心で食べる。思いを紡ぐ。カオリーヌ菓子店のチーズケーキ 《前編》
チーズ文化を伝えたい。
たどり着いたのは、チーズケーキを作ること。

黒く焦げるまでこんがりと焼かれた表面に、そっとフォークを入れて口に含むと、カラメル化した「焦げ部分」の香ばしさと、クリームチーズの酸味が見事に組み合わさり、あとひと口、あとひと口……と、止まらない。食べるほど、チーズの旨みが口の中で重なっていく。

「チーズのおいしさを、しっかり感じることができるチーズケーキを作りたかったんです」

ブルーチーズが苦手な人ほど食べてもらいたいというブルーチーズのチーズケーキ。カマンベールチーズ好きにはたまらない(カマンベールが敷き詰められている!)カマンベールのチーズケーキなど、カオリーヌ菓子店のチーズケーキは、どれも、チーズの魅力を知り尽くしたかのうかおりさんが、研究に研究を重ねて生まれた逸品だ。

「でも、『おいしい』で終わるのはつまらないって思っていて……。そもそも、チーズケーキを作り始めたのも、チーズケーキを通してチーズ文化を伝えたいと思ったから。チーズに限らず、どんな食べものも、〈おいしさ〉の先を知ると、もっとおいしくなる。そのことを伝えたいんです」

「おいしさ」の先にある「おいしさ」とは——。

前編は、かのうさんがチーズの世界に魅せられ、カオリーヌ菓子店の代名詞ともいわれるバスクのチーズケーキが誕生するまでのお話です。

構成・文:神武春菜
写真:穴見春樹、カオリーヌ菓子店

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チーズの世界っておもしろい!

「子どもの頃から食いしん坊でした」と笑うかのうさんは、料理好きの母親の影響を受け、食の世界に興味を抱いて、大学で栄養学を専攻した。お菓子作りが好きで、卒業後はフランスに留学して学びたいと願った。が、その夢は叶わなかった。

「父がすごく厳しい人で、絶対に許してもらえませんでした。親が望む通りの、食とは全く関係のない会社に就職して、“まずは3年の我慢”と思って働きました」

ヨーロッパへの想いはあせることなく3年。改めて両親に自分の意思を伝えたが、最後まで想いは届かなかった。

「ならば仕事以外の時間を使って、自分の好きなことを思い切りやるしかない!」
かのうさんは、悶々と過ごしていた日々に終止符を打ち、会社に勤めながらフランス菓子の夜間専門学校に入学した。

カリキュラムの一環で、フランスツアーに参加した時のこと。かのうさんのチーズ人生の幕が上がる瞬間が訪れる。
フランス南東部の都市リヨン近郊にある、フランス料理の名店「ポール・ボキューズ」でコース料理を注文し、メインディッシュを堪能し終えると、ワゴンに載せられてテーブルに運ばれてきたのはデザートではなく、チーズだった。
その数なんと約50種類! 

「デザートの前にいろんなチーズを楽しむ時間があるなんて! しかも、いろんな色、形、大きさ、味があって、どれでも好きなだけ食べていいよって……! その食文化にものすごく惹かれて、チーズのことが気になってしょうがなくなりました。じつはそれまで、チーズは苦手だったんですよ」

年に一度はフランスを訪れ、さまざまな地方を巡りながら、その土地のお菓子を研究していたかのうさん。そこに「チーズ」という新たなテーマが加わり、どこの地方に、どんなチーズ文化があるのか、見て、聞いて、食べては、チーズの世界に魅せられていった。

チーズの町へ。単身渡仏

もっとチーズのことを学びたい。かのうさんは、29歳の時、勤めていた会社を辞め、ワーキングホリデー制度を利用して、チーズの町といわれるフランスのサヴォア地方へ向かった。結婚して2年目の年だった。かのうさんのチーズにかける情熱を知っていた夫は、日本から応援してくれた。

アルプスの麓にある、長期熟成チーズ作りが盛んな町・アヌシーで研修先の農家を見つけ、住み込みで働いた。牛や山羊に餌をやり、工房でチーズを作る。
毎日のように開かれるマルシェにも足を運び、つたないフランス語で「これはなんのチーズですか?」「こないだのチーズ美味しかったです!」などと話しかけて、チーズ文化を全身で吸収したという。

「フランスでは、チーズってすごく日常的なものなんだなぁって。価格も安いし、どの家庭の冷蔵庫にも、チーズが2、3種はゴロゴロと入っている。パリのチーズ屋さんで働いたこともあるのですが、クリスマスになると、みんな、直径50〜60センチもあるようなかごに、大小様々な種類のチーズをのせたチーズオードブルを注文していくんですよ!」

マルシェのチーズ屋さん。「渡仏当初は語学学校に通っていましたが、私は語学を学びに来たんじゃない!って思って、2ヶ月で辞めて、毎日マルシェにいましたね」

チーズが日常にある楽しさ。チーズが紡ぐ、その土地の食文化。
日本でもチーズ文化を伝えたい! 帰国後、かのうさんは自宅でチーズ講座をはじめた。

チーズケーキって、日本の文化?

