども多数開催。現在は一児の母。