心で食べる。思いを紡ぐ。カオリーヌ菓子店のチーズケーキ 《後編》
ちゃんと味わうって、生きるために必要なこと

取材の冒頭で、「『おいしい』で終わるのはつまらない」と話していたかのうさん。
現在、チーズケーキの製造・販売のほかに、全国各地でワークショップや料理教室を開催している。
その活動には、どんな思いが込められているのでしょうか。

構成・文:神武春菜
写真:穴見春樹、カオリーヌ菓子店

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「おいしい」が生まれるまでの風景を
一つ一つ、思い浮かべて

この取材の4日前、かのうさんは北海道のちょうど真ん中あたりに位置する東川町にいた。イベントでのチーズケーキ販売に合わせて、ワークショップを行うためだ。

「すべて北海道産の材料を使って、チーズケーキを作って食べたのですが、参加者のみなさんと共有したかったのは、チーズのおいしさだけではありません。もちろん、「おいしいね」って言って食べるのも幸せな時間だけれど、その「おいしさ」が生まれた過程を一つ一つ辿って、その風景を思い浮かべてもらうんです」

おいしいチーズを作るには、おいしい牛の乳が必要。
牛がおいしい乳を出すには、エサとなるおいしい草が必要。
おいしい草が育つには、豊かな大地と、恵の雨が必要——。

ワークショップでは美瑛放牧酪農場のチーズと生クリーム、卵は東川産の卵を使用した。「美瑛の景色を見た時、丘があって、牛がいて、わ〜フランスみたいだなって興奮しました」

そして、チーズ職人による、チーズ作りの作業を経て、ようやくチーズが完成する。かのうさんは、その作業をこんなふうに伝えたという。

「チーズには熟成期間があるのですが、『熟成』といっても、ただほったらかしにしている訳ではなくて、たびたび反転させなければいけません。塩水で表面をふいてあげなければなりません。
私は、その作業は、まるで子育てのようだなって思っていて。反転を繰り返すチーズの様子は、赤ちゃんの寝返りのようだし、表面をふくのは、体をそっとふいてあげるのと同じです。そうやってお世話することで、“チーズさん”の性格が生まれてくる。“チーズさん”の性格を作るのって、作り手さんの仕事なんですよって」

ワークショップで使用した美瑛放牧酪農場チーズの熟成期間は27ヶ月。「人間に例えたら2歳3ヶ月。イヤイヤ期の頃かな(笑)」

「緑や大地、職人さんのチーズへの思い……いろんなことを想像して、全てを感じながら『おいしかった』って感じてほしい。それは、チーズ文化を知ってもらうことでもあるし、自然や生産者のことなど、遠くの存在を考えてみることで、命のつながりや、循環について考えることができる。そのことを伝える活動をしているんです」

昨年、かのうさんは、フランスで発足したチーズ職人たちによる協会「ギルド・クラブ・ジャポン」から、チーズの製造者・販売者をサポートし、チーズ文化を発信する重要なメンバーの一人に選出された。

「日本には、チーズ文化がないんです」と、かのうさん。
でも、国産チーズは、近年、大きな広がりを見せているという。

「フランスのように、地方ごとに特徴の違うチーズがあるようなチーズ文化はありませんが、近年、国内のチーズ工房の数も増えて、日本ならではの個性的なチーズがたくさん登場しています。私は、その土地に伝わる伝統とか、食を通じて人と人がつながっていく、“文化”というものが好きなんです。だからこそ、チーズ職人さんの取り組みや、チーズ作りにかける熱い思いをワークショップなどで伝えていきたいと思っています」

自分の心で、ちゃんと味わう

かのうさんの活動は、チーズの枠だけにおさまらない。
3年ほど前から、主に自宅で子どもの料理教室を始めた。そこで大切にしているのが、料理を完成させることよりも、素材と対話する時間だ。

「作っている途中に、必ず、その日使った素材の話をします。例えばナスだったら、どんな色をしてる? ピカピカしてるかな、ゴツゴツしてるかな? などと言いながらさわってもらったり、出汁を使った実験をしてみたり。そうやって、素材のいろんな面を知ることができれば、それまで食べられなかった野菜を食べることができたり、初めて家でおかわりをしたと報告してくれたり、嬉しい変化が生まれるんです」