チーズ講座はなかなか思うようにいかなかった。
「チーズとお酒があると、『おいしいね〜』って言って、結局、飲み会で終わってしまって……」

あるとき、参加者の一人が、「あそこのチーズケーキおいしいよね」とチーズケーキの話題を持ち出した。

「チーズケーキかぁって……。フランスにはチーズケーキというものがなかったし、当時、日本で作られていたチーズケーキって、粉の含有量が多くて、チーズの味が全くしなかった。チーズケーキとチーズは違うんだよなぁって、複雑な気持ちで聞いていました」

でも、みんながチーズケーキの話で盛り上がっているのをみて気がついた。

「そういえば、日本ではケーキ屋さんに必ずチーズケーキがあるし、カフェにも絶対ある。もしかして、チーズケーキって日本の文化なのかも!? チーズケーキを通じて、チーズのおいしさや文化を伝えることができるかもしれない!」

早速、「チーズ講座」を「チーズケーキ講座」に変更。毎回、全国各地からいろいろなチーズケーキを取り寄せて、どんなチーズが使われているか。どんなふうに味が違うか。チーズケーキを食べながら、チーズのことをみんなで語り合った。

ブルーチーズが苦手な人にブルーチーズのおいしさを伝えたいと、ブルーチーズを使ったチーズケーキの試作にもとりかかった。100人以上に試食してもらって完成させ、販売もスタート。それがカオリーヌ菓子店のはじまりである。

チーズ講座を始めた頃。

運命のチーズケーキ

長男が3歳になった頃、かのうさんはまだ訪れていなかったバスク地方へ向かった。

「時間の許す限りいろんなお店を巡っていたら、〈チーズケーキあります〉と看板が出ているレストランを見つけました。フランスにはチーズケーキがないので、気になって入ると、直径30センチもあるチーズケーキが10台以上もカウンターに並んでいてびっくり。しかも、表面が真っ黒!」

ひと口食べてさらにびっくり!

「焦げていると思った部分は、カラメルの香ばしさとなって、チーズの酸味とほどよく合わさって、こんな不思議な味のチーズケーキ、食べたことない!って、衝撃を受けました。周りを見たら、みんなワインと合わせて食べていたので、ワインも注文して一緒に食べたら、これがまたものすごく合うんです」

バスクの旧市街。かのうさんが訪れたお店はスペインのサンセバスチャン旧市街にあるバル「ラ・ビーニャ」。今では「バスクケーキ発祥の店」として知られている。

日本でもこのチーズケーキをみんなに食べてもらいたい。かのうさんは、何度もお店を訪れ、その味を研究し、帰国後すぐに再現にとりかかった。

日本で手に入るあらゆるクリームチーズを取り寄せ、それぞれのクリームチーズに合った配合で試作を繰り返し、本場の味を再現するにふさわしいクリームチーズを探した。
たどり着いたのは、デンマーク産のクリームチーズ。焦げ部分の香ばしさとほのかな酸味を引き立ててくれるという。

かのうさんが作るチーズケーキは、どれもグルテンフリー。「息子が小麦アレルギーだったこと、大人の方でも小麦を食べることができない方がいると知って、誰でもおいしく食べることができるようにしたいと改良しました」

一番の特徴は黒く焦げた表面だが、もちろん、ただ焦がせばいいというわけではない。
温度が高いと、表面だけ焦げて中は生焼けになってしまうし、低温で長時間焼くと、中に火が入りすぎてしまう。どこから食べても深い味わいが生まれるよう、表面だけでなく、周りや底にも焦げ部分を作りつつ、中はしっとりなめらかな状態に焼き上げるのは、至難の技だ。
材料の配合、焼き時間、温度。徹底的に研究し、お店で食べた味を再現した。

「そして、やっぱりワインと合わせた時のおいしさが忘れられなくて。このバスクのチーズケーキは、日本酒にもとても合うんですよ」

完成から約10年。カオリーヌ菓子店は、店舗は構えず、オンラインで注文を受けて販売してきた。それゆえ、今でも、全国各地の催事やイベントに出店するとたちまち完売。チーズケーキ好きなら一度は食べてみたい、一目置かれた存在になった。

でも、チーズを追いかけるかのうさんの旅は、まだ終わりではありません。
後編では、かのうさんが伝えたい、おいしさの先にある「おいしさ」について伺いました。

かのうかおりさん
1975年長崎県壱岐市生まれ。チーズケーキ専門店「カオリーヌ菓子店」を経営しながら、「心で食べる、味わう」をテーマにワークショップや料理教室も開催。フードコンシャスネスインストラクターの資格を持つほか、東京日本橋のビルの屋上で開催されている〈庭とキッチンで学ぶ〉食育活動「エディブル・スクールヤード」のサポートメンバーとしても活動中。チーズだけにとどまらず、食に関するさまざまな活動を続けている。

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