そして、子どもたちにいつも伝えていることがある。

「どんな味がしたか、どんなにおいがしたか、どんな手ざわりだったか。食べることに関して感じたことを話すとき、学校の授業のように1+1=2という正解はないからねって。あなたが感じたことが全て正解だよって伝えています。ありのままに表現すること。その感性は、自分の心でちゃんと味わうために、とても大切なことだと思うのです」

出汁入りの味噌汁・出汁なしの味噌汁の飲み比べをしたり、いりこ出汁・昆布出汁・鰹出汁を五感で味わったあと、それぞれをブレンドして、味わいがどう変化したかなどを発言してもらった。

かのうさんがワークショップや料理教室で伝えていることは、近年、注目されている「フードコンシャスネス」という食育の概念に通じているという。

フードコンシャスネスとは
「食べるもの」「食べること」「食べかた」という日常的な行為をきちんと意識し、食に対する自覚的かつ積極的な能動型姿勢を育むことです。それは食に真摯に向き合い学びの原点を知る、食育の基盤となる概念です。

フードコンシャスネス(味わい)教育とは
単なる味覚教育・栄養教育の食育ではありません。正解を求めない教育、価値観を押しつけない教育、自らの五感を研ぎ澄まし、それらをフルに活用して感じ・気づき・考えかつ心を育む人間教育です。

—— フードコンシャスネス研究所のHPより

かのうさんはこの概念に共感し、フードコンシャスネス研究所が主催している講座に通い、フードコンシャスネスインストラクターの資格も取得した。

「いいと思うだけじゃなくて、やっぱりちゃんと伝えていきたくて。どんな授業をすれば、五感で味わう体験をしてもらえるのか。ここで研究したことを、料理教室やワークショップで実践しています」

最近は、通信教育で心理学も勉強中だ。

「味って、食べる側の心の影響もすごく大きいと思って。それを深めるには心理学を一から学びたいって思ったんです。なんだか私、本当に食に関することばっかり考えていますね(笑)」

食が持つ可能性を信じ、どんな小さな興味の種も、まずは手をかけて育てていくかのうさん。
知りたい。伝えたい。
食文化への純粋な思いが、かのうさんの世界を広げていく。

子ども時代にこそ大事にしたい食体験

ワークショップや料理教室を通して、気づいたことがあるという。

栗を使った授業をしたとき、葉っぱを見せて、「これは何の葉でしょう?」と聞くと、大人はみんな、子どもの頃の記憶からたどり始めた。

〈そういえば、実家のそばに栗の木があったな〉〈おばあちゃんの家でよく食べてたなぁ〉〈一緒に栗を拾って遊んだあの子、元気にしているかな〉
食体験を通じて蘇る、幸せな思い出。

「授業が終わった時に、『生きることを感じられた時間でした』って言ってくれた方がいました。何を食べたかということだけではなくて、誰とどんなふうに食べたか。その体験があって今があるんだなぁって。だからこそ、思い出すとあったかい気持ちになるような、子ども時代の食体験につながるお手伝いができたらと思っています」

そして、こう続けた。

「味わうことは、生きたるために必要な、なくてはならない時間です。なんでも時短化できる世の中だけど、ちゃんと味わうにはやっぱり時間が必要だから。だからこそ、その大切さを伝えていきたいのです」

「おいしい」のまわりには、人を幸せにしてくれる時間や思いがあふれている。

かのうさんがつくるチーズケーキが、なぜ、からだに染みわたるようにおいしいのか。
改めてじっくり味わうと、その理由が分かったような気がした。

かのうかおりさん
1975年長崎県壱岐市生まれ。チーズケーキ専門店「カオリーヌ菓子店」を経営しながら、「心で食べる、味わう」をテーマにワークショップや料理教室も開催。フードコンシャスネスインストラクターの資格を持つほか、東京日本橋のビルの屋上で開催されている〈庭とキッチンで学ぶ〉食育活動「エディブル・スクールヤード」のサポートメンバーとしても活動中。チーズだけにとどまらず、食に関するさまざまな活動を続けている。

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